異世界スキルガチャラー

黒烏

P.M.10~11時(ルカ) ひとりぼっちの末妹

「キャアアアアアアアア!!!」

ゼーテがドアを斬りつけて何も起きなかったことに驚いた直後、ルカは突然飛んできて顔を掠め、壁に刺さったナイフに絶叫していた。
しかも、そのナイフが変形し始める。ナイフは瞬く間に斧に姿を変え、またルカに向かって飛んできた。
危ういところで斧を回避したルカは、全力で2階への階段を駆け上がる。

「……!? ルカ!? ルカ、大丈夫!? ルカ!?」

下からゼーテの声が聞こえるが、それに返事をしている暇すらない。
斧は、剣、槍、銃弾と姿を変えながらルカに襲いかかってくる。
全てを間一髪で避けながら、手当たり次第にドアノブを回しまくる。
西側のドアのひとつが開いたので、そこに飛び込んでドアを閉め、そのまま走る。
ドアの奥は長い廊下になっており、先は暗くてよく見えない。
だが、進む以外の選択肢も無い。暗い廊下を突き進んでいると、天井からクモやら血液やらが降り注いでくる。
それにもありったけ叫びながら全力疾走していると、突然目の前の床が開き、落とし穴が現れた。

「え、まっ………」

ブレーキをかけきれなかったルカは、そのまま穴に落下していった。


「反応すげぇな。初歩的なやつでここまで驚いた人間初めて見たぜ」

ルカが落下した穴を、ソルレイク家次男、ユーリはニヤニヤしながら見ていた。

「さあ、マリー。久しぶりの遊び相手だぞ」




「痛ったぁ……もう、どうなってるのよこの家!」

1階に落とされたルカは、見事に尻もちをついた格好になっていた。
痛む尻をさすりながら立ち上がり、周りを見回す。
どうやら、子供部屋に落とされたらしい。しかも女の子の部屋のようだ。
人形やおままごとの道具と思わしき物が散乱している。
普通に見れば可愛い部屋のはずなのだが、先程までの恐怖と、薄暗い部屋の雰囲気が相まって得体の知れない恐ろしさを感じさせる。
早く逃げようとドアノブに手をかけた瞬間、

「ふぁぁぁぁ……むにゃ、んん……」

部屋にあるベッドの中から声がした。
思わず振り返ると、電気まで点いた。

「……おねえちゃん、だあれ?」

ベッドの中には、5、6歳であろう小さな女の子がおり、上半身を起こしてこちらを見ている。
その肌は陶器のように白く、もし部屋の真ん中にちょこんと何も言わずに座っていたら、等身大の人形と言われても疑問が浮かばないくらいだった。

「ご、ごめんね、起こしちゃって。すぐ出るから……」

少女から何か嫌なものを感じたルカは、急いで部屋を出ようとする。
しかし、突然ドアノブが回らなくなり、ドア自体が押しても引いても開かなくなった。

「ドア、あかないの?」

少女がベッドから降りてトコトコと近づいてくる。

「だ、大丈夫!寝てていいよ!」

ルカは今にもドアに蹴りを入れ始めそうだ。

「おねえちゃん、みててー。えいやーっと」

少女がドアに触れて何やらおまじないのようなことをすると、ドアはいとも簡単に開いた。

「すごいでしょー。わたし、まほーがつかえるんだよー!」

開いたドアをポカンとしながら見つめるルカに、少女はこう言った。

「ねえ、おねえちゃん、わたしとあそんでくれない?ずっとひとりぼっちだったの」

裾をギュッと握られ、潤んだ瞳で見つめられる。
ルカは、少女の言葉に嘘はないと思った。そして、彼女と一緒にいればどこかでゼーテと合流できるかもしれない。

「いいよ、遊ぼう」

ルカがそう言うと、少女の顔色はパァッと明るくなる。

「ほんと!?やったー!おねえちゃん、いい人だね!」
「おにいちゃんたちも、おとうさんも、おかあさんも、ずっとあってないの」

そのままトテトテと部屋を走り回る。

「わたし、マリー。おねえちゃんは?」
「私はルカ。宜しくね、マリーちゃん」

笑顔で自己紹介を済ませると、マリーはそこら中に散らばったおままごとの道具を宙に浮かせ、一箇所にかき集めた。

「じゃあ、おままごとしよ?おねえちゃんはだれのやくがいい?」

おもちゃのフライパンを振り回しながら、マリーは可愛い笑顔でそう言った。
ルカは、少し自分の選択を後悔した。



30分後。
「たのしかったー。おねえちゃん、ありがとう!」

おままごとを終えたマリーは、キャッキャッと無邪気に騒いでいる。

(おままごとには特に変なことは無かったけど、所々で物が浮いてたから……)

ルカは表面上は笑顔を作ってはいるが、マリーに対して警戒を強めていた。

「じゃあ、おねえちゃん。次は……」
「おにごっこしよう?マリーがオニだよ?」

その瞬間、マリーの体に黒い何かがまとわりつき始める。

「10かぞえるからはやくにげてー」
「いーち……にーい……さーん……」

マリーが1つカウントするごとに、影が濃くなっていく。
ルカは、開けっ放しだったドアを飛び出し、廊下を全力で駆け出した。



「きゅーう……じゅう!」

カウントが終わった時、マリーの周りでは怪奇現象が起きまくっていた。
周りの物は宙に浮き、電灯はショートし、床や壁には無数の傷がつき始める。

「わぁ、おねえちゃんって足がはやいんだね。でも、マリーのほうがすごいんだからー」

マリーは、壁をすり抜けて・・・・・・・ルカの追跡を開始した。


「イヤァァァァァァァァァァ!!!」

走りながらルカは、またも恐怖体験をさせられていた。
鏡の中から手が現れたり、中身のない鎧に追われたり、いきなり現れたナイフ持ちのピエロにも追い回された。

「もう……無理、走れな……」

廊下の隅に座り込んでゼェゼェと息を切らす。

「みーつっけた」

その声には聞き覚えがあった。

「マ、リーちゃん……」

廊下の向こう側に、体中に禍々しい雰囲気の影を纏わりつかせたマリーが立っていた。

「つかまえちゃうぞー!」

マリーがさっきと変わらないトテトテとした足取りで走ってくる。
ルカは、咄嗟に1番近くにあったドアを思い切り蹴った。
ドアが勢いよく開き、中に飛び込む。
そこは、魔法陣が床と天井に描かれた不気味な部屋だった。
取り敢えずドアを閉め、そのまま背中を預ける。これでドアからは入ってこられないだろう。

「つーかーまーえーた!」

だが、マリーは既に部屋の中にいた。しかも、ルカの足をがっちり掴んでいる。

「わたしのかちだね。じゃあ、つぎはかくれんぼしよー?」

すると、部屋の天井と床に描かれていた魔法陣が輝き始める。

「わあっ! ひかってるよ! すごいすごーい!!」

マリーに腕を掴まれ、グイグイと引っ張られる。その力は、小さな少女のものでは無かった。
圧倒的な力に抵抗できず、ルカはマリーと同時に魔法陣に脚が触れる。
その瞬間、2人の体は魔法陣の中に吸い込まれて行った。


ゼーテがジョンと一緒にこの部屋に来る3分前のことである。

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