異世界仙人譚

島地 雷夢

第1話

 仙人、それは人間を捨てた存在。 生物に存在する寿命を取り払り、ほぼ年を取る事も無く長い時を生きる存在。 人の俗世に嫌気がさし、人との関わりを断ち、山の頂、秘境へと閉じ籠りし存在。 生物の持つ欲求を捨て去り、生命としてより高みへと昇らんとする存在。 仙術を用いて超常の現象を引き起こす存在。 …………と、俺――れんじょうみやびは仙人についてこの異世界に来る前はそう思っていた。 だが。現実は違う。「おらっしゃぁぁぁぁああ!」「おぉ! 相も変わらずいい飲みっぷりだねぇ!」「くっそぉぉおお! もう一回だ!」「おぅ! 何度でもやってやんよ!」「なら! あたしもやろうじゃないか!」「俺もやるぜぃ! 最後に飲み干した奴が例のあれな!」「「「おぅ!」」」 視界の端にでっかいジョッキを片手に呑み比べをしている四人組がいる。「「「おらっしゃぁぁぁぁああ!」」」「ちぃ! 負けちまったぜぃ!」 床に座布団敷いて円になって座っている彼等四人が、仙人だ。「おらおら! 負けたんだから分かってんだろうな⁉」「ったりめぇだぃ!」 彼等は確かに人間を捨てた存在だ。…………ただし、別の意味で。「おぉ! 相も変わらずいい脱ぎっぷりだねぇ!」「流石に脱ぎ慣れてるだけあんな!」 羞恥心や遠慮なんてものを剛速球で明後日の方向に全力投球した彼等は自重する事を知らない。酒を飲めば人前で普通に脱ぎ出すし、仲間内、他人関係なくねちっこく絡んで行くスタイルで爆走している。 節度と言う、人間の本質とも言える機能を停止させ本能に従うと言う、ある意味で人間を捨てた存在だ。「っしゃい! 俺の肉体美に見惚れな!」「んな貧弱な体見せつけながらえばんな!」 寿命を取っ払い、ほとんど年を取らなくなった体は、言ってしまえば生物の範疇を越えるものに作り変わった。 …………主に、彼等は変化した肉体の性能の内、どんなに酒を飲んでもアルコール中毒になる事はない、と言う酒豪にとってとてもありがたい性能を重要視して如何無く発揮している。それも、ほぼ毎日、だ。「何おぅ⁉ だったらお前の肉はどうだってんだよ⁉」「おぅ! 何なら見てみっか⁉ まぁ、お前が俺に飲み比べで勝てたらだけどな!」 そして、欲求を捨て去ってなどいない。基本的に欲に忠実に毎日を過ごしている。その欲も酒が飲みたい、楽しい事をしたいというものだ。特に酒への欲は生物が元来持っている睡眠欲や性欲をトゥキックで思いっ切り蹴っ飛ばしてわざと観客席に突っ込ませに行くくらいに押しのける程の強さを誇っている。 人との関わりなんかも断ってない。普通に人里にふらりと立ち寄って酒を買い占め、王都に赴いて高い酒を飲み漁り、隣国へと足を運んで珍しい酒を手中に収めている。 住んでいる場所は確かに山の頂だが、そこに住んでいる理由はどんだけ馬鹿騒ぎしても苦情が来る事はない、と言う予想の斜め上を行く回答を本人達から得られた。他にも諸々の理由はあったが、影響力としては前述が八割、他の理由が二割と言った所か。「なら! もう一度飲み比べじゃぃぃぃぃいいい!」「「「っしゃおらぁぁぁぁああああ!」」」 仙術は、確かに使っている。他人様に直接的に迷惑を掛けるような真似はしていないらしいが、それでもあまり本来の用途に使用していない印象しかない。と言うか、主に碌な事に使っていないのが現状だ。「「「だらっしゃぁぁぁぁぁぁああああい!」」」「ちっきしょい! また負けたぁぁぁぁああああああ!」「「「おらおら! さっさと脱げよ!」」」「ったりめぇだい!」 仙人の実態を知ってしまうと、どうも溜息しか出てこない。 …………こんな俺も、今では仙人見習いなんだけどな。 何時かこの人達の仲間入りをしてしまうかと思うと、お先真っ暗だ。 そうならない為にも、この人達を反面教師にして精進していこうと思う。「おいみやみや! お前もこっち来て飲めよ!」「もう肉体的に仙人になってんだから、どんだけ飲んでも死ぬ事はないよ!」「ほらほら! 俺達と一緒に楽しいことしようぜ!」「飲み比べじゃい!」 …………本当っ! この人達みたいにならないようにしないと!

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「っぷはぁぁぁぁああああ! やっぱり酒は旨いですねぇぇええ!」「おぉ! みやみやはやっぱり豪快に飲むな!」「惚れ惚れしちまうくらいの飲みっぷりだねぇ!」「おっし! 雅のそんな飲みっぷりに改めて乾杯しようぜ!」「いいね! やろうぜぃ!」「「「「「かんぱーいっ!」」」」」

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