貴族に転生したけど追放されたのでスローライフを目指して自前のチートで無双します
大進行⑬
アルトにタオルを手渡しながら言う。
「いえ、貴方のおかげですよ」
「そうだな」
謙遜をせずに認める彼は、それほどの力を自負しているのだろう。
長い年月をかけて培ってきた自身の術に。
彼は、一見ではアルトと殆ど歳が変わらぬような見た目をしているが、実際は103歳という超高齢だ。
一昔前、戦場で剣聖として活躍してきた彼は、老後師となることも無く今いる森奥に隠居した。
だが、国王の代変わりのあと、今の国王がどこかで手に入れた ''秘薬''を使って若返らせたのだ。
この秘薬と呼ばれるものは、世界樹と呼ばれる大木からごく稀に抽出される樹脂であり、その養分により身体が若返るものだ。
世界樹は龍種の長 龍王、森魔族の長ハイエルフが守護しているものである。
つまりは、人間では到底手にいらることの出来ないものだ。
だが、どういう訳だか国王はそれを可能とした。
これは、未だアルトも理由をわかっていない。
そんな特別な師から剣術を教わったアルトは、以前より無駄のない、スキルに頼りきらない戦闘スタイルを確立できた。
たったの2週間で。
だが、未だに純粋な剣術勝負でアルトがハヴェに勝利を収めた事は無い。
だが、魔法を使用した場合は別だ。
ハヴェは、剣術には特化しているものの魔法に置いては素人に毛が生えた程度、身体強化魔法、中級程度(魔法ランクで言うD〜B)のものしか使用できない。
それも、適正属性は1つだけである。
故に、アルトが全力で……つまり、魔法をフル使用した場合、ハヴェでは手も足も出ないのだ。
魔法師が1人で生き抜いていくことは困難、剣術士ならばそれが可能であり、単体での戦力は高いものの、パーティーを組んだりする場合、集団戦闘に置いては、遠距離から高火力の魔法を放つ魔法師は剣術士にも優る。
つまりは、場所と場合によるのだ。
だが、それ1人でまかなえるアルトが相手になった場合、勝てるものはいないだろう。
「それにしても、本当に強くなったな。ここに来たばかりの時は、てんでダメだったのに」
「優秀な師をもてて、私は幸せですね」
上品にクスリと笑うようにアルトがそう答えると、ハヴェは何が面白いのか、腹を抱えながら大笑いをした。
「フフっ、フハハッ! 気持ち悪いぞ、アルト」
目に浮かんだ、笑い涙を拭いながらアルトの肩を叩くと、先程までの上品な態度を改め、取り繕う事の無い、すの表情で薄ら笑いを、アルトは、浮かべる。
「茶番が過ぎたな、先生」
「過ぎすぎだよ、対応が甘過ぎて砂糖を吐くかと思ったわ」
「そうか……砂糖を吐いてもらいたいものですね、我が師よ」
アルトは、また取り繕ったような態度になると、少し屈んでハヴェの手を取り言う。
「巫山戯るな、気持ち悪い」
コツンとアルトの頭を叩くと、大きく伸びをする。
「戻るか」
「おう」
アルトは、タオルを首にかけるとハヴェと共に家に戻った。
「どうだ、あの刀の使い心地は」
「最高だよ、重さも丁度いいし」
それに……と続ける。
「能力の使い勝手が良い」
道中、ハヴェはアルトに尋ねる。
アルトは、その刀をアイテムボックスから取り出し少しだけ抜きながら言う。
あの刀は、ハヴェから貰ったものだ。
と言うより、ハヴェから貰った魔鉱石を使って、アルト自ら作ったものだ。
この世界には、魔鉱石という鉱石がある。
これは、洞窟の奥深く、地中の奥深くなどで稀に採掘出来るもので、この鉱石に魔力を流すと自らに一番合った武器に変化するというものだ。
魔鉱石は、長年魔力を吸い込んだ魔石からなる。
その為、魔鉱石自体に自我のようなものが芽生え主の魔力に反応し、武器の形を変えるといわれている。
この世界にいる妖精と似たモノだ。
妖精は、完全に自立した魔力の塊が自我を持った生き物である。
つまり、魔鉱石とは、魔石が長年かけて魔力を吸収し、妖精に似たようなものになった鉱石である。
それをハヴェから貰い、アルトが制作した刀が今使ってる武器だ。
その武器には能力が備わり、例えばアルトのものならば魔力無効と、再生不可である。
能力事態は作成後、頭に入って来て初めてわかる。
この能力は、単純だが強い。
魔力無効は魔法が聞かない。つまり、魔法を断ち切れるというもの。
再生不可は、任意発動型であり、その刀がつけた傷は再生できないというものだ。
魔武器が魔法を切る事はよくある事だが、せいぜい中級までだ。
高ランクの魔法は魔武器でも切れない。
それに付け加え、名前を呼べば手元に来るという能力が魔鉱石から作り出した武器には備わっている。
それ故、魔鉱石は高価で、魔武器は珍しいのだ。
死にたいけど死ねない少年が旅する物語
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