家族に愛されすぎて困ってます!

甘草 秋

47話 伊藤さんが知ってしまった事



ーそれから1週間後

「いい?いっせーので見せ合うのよ」
「はいはい」

 放課後に文化祭の準備を終えた俺は伊藤さんとある勝負をしていた。
 テストが終わって1週間が経つ。仕事が早い教師は、テストが終わったその日に丸つけ、採点を終わらせており、次の日にはテストを返す。
 1週間が経った今では既に全科目が返されており、順位表まで配られていた。
 俺は、その順位表が配られる前から伊藤さんに勝負を申し込まれていた。その勝負とは、無論テストの順位だ。二人とも自分の順位はまだ把握していない。配られた時点では見ずに、放課後にせーので見せようと言われたからだ。
 伊藤さんの表情には余裕が見える。自信満々のご様子だ。

「なんか、俺までドキドキしてきたわぁ」
「お前は関係ないだろ」

 2人の勝負を見守るのは馬鹿だけどイケメンの亜紀斗だ。

「いくわよ。せーのっ!」

 一斉に公開される順位表。

「......どうして......どうしてよ!」
「すげーな春鷹」

 僅差で俺が1位、伊藤さんが2位だった。

「何で......また2位なの......あなた、一体どうゆう勉強法を習得してるの......?」
「いや特には」
「嘘はやめなさい!」
「えー......」
「私は今回の期末テストにどれだけの時間を費やしたと思ってるの!?好きなゲームも我慢して勉強し続けたのよ!」
「へぇ、伊藤さんもゲームするんだ」
「そ、そんなのは関係ないでしょ!」

 てっきりガリ勉の人とかはゲームとかテレビとかの関わりは一切ないかと思ったけど、偏見だったな。
 それより、伊藤さんがゲームか......気になるな。

「それは俺も興味あるな!」

 俺と一緒で亜紀斗も気になっていたらしい。

「だから関係ないって言ってるでしょ!」
「えーいいじゃんかー。教えろよぉ」
「教えろよー」
「いやよ」
「ケチだなー」

 まぁそんな問い詰めるような話でもないか。
 伊藤さんも嫌がってるし無理には聞かないでおこう。

「なんかゲームしたくなってきたな」
「え?」
「ちょっと1ゲームやっていい?」
「何言ってるの?駄目に決まってるでしょ」

 伊藤さんの言い分を無視して俺はスマホを取り出し、ゲームアプリをひらいた。

「ちょっと!?話聞きなさいよ!」

 もちろんこれも無視する。
 ひらいたのは、いつも家でやっているバトロワゲームだ。
 最近はテスト期間やらなんやらで全然プレイ出来ていなかった。腕がなまってるかもしれない。

「くそー、みんな上手いなぁ」

 あっけなく敵にやられてしまった。
 このゲームも日本では大人気になり、プロゲーマーなどもいるほどだ。

「まったく、どうしてこう男子は」
「春鷹俺にも見せろよ〜」

 亜紀斗は春鷹のプレイを後ろで楽しそうに見ている。

「本当に、呆れるわ......」

 でも、本当は伊藤さんは気になっていた。春鷹がどんなゲームをしているのか。どういうプレイングをしているのか。
 もしかしたら、自分と同じゲームしているんじゃ?ものすごく気になっていた。
 そろりそろりと春鷹に近寄り、恐る恐る携帯を見る。

「あ......」

 春鷹がやっているゲームは自分もハマっているゲームだったのだ。

(近衛君も私と同じゲームやってるんだ......)

 伊藤さんは少し感動していた。同士がいた事に。
 そして、春鷹のプレイヤー名を見てしまう......。

ーー[ハタ]

「え......?」

 伊藤さんの頭にクエッションマークが浮かぶ。状況を理解出来ていない。
 春鷹のプレイヤー名は[ハタ]。これは見間違えない。では、自分の知っている[ハタ]なのだろうか。
 自分の知っている[ハタ]というのは、伊藤さんがこのゲームを通して知り合ったプレイヤーの事。最近一緒にゲームをやるようになり、妙に親近感があった人。その人なの?

(な、何かの間違いだわ。きっと)

「へぇ面白そうだな。俺も始めてみようかな」

 俺がプレイしているところを見て、亜紀斗も気になったようだ。

「いいじゃん。今度一緒にやろうぜ」
「おう!他に一緒にやってるやつとかいないのか?」
「あー割と最近だけど、カズ・・っていう人とこのゲームで知り合って、一緒にやったりしてる」
「!!」

 伊藤さんの肩がビクリと動いた。

「おいおい、また女かぁ?懲りないなぁ、まったく」
「ば、ばか!男だよ!チャットでしか話したことないけど、多分そうだよ」
「本当かぁ?」
「?......伊藤さんどうした?」

 伊藤さんの顔は真っ赤になっていた。

「え!?な、なんでもありません!えーと。もう用は済んだので私は帰ります!」

 そさくさと帰りの支度始めた。

「え?あ、ああ、うん。また明日」
「また明日!」

 何故だか目を合わせてくれない。

「じゃあな〜」

 伊藤さんは早足で教室を後にした。

「何だったんだ?」
「さぁ?」
「......俺達も帰るか」
「そうだな」


 伊藤さんの初恋が始まるーー


 

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