異世界スキルガチャラー

黒烏

大罪悪魔7柱

常夜とこよの孤島の中心、魔王城へ向かうための唯一の手段である石橋を渡るベルフェゴール。
すると、突然上空から轟音を立てて何かが降ってきた。

「ガッハッハッ、久しぶりじゃな小僧! どうじゃ、再開の記念に殴り合いでもするか!?」
「わっ、ビックリさせるなぁ。会っていきなり戦闘訓練は無いしょ? ねぇサタンさん・・・・・?」

ベルフェゴールがそう言う先には、1人の男性が立っていた。
その髪は既に白く染まっており、たくわえられた顎髭あごひげも真っ白。
顔だけを見れば、もう余生も短い老人と言える。
しかし、注目すべきはその肉体である。

「サタンさんまた鍛えすぎ。その鎧何キロあるの?」
「カッカッカッ!なに、たったの500キロじゃ!全盛期の4分の1にもならんよ!」

サタンさんと呼ばれたその老人は、非常に身長が高く体格が良い。
彼は「7柱」の1人「憤怒」を司る悪魔だ。
鉄が磨かれた時に生じる「金属光沢」でピカピカと輝く鋼鉄の鎧を身につけている。
更に最も目を引くのは、彼が右手に持つ鞘に収まった巨大な剣である。
ベルフェゴールが約165cm、サタンが195cmほどなのだが、この剣は2mを超えている。

「なんでしたっけ、その剣。確か、滅茶苦茶強くて刃出せないんだって聞いたけど」
「まあな。この剣は、流石のワシも本気を出さねば鞘から抜けんのだ」
「ねぇ、お手合わせは後でいいでしょ?早く玉座の間に行かないと」
「むう、仕方ないのう。では、謁見の後まで待ってやるとするか」

そう言うとサタンは巨剣を肩に担ぐと魔王城へと走っていった。

「……元気なお爺さんだね全く。先に行ってルシファーとまた喧嘩しなきゃいいけど」
「あーあ、歩くのだるくてマモンにも置いてかれちゃったし、いつもの出すかぁ」

ベルフェゴールは、魔法で布団を作成してその上に飛び乗った。

「いやぁ、やっぱ移動にはコレだよねー」

そのまま魔王城に飛んでいこうとすると、ゴボゴボと海面が波打つのが見えた。

「げっ……やっぱりもっと早く行くべきだったかな」

そして海面に水柱が立ったと思った瞬間、背後から思い切り抱きつかれた。

「わ、レヴィちゃん、いきな……んう……!?」

顔を確認しようと後ろを振り向くと、いきなり唇を塞がれた。
更に口内に侵入してこようとする舌を歯で無理やり拒みながら、体を離す。

「ち……窒息するからやめて……あと、すごい全身が濡れるからやめて……」
「えー?会ったの20年振りなのに、恋人にキスしちゃダメなの?」

その少女は、名前をレヴィアタンと言う。
七つの大罪の1つ「嫉妬」を司る「7柱」の1人だ。
しかし、「嫉妬」となって手に入れた能力はもう数百年使っていない。
理由は、自分が好きになった人物が「浮気」の可能性も「モテる」可能性も0な人物だったからだ。

「はぁ、そっちが勝手に言ってるだけでしょうに。僕は一度も認可してないってば」
「もう、さっさと諦めればいいのに。貴方に恋心抱く人なんて私以外いないんだから」
「僕は恋愛自体に興味無いって何回言えば良いのかな?レヴィアタン! マジいい加減にしなよ!!」

レヴィアタンの外見の説明もしておこう。彼女は11、2歳ほどの少女の見た目をしているのだが、彼女が怪物であるという証明もその体にしっかりとある。
両腕両足にヒレが付いており、指の間には水かきがある。
腰からは濃い青色をした尻尾が伸びており、先端から水滴が滴り落ち続けている。

「もう、冷たいんだから!あと、私を呼ぶ時は「レヴィちゃん」以外なら「レヴィアタン」じゃなくて「レヴィアたん」にしてって言ってるでしょ!」
「知らないよ!そんなイントネーションなんか!しかも、僕より年上のくせして「たん」なんて……うがっ!?」

年齢の話をした途端に背中をどつかれた。

「ほーら、早く魔王城行ってよ!そのために乗ったんだから!」
「……全く、これだから7人集合は嫌いなんだ」

後ろにレヴィアタンを乗せたまま、魔法の布団は魔王城へと飛んだ。












「あら、誰かと思ったら。お久しぶり、マモン」
「そっちも元気そうね、アスモデウス」

魔王城内部。王の間の扉の前で2人の女性が言葉を交わしていた。
一方は一足先にここまで辿り着いたマモン。
そして、同じく「7柱」の1人である「色欲」のアスモデウスだ。

「なんていうか……前会った時より服装が煽情的せんじょうてきになったんじゃない?」
「そうかしら?貴女のドレスも中々だと思うけれど?」

アスモデウスは、見た目は20代前半の美女である。
服装……と言っても、ほぼ服を着ていない。
簡単に言うと、下着のみしか身につけていないのだ。

「う……うう……」
「ちょっと、椅子は喋っちゃダメよ。もっと行儀よく仕事しなさい」

ちなみにアスモデウスは、四つん這いになっている男性2人の上に座っている。

「男の肉体を支配する……やっぱり怖い能力ね」
「うふふ、褒めてくれて嬉しいわぁ。ねぇ、イイオトコ見つけた?貴女なら誰か見つけてそうだけど」
「その話なんだけど、多分今回の謁見の議題になるわ。その時じっくり話すから楽しみにね」

それを聞くと、アスモデウスは口の両端を吊り上げて舌舐めずりをした。











「おや、随分久しいな。脳筋の老いぼれ」
「フン、お主も変わっとらんな。無駄にピカピカギラギラしおって。そんなに人の目が怖いか?」

魔王城の廊下、ルシファーとサタンは鉢合わせの形で顔を合わせた。

「ほう、歳を重ねても賢くはならなかったと見える。今直々じきじきに私が始末してやってもいいぞ?」
「はっ、よく言うわい。貴様のような臆病者にワシが倒せるとでも?失笑すら出んわ」

廊下の空間数メートルを挟んで火花を散らす両者。
数秒の睨み合いの後、サタンが剣に手をかけ、ルシファーがステッキを前に向けた瞬間。

「ちょーっと待ったー!!」

ルシファーの背後から叫び声がする。
聞き覚えのある声に、二人とも臨戦態勢を解いた。

「親分も爺さんも、ここで喧嘩はマズイですって。怒られても知りませんよ?」
「……そうだな。ベルゼブブ、いいタイミングで来てくれた。さすが我が部下だ」
「ちっ、1対2じゃが悪いわい。ワシは先に行くぞ」

サタンは剣を担ぎ直すと、王の間に歩いていった。

「ふん、相変わらずいけ好かないジジイだ」
「でも、親切にすればたまにめしおごってくれますよ」
「やれやれ。力量が拮抗きっこうしているとはいえ、お前はあくまで私の部下なんだ。のらりくらりし過ぎるなよ」
「了解です。じゃあ、後でいつもの頼みますね」
「お前も相変わらずだな。甘党め」
「二ヒヒ………」

今、ルシファーと会話をしている男の名はベルゼブブという。
「7柱」の1人であり、「暴食」を司る。
おもあるじとしているのはルシファーで、基本的に彼の命令に従って行動する。
ただし、超高級な食事や菓子が報酬の場合は他の悪魔の頼みでも引き受けるため、やはり誰かの配下であるという雰囲気はない。
腕は確かなので、面倒くさがりのベルフェゴールや、自分の時間が沢山欲しいアスモデウスなどはこの男に約6割の仕事を依頼している。

「食事に関してだけはマモンより強欲だな」
「そりゃ、出来るだけイイもん食いたいですから。俺は、飯のためだけに仕事してるんですよ」

そんな会話を交わしながら、ルシファーとベルゼブブも王の間へ向かった。

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