俺が過保護な姉の前から姿を消すまでの話

無花果

血縁関係

まずは初めに血縁関係について触れたと思うが、血の繋がりは無い。
この関係性を長く続けて行く内に誤解する人が続出していたので予め断りを入れておく事にする。
連れ子だの、そう言う複雑な家庭環境な訳でもなく、本当に元から赤の他人だと言う事を念頭に入れておいて欲しい。

それでまぁ、ここからは出会った当初の話になるが、姉は良くも悪くも人を引き付ける才能がある人だった。
本人はそれを言われても納得していない様子だったが、周りに人が途絶えた事が無い。
常に周りに人がいて、元々は俺もその中の一人で。

「弟、欲しかったんだよね」

いつからか姉の中での俺の立ち位置は“弟”の位置になって
その時は所謂この人のお気に入りのポジションに自分が来たんだと、面倒事にならなけらばこれは丁度いい等と考えていたがこの立ち位置を許した昔の自分を今では殴り倒したい。
人間と言うのは環境に順応する生き物で、最初は弟扱いに逐一訂正を入れていたが次第にそれも面倒になり、暗黙する様になった。
あの人の弟だから、お気に入りだから、確かにその肩書きは他者から自分を守ってくれるものにはなった。

「姉ちゃん」

ふといつの事だったかは忘れたが酔った拍子に呼んでみた。
本人には大好評だった様で、とても嬉しそうにもう一回、もう一回と強請られる様になったので流石に普段から呼ぶのは自重する様にした。
強請られるままに応じても面白くない。
面倒なのと、己の中にある意地がお預けと言う形で姿を現したがそれすらも好みのツボだった様で。

「よくラノベとかにいる生徒会長が自分の思い通りにならない主人公に“気に入ったぞ!”って熱を入れるでしょ、あれと同じだと思う」

友人に呆れた様に言われたその言葉は言い得て妙だった。
比較的何でも自分の思い通りになる環境下で生きてきた姉にはこんな態度を取る人間が近くにいなかった。物珍しさもあったのだろうが、これが益々気に入られる要因になるなんて思いもしなかったので物好きだなと思った覚えがある。

「姉ちゃんの言う事を聞くいい子でいてね」
「面倒」

そう言いつつもこの距離感、この立ち位置でいる事が姉にとって一番望んでる事なのは明白だった。

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