異世界スキルガチャラー

黒烏

降りしきる雨の中で 2

もしも、今の啓斗とルカを偶然目撃した人間がいたとして、その人間は恐らく彼らを人として視認できないだろう。
啓斗はまるで銃から放たれた弾丸のように疾走しており、そのスピードはもうすぐで音速に届きそうな程だ。
そんな超高速で走りに走って7秒後、啓斗とルカはその街に到着した。

「よし、予想より早く着いたな」
「速かったなぁ……」

啓斗とルカが街を見回すと、道路の舗装が所々剥がれて土が丸見えになっているのが分かった。
巨龍と化したルカが暴れ回ってから既に2日が経つ。
王城を中心に復旧作業は進んでいるが、まだ少し離れた街まで手が届かないほどの進行状況だ。
街の所々が一直線上に地面ごと吹き飛んでおり、その風圧で飛んだ家屋の一部が別の建造物に落下して二次被害を引き起こしている。
更に、同じくルカが発生させた地震の影響で木造家屋は全て崩落、レンガや石で造られている建物も6割が残骸と化していた。

「城の兵士の話だと、このレベルの被害が半径5kmのほぼ全ての街で発生しているらしい」
「そうなんだ……」
「ルカ、お前は何も悪くないし責任を感じる必要も一切無い。悪いのは俺だし、お前はむしろ被害者なんだから」
「でも、自我が無くなってたからって言い訳にはならないよ」

ルカが俯いてそう言ったと同時に、先を歩いていた啓斗が歩みを止めた。
思わず啓斗を見上げて表情を伺うと、かなり険しい表情で視線を左右に動かしている。

「ルカ、話は後だ。どうやら俺達はもう囲まれてる」

啓斗に言われて、ルカは体を一回転させて周囲を警戒する。
確かに啓斗の言う通り、全方向から無数の敵意に満ちた気配を感じ取れた。
ルカが気配を察知したのは天性の才能によるものだが、啓斗はスキルで発見しているのだ。


Rスキル【エネミー・センス】
スキル使用者の周囲にいるモンスターの気配を察知できる。
スキル効果半径(メートル)や察知の精度はスキルレベルに依存する。
現在:Lv4
半径30mまでの大まかな敵数を察知可能。


「ど、どうするの?」
「決まってるだろ、全員倒すだけだ。ルカ、危ないから下がってた方がいい」
「そんな言い方ないでしょ!私だって戦える!」
「武器も無いのにか?」
「あっ……だ、大丈夫! 何とかするから!」
「おい、本当に大丈夫か? とにかく、あんまり離れるなよ。守れなくなるからな」
「分かった!」

ルカの返事を聞くと、啓斗は指を銃のように構える。
そこにバチバチと音を立てながら電気が収束していく。

「まずは、ほんの挨拶と敵の炙り出しからだ。スキルの試し打ちも兼ねて、色々使おう」

啓斗は収束した電撃を、なんとなく気配が強かった方向へ適当に発射した。


SRスキル【ブリッツ・ストライク】
魔力を電気に変換し、指先に集約して放つ上級魔法。
耐性を上げたり防御していない人間に直撃すれば死に至る可能性も非常に高い。


放たれた電撃は、まるで光線のような形状に変貌して空気を貫いた。
そして、

「ギャアアアス!!」

という声ともに、何かが倒れる音がした。

「どうやら、上手く命中したらしいな。ルカ、離れるなよ」
「うん」

周囲を警戒しつつ電撃を発射した方向へ近づく。
雨の降りが激しくなってくるのを感じながら数メートル歩くと、地面に倒れ伏したを目にした。

「四足歩行の狼モンスター、か。ウォーリアウルフの進化前といったところか?」

啓斗は、電撃によって脳機能が一瞬で停止し、外傷無く死亡したオオカミを観察する。

「……偶然、頭に当たったか。もっと感覚を磨く必要がありそうだ」
『と言いましても、スキルレベルに依存しますから、感覚磨きは気休めですがねー』
「……そうか」
『あ、やっと反応してくれましたね』
「ん? もう用は無いから消えていいぞ」
『うわ、ひどい! 完全に厄介者扱いじゃないですか!』
「今、この状況でお前と雑談することになんの利益がある?」
『う、言われてみれば……確かに危険区域でフリートークというのも……むむむ』
「だから引っ込んでるか、戦いで「ナビゲーター」として仕事をしろ」
『分かりましたよぉ。無駄話しなければ良いんでしょう?』

ナビゲーターと話していると、ルカが大声を上げた。

「ケイト君、敵来たよ!」
「……予想通り過ぎて逆に困るな」
『えぇ、えぇ。仲間が一体やられて激昂した単細胞なモンスターがたくさん近寄ってきてますとも』
『しかも、このオオカミと同種のモンスターだけじゃなさそうですね。おやおや、オークやらデカいイタチやらもいますよ』
「どうするの?」
「決まってるだろ、コイツらは恐らく街を襲って食料や物品を奪うためにここに居る。全部倒す勢いで戦う」

そう言うと啓斗は、右手に鉄の剣を出現させた。


SRスキル【実剣召喚ブレイド・サモン
手元に実物の剣を1本召喚する。
召喚される剣は無駄な装飾がなく、幅広く武具に使われる鉱物「鉄」で精製された物。
重量は、スキル使用者が振りやすい重さに自動的に設定される。


啓斗はシーヴァたち双子の構えを思い出しながら、なんとなくで剣を構える。

「俺のスキルの実験台になってもらおう。覚悟はいいな?」
『言っても返事貰えないでしょうに。私はリアルタイムで状況をお伝えする係をしますからご安心を』

そのまま啓斗は近くにいた敵のうち一体に斬り掛かる。
更に激しさを増した雨の中、戦いが始まった。

「私も、なにか役に立たなきゃ……!」

ルカは啓斗の付近で敵を警戒してはいるが、やはり攻撃手段が無いために逃げ回るしかできない。
すると、近くの地面から「メキメキメキ……」という音が聞こえてきた。

「……木?」

音のした方向を見ると、ただ土が露出していただけの何も無い場所に、若木が生えてきていた。

(え、どういうこと? でもなんだろう、あの木から何かを感じる気がする)

ルカはその木に本能的な何かを感じ取り、走って近づいた。

「おいルカ、 何してる!」
「ちょっと待ってて!」

そのまま、生えてきた木に触れた。
表面に触った瞬間に若木は砕け散り、音を立てて崩れ落ちる。
そして木に触れていた手には、気づくと木でできた弓が一張りと矢が十数本入った矢筒が握られていた。

「もしかして、私がやったの? ……分かんないけど、これがあれば!」

矢筒の中から矢を1本引き抜くと、弓につがえて構える。
その眼光の鋭さは、獲物を狙う狩人そのものだった。

コメント

  • 黒音

    タイトル変えたんですね

    0
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