異世界スキルガチャラー

黒烏

ルカの中の恐怖

ナビゲーターが姿を消した後、啓斗は城の廊下をルカが現在居るという3階の病棟に向かって歩いていた。

(ナビゲーターの話では、超回復力を劇毒で一時的に「相殺」して、暴走状態では回復できないよう調整したらしいが……あの自称天使はどうにも信用し切れない部分があるからな)
(まあ、後々の面倒事については今は考えないようにするか。どうせこの世界に来た時点で厄介なことになるのは分かってただろ?)

微妙に自分と会話しながら階段を上り、3階に到着する。

(ええっと……?右だったか、左だったか?)
「右に進んで左手側に見える4つ目の病室よ。ほら、ボサっとしない」

少し考え込んでいた啓斗に後ろから話しかけてきたのは、左腕を包帯で巻いたゼーテだった。

「ああ、すまない。もう腕以外の怪我は大丈夫なのか?」
「まあね。幸運にも魔法薬の保管庫とかこの辺の病室、医者の人達もあの暴風の直撃を免れたのよ」
「お陰でこの粉砕骨折以外は綺麗に治ったわ。ま、腕も3日くらいで治るけど」

ゼーテはやや得意げに横目で啓斗を見ながら彼の右に並んで歩く。

「でも、シーヴァが……ね。ちょっと当たりどころ悪かったっぽくて」
「アイツもルカの隣の病室で寝てるわ。私はそっちメインで来た」
「優しい妹だな。俺の周囲の人間は俺が入院したって目もくれなかったぞ」
「バッ……何言ってんの!私が優しい!? アイツに!? ふざけてんの!?」
「そこまで過敏に反応すると、逆に疑いが強まるぞ?」
「ぐむぅ……」

ゼーテは顔を真っ赤にしながら黙ってしまった。

(やはり、ゼーテはシーヴァに対して何か特別な感情を抱いているらしいな)
(そうだ、ゼーテを【分析アナライズ】しておこう。仲間のステータスを知っておいて損は無いはずだ)

啓斗はそう考え、心の中で【分析】の使用を唱えた。


ゼーテ・ナイトブライト
種族  ヴァーリュオン人
Lv61(40)
HP:4000/4000
MP:1600/1600
P・ATK:C
M・ATK:A
DEF:C
DEX:B
SPD:B
LUK:D

魔法属性適正
火:B 水:B 風:B 土:B 光:S 闇:E 無:C

状態
【左腕骨折】
完治まで残り74時間11分29秒

特殊スキル
【魔力貸借(借人)】
検索エラー:もう一度読み込み直して下さい

固有スキル
破呪ディスペル銀眼シルバーアイ(借物)】
所有者の右眼に宿る魔眼の力。
発動すると射程範囲内に存在する全ての魔力を消滅させて無力化する。
射程範囲は所有者の前方から放射状に最大で前方100メートル。
12時間に2分までは体への負荷が少ないが、2分を超えるとHPを大量に消費する。
使用にMPは使用しない。


やはりかなりの力を有しているのが分かる。
しかし、所々にある「借」という字にもかなりの引っ掛かりを感じた。
レベルも61の隣に(40)とあり、なにやら謎をゼーテが持っているのが分かる。
しかしここは一旦黙ってルカの病室まで歩くことにした(どうやらこの「ステータス画面」は啓斗にしか見えないらしい)。

「ああ、ルカの病室ここね。じゃ、私は先にシーヴァん所行くから。また後で」
「分かった」

右手をヒラリと振ってゼーテは一つ奥の病室へと歩いて行った。
それを見送ったあと、啓斗はドアの前で1つ深呼吸すると、ノックをした。

「……どうぞー」

ドアに隔てられているので多少こもってはいるが、間違いなくルカの声だ。
どうやら、確かに回復しているらしい。
啓斗は中に入った。


「あ、ケイト君。来てくれたんだ」
「ああ、怪我はもう大丈夫か?」
「うん……怪我は、無いよ」

真っ白で簡素な服に身を包み、ベッドから上半身だけ起こしているルカ。
その体には、見たところ一切の切り傷や刺し傷、打撲痕、魔法によるダメージは見られなかった。

「ねぇ、どうして私はこんなに早く怪我が治るのかな?お医者さんが小声で「有り得ない」って言ったの聞こえちゃったんだ」

ルカはどこか遠くを見つめるような眼差しで啓斗の方を見ている。

「それもルカ、お前の才能だ。怖がることなんて何も無い」
「………でも、ゼーテさんが私を怖い目で見てたよ」
「それは…………」

今までのゼーテの行動や言動から推察するに、彼女は兄のシーヴァに何か異常なまでの執着があるらしい。
よって、その兄に重傷を負わせたルカに大なり小なり恨みを抱いてしまってもおかしくない。
そこまで思い至った啓斗は、背筋に寒いものを感じた。

「心配するな。何があっても、俺が必ず守る。もう、絶対お前から離れないから」
「………本当に?」
「本当だ。2回も誓ったんだ、絶対に破らない」
「……ありがとう。私、1人じゃ何も出来ないし、昨日みたいに、また、その、「暴走」しちゃうかもしれないから」
「でも、ケイト君といると、落ち着くんだ。だから、私もケイト君と一緒にいたい」
「うん、それがいい。これからはずっと一緒だ」

啓斗は出来る限りの優しい顔と声でルカに言った。
ルカも、表情がかなり和らいだ。

「ずっと、一緒。絶対に私を見捨てない?」
「ああ」
「もし、私がまた暴走しちゃったら?」
「その時は命を懸けて元に戻す。必ず」
「……先に、ケイト君が死んじゃったら、私」
「絶対に、死んだりしない。約束するよ、お前の呪いを解くまで、俺はお前を守るし、死なない」
「約束、だよ?」
「ああ、約束だ」

ルカはおもむろに立ち上がると、そろそろと啓斗の前まで歩み寄り、背中に手を回して胸に顔をうずめた。

「龍になってる時、ずっと怖かった。意識はあるのに、体は勝手に動いた」
「叫び声も、地震も、私の意思とは無関係に出たの。まるで、体を誰かに乗っ取られたみたいに」
「頭の中に声も聞こえた。「全部殺せ」「全部壊せ」「全部無くしてしまえ」って」

どんどんと涙声になってくるルカの言葉を、啓斗は黙って聞いている。

「そのうち、何も考えられなくなってきて、頭の中、「殺せ」と「壊せ」だけになって……」
「ゼーテさん達に、重傷を負わせた時、私、私……」
「私、「楽しかった」。今考えたら死にたくなるよ。あんな、酷いことを楽しんでたなんて!」

バッと啓斗を見上げたルカの顔は、涙でグシュグシュになっており、更に真っ青だった。
どうやら、心に深い傷を刻み込まれてしまっているらしい。

「ケイト君……私、どうしたらいい? 私、どうしたら……」

絶望に染まったルカを見つめ、啓斗はハッキリとこう言った。

「大丈夫だ。お前は、俺が絶対に守る。絶対に……絶対に、だ」
「ケイト君…………ありがとう」

そうしてルカはもう一度顔をうずめた。
その頭を優しく撫でながら、啓斗は【分析】を行使した。
啓斗の眼前、位置的にはルカのすぐ背後にステータス画面が表示された。


ルカ
種族  エルフ族(龍人族)
Lv30
HP:1000/1000
MP:500/500
P・ATK:D
M・ATK:C
DEF:F
DEX:B
SPD:B
LUK:E

魔法属性適正
火:D 水:D 風:B 土:C 光:D 闇:D 無:E

状態
【依存・強】
特定の人物と近距離にいないと様々なバッドステータスが自動発動する(恐怖・混乱・絶望など)。
逆に、依存対象と近くにいると能力が上昇することがある。
対象人物:藤崎 啓斗

【暴龍の呪術】
【〜龍変貌】スキル使用の際に、【龍力暴走】が非常に起こりやすくなる。

特殊スキル
【弓術の素養】
弓による攻撃の威力とクリティカル率、命中率が上昇し、弓の攻撃スキルを習得しやすい。

固有スキル
【地龍変貌】
HPが80%以下に下がると、全能力が大幅に上昇する「龍人状態」に変化する。
更にその状態でHPが50%以下になると「真龍状態」に変貌する。

*特殊状態のステータスを確認するには、変化後に再び能力を分析する必要があります*


一通りざっとステータスを見て、啓斗は表示を閉じた。
そして、未だ胸の中で泣いているルカの背中にそっと手を回す。
ルカが腕に込める力が強くなったのを感じながら、啓斗は彼女の背中を撫でた。

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