スキルを使い続けたら変異したんだが?
第十話 料理スキル
しかし、そこまで料理スキルが上がったところでわかったことがあった。
料理を食べたあと、その前までの疲労感が少し和らいでいることに俺は気付いたのだ。
ゲームのやりすぎによるものかと勝手に考えていたのだが、どうやらシステム上に設定されていたもののようだ。
そしてそれを回復させる効果が料理にはある。
そう考えれば、ゲーム上でただの嗜好品だと思われていた料理が生活スキルの分類に入っていたのも頷ける。
ただ、食べられる量に限度があるのか一定の量で満腹感を覚え、口に入れられなくなる。
料理の出来によって疲労感の回復量も変わるのだろうが、現状のレナの腕では完全に回復できる料理を作るまでどれぐらい掛かるか……。
チラリと横に目をやる。レナと視線がぶつかる――が、彼女の方からズラしてため息をついた。
「はあ……。やっぱり、まずかったんだ」
聞き捨てならない言葉だった。
「やっぱり……って、まさかお前気付いていたのか?」
「うん」
いつも勝ち気な彼女らしくなく、顔に影を落としてトボトボと歩を進める。
どこか声もしおらしい。
「ほら、初日にカミシロ君の獲ってきた兎肉の焼き加減間違っちゃったでしょ?」
加減という枠に収まるかは疑問であったが、様子の違う彼女に俺はただ頷いた。
「ああ」
「失敗したことはわかってたんだけど、夜遅くまであなたが頑張って獲ってきたものだったし、言い出せなくて途方に暮れちゃって。
でも、いつまでも待たせる訳にもいかないし、怒られること覚悟で皿を出したの」
だから、調理から皿が出てくるまでに一時間も掛かったのか。
しかし、そんなことを気にするなんて意外に女の子らしいところもあるな。
俺が彼女の中の印象を改めていると、でも、とレナは続けた。
「あなたは何も言わずに全部食べてくれたじゃない?
そのあとの料理もずっと。だから、カミシロ君ってすっごい味音痴なのかなって」
そんな誤解をされていたのか。
でも、最後の方はともかく、最初の料理は味音痴でも匙を投げると思う。
「まずいならまずいって、残してくれればよかったのに……なぁーんて、そんなことができるような人なら私を助けてないか」
どう答えていいかわからず、戸惑う俺を見て彼女は口元をほころばせた。
「――そういうところが、好きなんだろうな」
彼女の言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になる。
す、好き? 好きってあの好き?
ま、まさか俺にもついに春が? これが噂に聞く、リア充ならぬネト充という奴か……⁉
返答はどうする? 俺もだよ、とでも言えばいいのか、断る理由はないしな。
……いや、まて落ち着け俺。
そもそも今のは告白なのか?
大体、好きと言っても色々ある。下手に浮かれてあとで落差ドーンっていうのは現実じゃなくてもきっと辛い。
友達として好きという意味かもしれない。いや、きっとそうだ。
こんな焦土で告白をする乙女がいると思うか? いや、いない。
でも、レナの性格ならあり得なくも……。
「ほら、早くクエスト終わらせて帰ろう。
今日こそ美味いって言わせるんだから」
俺を葛藤の渦に放り込んだ張本人は、そう悪戯に笑って先へ行ってしまう。
とりあえずこのことは頭の片隅において、俺も彼女のあとを追っていった。
「うーん、すごい絶壁ね。どうしようか」
今にも崩れてきそうな切り立った崖を前に、レナがこちらを見た。
実際に下まで来てみると、頂上までかなりの高さがある。掴むところは無いわけではないが、地道に登っていくのは先が思いやられる。
だが、俺は特に不安を感じてはいなかった。
「ちょっと見ててくれ」
俺は十メートルほど下がり……、一気に足を踏み込む。
一歩で崖の目前まで迫り、そのまま突き出た小さな岩を足場に壁を駆け上がっていく。
五分の一ほどまで差し掛かったところで方向を変え、下へ降りていく。
ある程度の高さで飛び降り、レナの近くに着地した。
「おおっ」
思わずという様子で拍手する彼女へ、俺は得意げに笑みを向ける。
「敏捷値が高ければ、こういう壁や木のオブジェクトを登れるみたいなんだ」
狩猟の最中、どれだけ速く走れるか試していた時に偶然見つけた小技だった。
その技を駆使して、俺とレナはまるで忍者のように崖を駆け上がっていく。
「疲れたけど、すっごい楽しかったね。
おお、本当にここまで道具を使わずに来たんだ」
崖の上まで登り立ち、レナが言葉通り興奮した様子で背後を振り返る。
真下。さっきまで俺たちが立っていた場所が豆粒ほどに見えた。
剣士のクラスではなさそうなレナの敏捷値が足りるかどうか心配だったが、レベル50だけあってどうにかなったようだ。
「さて。じゃあ、行くか?」
俺が森の奥を示す。
崖上の森は、下とは違って毒々しそうな木々で溢れていた。
不気味に蠢く紫の花々や茨は、触れただけでステータス異常を起こしそうに見える。
「…………、」
しばし無言でその光景を眺めたレナは、不意に杖を抜いた。
ああ。やっぱり彼女も女の子なんだな。
そうしみじみと思い入る中、一方的な蹂躙が繰り広げられていった。
料理を食べたあと、その前までの疲労感が少し和らいでいることに俺は気付いたのだ。
ゲームのやりすぎによるものかと勝手に考えていたのだが、どうやらシステム上に設定されていたもののようだ。
そしてそれを回復させる効果が料理にはある。
そう考えれば、ゲーム上でただの嗜好品だと思われていた料理が生活スキルの分類に入っていたのも頷ける。
ただ、食べられる量に限度があるのか一定の量で満腹感を覚え、口に入れられなくなる。
料理の出来によって疲労感の回復量も変わるのだろうが、現状のレナの腕では完全に回復できる料理を作るまでどれぐらい掛かるか……。
チラリと横に目をやる。レナと視線がぶつかる――が、彼女の方からズラしてため息をついた。
「はあ……。やっぱり、まずかったんだ」
聞き捨てならない言葉だった。
「やっぱり……って、まさかお前気付いていたのか?」
「うん」
いつも勝ち気な彼女らしくなく、顔に影を落としてトボトボと歩を進める。
どこか声もしおらしい。
「ほら、初日にカミシロ君の獲ってきた兎肉の焼き加減間違っちゃったでしょ?」
加減という枠に収まるかは疑問であったが、様子の違う彼女に俺はただ頷いた。
「ああ」
「失敗したことはわかってたんだけど、夜遅くまであなたが頑張って獲ってきたものだったし、言い出せなくて途方に暮れちゃって。
でも、いつまでも待たせる訳にもいかないし、怒られること覚悟で皿を出したの」
だから、調理から皿が出てくるまでに一時間も掛かったのか。
しかし、そんなことを気にするなんて意外に女の子らしいところもあるな。
俺が彼女の中の印象を改めていると、でも、とレナは続けた。
「あなたは何も言わずに全部食べてくれたじゃない?
そのあとの料理もずっと。だから、カミシロ君ってすっごい味音痴なのかなって」
そんな誤解をされていたのか。
でも、最後の方はともかく、最初の料理は味音痴でも匙を投げると思う。
「まずいならまずいって、残してくれればよかったのに……なぁーんて、そんなことができるような人なら私を助けてないか」
どう答えていいかわからず、戸惑う俺を見て彼女は口元をほころばせた。
「――そういうところが、好きなんだろうな」
彼女の言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になる。
す、好き? 好きってあの好き?
ま、まさか俺にもついに春が? これが噂に聞く、リア充ならぬネト充という奴か……⁉
返答はどうする? 俺もだよ、とでも言えばいいのか、断る理由はないしな。
……いや、まて落ち着け俺。
そもそも今のは告白なのか?
大体、好きと言っても色々ある。下手に浮かれてあとで落差ドーンっていうのは現実じゃなくてもきっと辛い。
友達として好きという意味かもしれない。いや、きっとそうだ。
こんな焦土で告白をする乙女がいると思うか? いや、いない。
でも、レナの性格ならあり得なくも……。
「ほら、早くクエスト終わらせて帰ろう。
今日こそ美味いって言わせるんだから」
俺を葛藤の渦に放り込んだ張本人は、そう悪戯に笑って先へ行ってしまう。
とりあえずこのことは頭の片隅において、俺も彼女のあとを追っていった。
「うーん、すごい絶壁ね。どうしようか」
今にも崩れてきそうな切り立った崖を前に、レナがこちらを見た。
実際に下まで来てみると、頂上までかなりの高さがある。掴むところは無いわけではないが、地道に登っていくのは先が思いやられる。
だが、俺は特に不安を感じてはいなかった。
「ちょっと見ててくれ」
俺は十メートルほど下がり……、一気に足を踏み込む。
一歩で崖の目前まで迫り、そのまま突き出た小さな岩を足場に壁を駆け上がっていく。
五分の一ほどまで差し掛かったところで方向を変え、下へ降りていく。
ある程度の高さで飛び降り、レナの近くに着地した。
「おおっ」
思わずという様子で拍手する彼女へ、俺は得意げに笑みを向ける。
「敏捷値が高ければ、こういう壁や木のオブジェクトを登れるみたいなんだ」
狩猟の最中、どれだけ速く走れるか試していた時に偶然見つけた小技だった。
その技を駆使して、俺とレナはまるで忍者のように崖を駆け上がっていく。
「疲れたけど、すっごい楽しかったね。
おお、本当にここまで道具を使わずに来たんだ」
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真下。さっきまで俺たちが立っていた場所が豆粒ほどに見えた。
剣士のクラスではなさそうなレナの敏捷値が足りるかどうか心配だったが、レベル50だけあってどうにかなったようだ。
「さて。じゃあ、行くか?」
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