異世界仙人譚

島地 雷夢

第15話

 昨日言質を取っていた事と、エルフの皆さんが寛大だったので、すんなりと同級生達は結婚式に参加する事が出来た。礼服は持っていなかったので俺を含めて全員制服だ。こういう時、ブレザーの制服でよかったと思う。流石に学ランとかセーラー服だと場違い感が半端ないけど、ブレザーならある程度緩和される。 因みに、仙人達も何時もと違った服装だ。ホウロウは作務衣のままだけど、どこか高級そうな生地で仕立て上げられた物を着込んでいる。キントウは紋付袴を着ていて、シンヨウは至ってフォーマルな礼服を身に着けている。 一番印象が違うのはコウライで、何時ものだぼだぼジャージから一転して艶めかしい肢体を扇情的に表すドレスに身を包み、薄化粧を施して髪をきちんと梳かして編み込みハイヒールなんて履いている。正直、通常時とのギャップが激し過ぎる。その姿を見た同級生達は目を奪われ、「「「「「何が色気ねぇだボケェ‼」」」」」と張り手を喰らわされたよ。 あと、ドラングルドもコウライと同じような服に着替えている。と言うよりも、蓬莱に滞在している間はコウライから衣服を借りているそうだ。 ドラゴンの状態から人型になった時、こぞって男子共は目を大きく見開いてドラングルドの裸体を凝視しようとしたけど、即行で全員琴音による【重力操作】を受けて地面もとい枝に顔面を押し付けられて見る事は叶わなかった。無論、俺もだ。 訊いていた限り、男連中の目が向かないうちにと琴音達女子三人に早く着替えを済ませてと言われてドラングルドは不思議に思いながらも言われた通りに着替えていたな。どうやら、別にドラングルドは裸体を見られてもどうとは思わないようだ。流石はドラゴン。人の姿の時には服を着るのは人がそうしているから自分達もやっておこうという認識らしい。 一度、ドラゴンの住処に赴いて人間の常識について切々と教えた方がいいかもしれない、とは女子三人の言。因みに、仙人達は特にドラゴン達にそう言った事を教えていない模様。ちゃんと服着てるから問題ない、だとかで。まぁ、確かに服着てるから問題はないけど、人前で着替えるのはNGだとは言っておいた方がいいかもしれない。いくら襲われても軽く返り討ちに出来るとは言え。 まぁ、そんな一騒動があったけど全員結婚式の会場で端の方の席について新郎新婦を祝い、エルフ達との交流を食事をしながら行った。 結婚式の流れは新郎新婦が入場して、席に着いたら一人一人が新郎新婦の前に行って祝辞を述べる。全員が述べ終わったら精霊樹の果実を持って来て、それを半分に切って新郎と新婦の前にそれぞれ置く。一口齧ったら互いに交換して一口齧る。精霊樹の果実は大体ピンポン玉くらいの大きさだったので、互いに二口でお腹の中へと食えた。 神父さんによる愛の誓いとかは存在せず、また口づけを交わす事もしなかった。それら全てが精霊樹の果実に集約されていたみたいで、新郎新婦が果実を食べ終えると盛大な拍手が飛んだ。俺達も負けじと大きく拍手をした。 その後は料理が運ばれて慎ましやかな食事が行われた。その際にエルフ達は自由に立ち歩いて新郎新婦に改めてお祝いの言葉を述べたりした。俺達もそれに倣った方がいいんじゃないか? と言う事になり、不躾にならないよう改めてお祝いを述べ、急な参加を許してくれた事に頭を下げた。 気にしないでくれ、と新郎新婦は笑って言ってくれた。それに他種族の方にも祝って貰えて幸せ者だと裏表のない言葉も頂いた。 何でも、集落から出る事が殆ど無く、他種族の知り合いもあまりおらず、生死や居場所も分からないので呼びようがなく、集落内の人達だけで済ませるのが普通だそうだ。今回俺とホウロウが来なければ何時も通り身内のみの結婚式となっていたとか。 で、折角外から来てくれたので楽しんで行って下さいとまで言われた。ヤバい、本当にいい人達過ぎる。こんな人達の所に攻め入ろうとした過去の馬鹿共の気が知れないわ。 その後俺達は新郎新婦の馴れ初めを訊いたり、エルフ達について色々質問したり、異世界から来た事をカミングアウトしてどのような場所なのかと質問されたりした。 因みに、食事には勿論肉や魚(精霊樹の窪みに湧く霊水の泉に住んでいるらしい)料理も出たけど、仙人達の所には一切出なかった。エルフ側も仙人にとって肉や魚は起爆剤(腹痛的な意味で)だと理解しているらしく、その代わり野菜や果物を使った料理が多く運ばれてきた。あと、俺と仙人には決して肉や魚を勧めないようにと長がエルフの皆さんに告げていた。 気配りも出来て、寛大で、人がいい。世界中の人々がエルフのような人達だったら、争いは無くなるんだろうなぁ、と深々と思ってしまった。 あと、この件で同級生にも俺が肉や魚が食えなくなった事が知れ渡った。そう言えば、言ってなかったなと今更ながら気付き「旨い肉料理の店に俺の奢りで今度一緒に食いに行こうと思ったんだけどな」と残念そうに言われ「悪い。言うの忘れてた」と手を合わせて返した。 結婚式は陽が暮れるまで行われ、子供達は疲れたのか寝入って親におぶられながら家に帰って行った。 その後、新郎新婦は一度退場し、簡素な服装に着替えて再登場。結婚式は終わったが、それは一次会の話だ。まだ二次会が次に控えているのだ。 一次会では純粋に祝いの場として設けられており、食事には一切アルコールが使われておらず、当然飲み物に酒は出されていなかった。 二次会では盛大に祝うと言う意味ではしゃいだり楽しんだりする為にアルコールが解禁された。子供達は既に家でおねむなので、ここからは完全に大人の世界だ。因みに、どれだけ騒いでも子供達は起きて来ないそうだ。何でも、寝かしつけた子供を置いて家を出る際に親が防音の魔法を家に掛けたので音が家の中に響かないとか。 と言う訳で、二次会は子供に遠慮する事も無くわいのわいのと宴会と化した。 酒の飲めるエルフには酒が振舞われ、酒に弱いエルフには炭酸で割ったジュースが配られた。で、同級生達の半分は酒を、半分は炭酸ジュースを飲んだ。仙人とドラゴンは、当然酒だ。 因みに、振舞われている酒は全て結婚祝いとして仙人が持ってきたものだ。度数は低いものから高いものまで。それぞれ好きな物を選んで飲んでいる。流石に高純度のアルコールはない。あれは下手すると火事騒ぎになる。と言うか、実際なったし。 酒の席では火気厳禁。駄目、絶対だ。 それはともかくとして、酒を飲んで笑いの沸点が低くなったらしいエルフ達は些細な事で大爆笑を繰り広げてる。その都度、目尻から涙が流れていく。その流れた涙は独りでに宙を舞い、会場の端に置かれた空き瓶の中へと入っていく。 この超常現象を引き起こしているのは、今正に野球拳を開始している仙人達の仕業だ。これは【操水】と呼ばれるもので、指定した液体を仙気を介して自在に操る事が出来る仙術だ。 指定の条件が面倒でかなりの高難度で俺はまだ習得出来ていないが、仙人四人は別の何かをしながらでも呼吸をするかのように容易くやってのける。 俺も何時かはあれくらい出来るようになるんだろうか? と半ば感心、半ば呆れた様子で脱ぎ出す仙人達を見る。まぁ、仙人になったんだから時間はたっぷりとある。焦らずじっくりとやって行こう。 野球拳を始めている仙人達とエルフ達(まさか、寛大さはここでも発揮されるとは思わなかった)の他は、同級生達が持ってきたUNOとかトランプ、オセロにジェンガに興じていた。皆真剣に、かつ盛大に笑って楽しんでいるようだ。 で、俺も同級生やエルフ達と混ざってUNOとかトランプとかしたいと思ってるんだけど……。「…………」 何故か琴音が無言で俺の制服の裾を掴み続けているので行けないのだ。「どした?」「…………」 と訊いても無言を貫き通すだけで何も答えてくれない。 一体、何なんだろう? と、ふと琴音の頬が僅かに紅潮しているのが見て取れた。会場の熱気に当てられたか? と思うより、一つの可能性が頭に舞い降りてきた。 琴音の持っているコップを取り上げ、匂いを嗅いでみる。 …………うん、酒だ。しかも、結構度数高めの。 つまり、琴音は酒を飲んで酔っている状態だ。 誰だ? 琴音に酒渡したの? 取り敢えず、水でも飲ますかと琴音を促して移動しようとすると、不意に琴音は制服の裾から手を離した。「なん」 だ、と言いながら琴音の方へと顔を向ける。

「……ん」

 唇に、柔らかい感触が。 目の前には、目を閉じた琴音の顔が。 しかも、超至近距離。鼻の先と先が当たるくらいに。 柔らかい感触が唇から離れると同時に、琴音の顔も離れて行く。 …………えっと、これは、つまり……。 ことねに、きす、された?


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「う」「ら」「ぎ」「り」「も」「の」「に」「せ」「い」「さ」「い」「「「「「をぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」」」」」「えっ⁉ ちょっ⁉ 待っ⁉」

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