喚んで、育てて、冒険しよう。
140
四人(?)でクッキーを作り、それを皆で食べた。メリアスは楽しそうに生地を混ぜて伸ばしてたな。御蔭で小麦粉が零れて顔に掛かったりして、それが余計に可笑しかったらしく笑顔が絶えなかった。 一応、ツバキへの警戒はなくなったから、ツバキも心なしかほっと一息吐いていた気がする。一気に距離を詰めようとせず、ちょっとずつ近づけばいいんだよな。多分。 で、ドッペルゲンガーは無言でただひたすらに混ぜて、捏ねて、伸ばして、型を抜いて、じっと石窯の中を見てた。……本当、何で無言なんだよ? 口が無いから喋れないとか? まぁ、それでも身振り手振りでメリアスと何やら意思疎通はしてたけどさ。 デカい皿三つに山盛りになるくらいの結構な数を作ったんだが、十分と持たずに完食と相成った。キマイラとグリフォン、ウィングが一気に頬張って全体の七割くらいを食べたんだよな。口デカいし、体も大きいしな。食う量自体も違うし。…………こいつらは普通のクッキーが好き、と。 クッキーを食べた後は皆は食後の運動がてらケードロを始めた。この前一緒に遊んだので新参以外はルールは分かってる。知っている奴が知らない奴に教えていたので、やり方が分からないと言う心配は不要。 キマイラとスビティー、ウィングとドッペルゲンガーが警察で、残りが泥棒。約半々に分かれて拠点全域を使っての追い駆けっことなる。一応留置所は石窯の周りに設定されて、警察に捕まった泥棒はそこでじっと待機。脱獄有りのルールだから出たり入ったりと大忙しだ。 皆がケードロで遊んでる中、十二時を少し過ぎていたので時間的に一度現実世界で昼飯を食った方がいいだろうと言う事になってツバキ共々一時的にログアウトをする。 現実世界に戻って早速昼食を作る。作ると言っても、インスタントラーメンに野菜と肉をぶち込んだだけのものだけど。因みに、椿はカップ麺とコンビニで買ったと思しきサラダを持って来ていたのでそれを準備して食べる。 今日はこのまま夜まで一緒に遊んでいいか? と訊かれたので頷いた。何か、椿もそろそろ怪盗ドッペンのチェインクエストを進めてカーバンクルを仲間にしたいらしい。因みに、楓とカンナギは既にカーバンクルの召喚具を入手済みで、椿は俺達と同じ二回目のクエストで止まっているそうだ。「……そこまで旨くないな」 と、少しだけ眉間に皺をよせ愚痴を零しながらカップ麺を啜る椿。何でも新商品でラーメンなのにソース味なのだそうだ。匂いはカップ焼きそばのそれとほとんど同じ。「不味くはねぇんだけど、これなら普通にカップ焼きそばでも買えばよかったなぁ」「そうなのか?」「少し食ってみっか?」 折角なので俺も少しばかり味見させて貰う。「……確かに」 少し啜って、俺も椿と同じ感想を抱く。縮れ麺にスープは絡むんだが、味がソースなのでどうしても焼きそばと比較してしまう。粘度、そして絡み具合が劣ってしまい、これならカップ焼きそばの方がいいか、となってしまう。決して不味くはないんだけどな。 あと、一つ気になる点が。「何か、汁の味濃いな」「濃くしないと不味くなるからじゃないか?」「まぁ、ソースの味が薄いとちょっとな」 個人的に、少し気持ち悪くなるんだよな。不味くは無くても、こう……何故か唾液が多く出て来てそれが影響して。 サクラ達との約束の時間まであまり時間がないので無理のない程度で早く食べ終え、後片付けを行う。因みに、今日椿も一緒になってクエストに挑む事はメッセージで伝えてある。返事は直ぐには返ってこなかったが、拒否はしないだろう。「そう言えば、どうして椿だけカーバンクル仲間にしてないんだ?」 食器を洗い終え、俺の部屋へと向かいながらちょっと疑問に思っていた事を椿に質問する。椿は楓とカンナギとパーティー組んでるから、てっきり一緒に挑戦したものだと思ったんだがな。「ちょっと所要で俺がいない間に二人で先に取っちまったんだよ召喚具」 と、軽く溜息を吐きながら椿が答える。「当初は様子見って感じで二人で先にやってたんだと」「ふんふん」「でも、主にカンナギとシェイプシフターの御蔭で三つあるドッペンのチェインクエストを初回でクリアしちまったんだよ」「……は?」 初回で、クリア? マジか?「一回目はカンナギの身体能力フル活用でクリア。二回目はシェイプシフターの力でクリア。最後はカンナギとシェイプシフター、両方の力を合せてクリア、だと」 因みに、椿が報告を受けた際の開口一番が「御免、一発クリアしちゃった」だそうだ。しかも事が事なだけに椿ではいかせない……と言うか出来ないクリアの仕方だったとか。 カンナギの身体能力は俺なんかよりも数段上だし、有り得なくはない、か? それでも途中の蝙蝠――ドリットの分身をどうやって止めたのか非常に気になる所だ。 で、シェイプシフターは五秒間見られれば相手が苦手とするものに変身する。ドッペンは二回目のチェインクエストでは逃げ続けてるから空にいるドリットにでも視認させたのか? 何か、それなら二人にも同行して貰ってちゃっちゃかクリアすればいいのでは? と思うがそうもいかないらしい。「しかも、一度クリアするとチェインクエストは二度と受けられないから俺だけ置いてけぼり喰らったんだよ」 更に息を吐く椿。流石に楽にクリアはさせて貰えないようになっているらしい。「そうか。……そう言えば、椿は一回目のチェインクエストはどうやってクリアしたんだ?」「丁度姉ちゃん達もまだクリアしてなかったから、姉ちゃんに頼んで機甲鎧魔法騎士団と一緒にやった。一回目は正攻法で挑んで玉砕。二回目は例の攻略法使ってクリアしたんだよ」 例の攻略法ってのは、カーバンクルの宝珠を隔離してるガラスケースの横四面と上の一面に触れられないように貼り付いたり乗っかったりするってあれか。あんな攻略法なかったら、俺達はまだ追い駆けっこをしてたかもしれないな。「因みに、玉砕の理由はまぁ、団長が盛大に転んでガラスケースぶっ壊して、宝珠が丁度良くドッペンの方に飛んで行ったからなんだよ」 椿は少し遠い目をしながら呟く。時期的にまだモミジちゃんは【気配察知】【観察眼】【重心移動】のスキルを習得してなかったから、転んだりしやすかった筈だ。って、モミジちゃん……とんだドジっ子だったんだな、本当。「で、ガラスケースに突っ込んだ団長に『痛くなかったかい?』って心配しながら【生命薬】使って、颯爽といなくなったな。ドッペン」 紳士だな、怪盗ドッペン。邪魔をしようとした相手への気遣いも忘れないとか。普通は出来ないと思うぞ?「二回目は団長をガラスケースの上に座らせて、俺達で四方を固めて鉄壁の布陣を作った。そん時に姉ちゃんが『絶対に動かないように。後でプリン買ってあげますから』って団長に何度も念押ししてたな」 団長は笑顔で頷いてた、と椿談。流石は保護者と言われてるローズ、か。モミジちゃんの扱いには慣れてるんだろうな。 そんな話をしている間に既に部屋にはついていて、DGの用意をしている。サクラとアケビからの返信も届いていて、二人共OKだそうだ。「じゃあ、ま。ちゃちゃっとクリアしちまおうぜ?」「そうだな」 軽く拳を合わせながら、二人揃ってDGを被って電源を入れSTOの世界へと向かう。 今回は椿曰くウィキに書いてある攻略法を試す。やっぱりドリットを何とかしないと難易度が跳ね上がるとか。 なので、椿は【テイマー】ではなく空中を自在に動けるウィングを召喚出来る【サモナー】としてチェインクエストに挑む。俺はスビティーに頼むので【テイマー】のままだ。 さて、今日こそは怪盗ドッペンを捕まえるとしよう。
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