異世界戦国記

鈴木颯手

第三話・結婚と小姓

「私が三郎様の妻に、ですか?」
雪が来てからもうすぐ一年が経つ。この一年で雪もこの勝幡城での暮らしにも慣れてきたようだ。与次郎との仲も良好でよく一緒に遊んでいるのを見かける。
そんな雪と俺、それに何故か与次郎も呼ばれ俺たちが夫婦になることを上座に座る父に伝えられた。
「ワシは去年そなたの父と争いワシが勝った。その結果人質としてお主がここに来た。それは分かるな?」
「はい」
清州城を居城とする織田達勝と我が家は主従関係であるはずなのになぜか敵対していて半場独立している状態だ。何故こうなっているのかは父を見れば何となく分かる。父のようなタイプは扱いづらいだろうしそれに港を抑える我が家に嫉妬しているのだろう。聞いた話では港の利害が原因で不仲になったと聞いたしな。
「その時に両家の関係修復のために三郎と雪殿の結婚が決められたのだ。ただ、夫婦になるには余りにも若すぎたのでな。一年時を見て夫婦とすることにしたのだ」
雪はいきなりの事に驚いている。俺は一年前から聞いていたため特に驚く事は無い。
「兄上と姉上が夫婦になるのですか?おめでとうございます」
弟の与次郎は素直に賛辞を送ってくる。うん、普通に喜んでいるだけの様だな。
「いきなりの事で驚いているだろうがこれはもう決められたことじゃ」
「いえ、大丈夫です。ただ、少し時間をいただきとうございます」
「おおう、構わんぞ。式はまだ先じゃからな」
雪は一礼すると部屋を出ていった。…こういう時はどうすればいいか分からないが追いかけた方がいいのだろうか?
「三郎よ。お主にはまだ話がある。残れ」
席を立とうとした時父に呼び止められた。なんであろうか?特に呼び止められるようなことはしていないのだが。この頃には俺もいろいろと学び始めているがどれも上手く行っているとは言い難い。それでも並みよりは出来ているらしい。
「お主も今年で六つだな。六つの者にしてはしっかりしているがそれは雪殿も同じだな」
「…それで、何の用ですか?」
「おおう、そうじゃったな。お主に小姓を付けようと思う。入ってこい」
父の言葉で一人の少年が入って来た。歳は十歳ぐらいであろうか?身なりはあまり良くはなく身分の低いものと思われる。
「前田縫殿助と言います。よろしくお願いします」
前田?前田くらいは聞いたことがあるな。確か…けんじ?けいじ?だったかの名前だったな。でも見た感じじゃ分からないし別人だろうな。
「こちらこそよろしくお願いします」
「顔合わせは終わったな。話はこれで終いじゃ。ワシはこれから孫三郎に会いに行くのでな」
おいおい、まだ懲りないのかよ。去年の雪の一件で懲りたかと思っていたんだがな。因みに孫三郎は去年生まれた弟だ。例に漏れず父の顔を見た瞬間泣き出し母上に追い出されているが何度もリベンジして毎回撃沈している。いい加減諦めればいいのに。流石に家臣たちも呆れているぞ。その内勝幡城の名物となったりしてな。それはそれで嫌だな。
父が部屋を去った後縫殿助と改めて対面する。
「改めて、織田三郎と申します」
「前田縫殿助です。よろしくお願いします」
「…それでは私は部屋に戻ります」
「あ、私もついて行きます」
そこへ与次郎が話に入る。…すまん、いたのを忘れていたよ。一応紹介しておくか。
「織田与次郎、私の弟です」
「そうでしたか。改めてよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
さっきからよろしくお願いしますしか言っていないな。まあ、最初はそんなもんだろう。雪だってそうだったんだから。時間が経てば慣れていくだろう。

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