喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

another 07

「おっとっと」 ペガサスの【アトラクトタイフーン】の効果を受けながらも、カンナギは僅かに引き寄せられるだけで、馬頭鬼との戦闘を続けている。相対する馬頭鬼もまた、カンナギと同程度に引き寄せられている。 竜巻が吹きすさぶ中で戦闘を繰り広げられている理由は馬頭鬼自体には風属性に対する耐性が存在し、【アトラクトタイフーン】への影響が少なくなっているからだ。 そして、カンナギの場合は装備している草履【風守草履】に付加されている【耐風・中】の効果によってある程度動けている。 互いの得物をぶつけあい、弾き、せめぐ。寸分の隙もなく、致命傷はおろか掠り傷さえ与える事が出来ていない。「ん~……?」 そんな中で、カンナギは首を傾げ唸る。「どうしたのだ?」「いや……」 相対する馬頭鬼は戦闘中であるにも関わらずに首を傾げたカンナギに対して問うが、カンナギは言葉を濁すだけで答えを口にしない。 カンナギと馬頭鬼が竜巻に引き寄せられながら戦闘を繰り広げる中、風騎士リースは一人渦中に佇むペガサスをねめつける。自身の装備【ウィンドフレーム】によって風属性に対する耐性を得ているのでカンナギと同程度に引き寄せられている。 どんどんとペガサスへと近付くが気にしている素振りを見せず、腰を落として大剣を水平に構える。僅かに光り、ペガサスが発生させた竜巻とは別種の風が寄り集まる。「いくぞ」 この場を無風空間へと変えるスキルアーツ【凪の一撃】を発動させる。これにより、ペガサスが展開していた【アトラクトタイフーン】は強制的に解除され、霧散する。 ペガサスは【アトラクトタイフーン】が消し去られ目を剥く。が、直ぐ様次の行動に移るべく一対の翼をはばたかせて上へと昇る。「とぅ!」 風による影響が完全に消え去り、自由に動けるようになったリースはそのままペガサスに向けて跳躍。そして隠れスキル【二段跳躍】によって空中で更なる跳躍を披露しペガサスとの距離を詰める。 が、空を自由に駆ける事が可能なペガサスにとって、空中でたったの一度しか跳ぶ事の出来ないリースは脅威ではない。ペガサスは旋回してリースを避け、脇腹に攻撃を加えようと突進を開始する。「風よ、我が言葉により形を成し、逆巻く旋風を撃ち放て! 【ワイルドボルテクス】!」 リースは空中で身動きが出来ない中、回避ではなく攻撃を選択する。大剣での攻撃は地面に足がつかない現状では威力が低下してしまうが、魔法は別だ。地上であろうが空中であろうが関係ない。 魔法陣がリースの眼前に展開され、そこから螺旋を描く風がペガサスへと撃ち放たれる。ペガサスはそれを最小の動きで避けようとする。しかし、それは悪手である。 本来、ペガサスは風属性に対して耐性を持つ。それは馬頭鬼やカンナギ、リースのそれよりも上位であり、万が一に受けたとしてもレベル差が開いていない限り痛手にはなりえない。 リースの放った【上級風魔法】の攻撃魔法【ワイルドボルテクス】には副次効果として引き寄せる力も持ち合わせている。当然、【アトラクトタイフーン】に比べれば微々たるものだ。そして、ペガサスは風魔法による引き寄せる力に対しても耐性はある。なので、その引き寄せられる力を無視した最小限の動きで避けようとしてしまった。 その結果。「ッ⁉」 思うように動けず、耐性のある筈の風魔法に引き寄せられ避ける事が出来ずに【ワイルドボルテクス】の直撃を貰う。更には、それによって大ダメージを受け地面へと墜落して行く。 ペガサスは知らなかった。一時的とはいえ、自身から風属性に対する耐性の一切が消えてしまっている事を。 リースの放ったスキルアーツ【凪の一撃】は攻撃技であるが主に補助的な目的で発動される事の方が多い。【凪の一撃】発動者以外の風属性による攻撃を無効、及び風属性に対する耐性を無効化させる副次効果が強力であるが故に、だ。 この無効化時間は十秒。【凪の一撃】のディレイタイムである二分よりも遥かに短いが、それでもこれによって得られる恩恵は計り知れないものだ。 耐性が消失しているとは露知らず、ペガサスは身に起こった事象に疑問が絶えず、地面にその巨体を激突させる。「風よ、我が言葉により形を成し、風の刃を生み出せ! 【エアカッター】!」 そこに、自然落下に身を委ねているリースが更なる追い打ちをペガサスに向ける。生み出された風の刃はペガサスを切り刻む。「風よ、我が言葉により形を成し、大気うねりし双矢で射抜け! 【ウィンドツインアロー】!」 追撃はまだ続く。【下級風魔法】の攻撃魔法【エアカッター】の次は【中級風魔法】である【ウィンドツインアロー】をペガサスに向けて放つ。二本の風の矢は同時に解き放たれ、ペガサスの翼を射抜く。 ペガサスは避ける事も出来ず、全ての魔法をその身に受けてしまう。リースはそこから更に魔法で追撃はしなかった。ここで風属性無効時間が終わり、ペガサスの耐性が通常時のそれに戻ったからだ。 代わりに、着地と同時に大剣を振り下ろし、ペガサスの胴体を切り付ける。「ふっ!」 そして直ぐにバックステップで距離を取る。切り付けて直ぐにペガサスが跳ね起き、蹴りを加えて来たからだ。「――ッ」 ペガサスはリースを睨みつけると、翼をはばたかせてまたも上へと昇って行く。「風よ、我が言葉により形を成し、大気の力を封じ込めし鎧と成れ! 【エアロブーストアーマー】!」 リースは自身に【中級風魔法】の補助魔法【エアロブーストアーマー】を発動させる。【下級風魔法】である【ウィンドアクト】と同様に敏捷が一時的に上昇し、移動と攻撃速度が上がる。 ワンランク下の補助魔法【ウィンドアクト】との違いは効果継続時間とステータス上昇率が低くなっている事だ。それぞれ【ウィンドアクト】の半分程度にまで抑えられてしまい、これだけならば上位の魔法として存在する意義が完全に無い。 しかし、【エアロブーストアーマー】には【ウィンドアクト】にはない効果がある。風の力を受けて跳躍力と跳躍時の速度が著しく上がり、跳躍の途中でも少しばかり軌道を変更する事が出来る。通常の跳躍の倍以上も昇る事が出来るようになり、【二段跳躍】を持つリースにとって、空中を移動する距離が長くなる。その為、空中戦を行う際の補助に持って来いの魔法となっている。 一気にペガサスへと向かい、大剣を振るい攻撃をしていく。ペガサスの方は翼にダメージが入り、先程よりも旋回力が下がってしまったが直撃を受ける事はない。リースの攻撃を躱して、逆に後ろ蹴りを喰らわせる。リースはそれを大剣の腹でガードしてダメージを軽減させる。 地面に到達するのを待たず、リースはペガサスの体を蹴って疑似的に地面から跳躍したのと同じ状態を作り、何時でも空中で跳躍出来るようにする。「あやつは風の魔法も使いこなすのか」 傍目でリースの攻撃を見ていた馬頭鬼が感心する。馬頭鬼はペガサスへと加勢に向かおうとしていない。いや、向かえないと言う方が正しいか。「そりゃ、風騎士だからね。自称だけど」 今も尚互いの武器をぶつけあっているカンナギが原因だ。馬頭鬼は地に落ちたペガサスに風魔法が更に放たれた時、引き摺ってでもいいから回避の手伝いをしようとは思っていた。ただ、そうしようと動けば、カンナギが上手い具合に回り込みそれを邪魔した。 その後も、空へと駆け上がるペガサスへと向かうリースに攻撃を加えてペガサスに余裕を持たせる為に動こうとするも、やはりカンナギが絶妙にそれを阻む。「自称、か」「うん、自称」 そんな会話を繰り広げながらも手を緩める事はせず互いに武器をぶつけ合うが、それも一転する。「でね、一応私も魔法は使えるよ?」 カンナギは限界まで力を籠めて武器を振るい、故意に馬頭鬼の槍を弾いて一瞬で二メートル後退する。そして武器を降ろして手を馬頭鬼へとかざす。「闇よ、我が言葉により形を成し、全てを切り刻め。【シャドウクロウパニック】」「ぬっ⁉」 カンナギと馬頭鬼の間に現れた魔法陣から影の刃が幾つも出現し、馬頭鬼へと放たれる。「小癪な!」 馬頭鬼は即座に対応し、至近距離から迫り来る【シャドウクロウパニック】を槍で全て打ち落とす。 それによって出来たその隙を、カンナギは見逃さす、一気に回り込んで馬頭鬼の背後を取る。「こっちが本命、だよ!」 大上段に構え、馬頭鬼の背中を縦一文字に切り付ける。カンナギも魔法を扱うが、魔力の値にあまりSPを振っていない為、威力は心許ない。故に、攻撃魔法は主に牽制、隙を作る目的で放たれる。「ぐっ!」「そして」 馬頭鬼が反転して反撃をしようとするも、それよりも速くカンナギは切り上げて更に傷を負わせる。その後に蹴りを喰らわせ、僅かにぐらつかせた際に更なる魔法を発動させる。「闇よ、我が言葉により形を成し、影の帳を降ろせ。【ヴェイルオブシャドウ】」 黒い靄が馬頭鬼の視界を覆い隠し、視界を暗転させる。突如目の前に暗闇が訪れ馬頭鬼は動揺し、更に隙を見せる。「てりゃ!」「ぐおっ!」 カンナギは自身の得物で馬頭鬼の胴体へと突きを喰らわせる。 その後も連続で斬撃を放っていくが、四撃目以降は馬頭鬼に全て防がれてしまっている。 視界は封じたが、馬頭鬼には闇属性に対しても耐性があり予想よりも早くに【ヴェイルオブシャドウ】の効果が終わってしまったからだ。 その後は先程と同じように剣戟を繰り広げ、互いに傷を与えられない膠着が僅かに続く。 リースとペガサスも空中で攻防戦を行っていたが、ペガサスの雰囲気が変わった事でリースは攻撃をやめ、地面へと降り立つ。「ヒヒィン!」 ペガサスは嘶き、目標であるリースを見下ろす。すると、【アトラクトタイフーン】とは違い小規模の竜巻がペガサスだけを包み込む。それは特に額の部分に集中し、あたかもユニコーンのように雄々しい角のような形状へと変化する。「ふっ! 受けて立つぞ!」 地面に降り立ったリースは、その身に風を纏い、螺旋の風を角に見立てたペガサスへと大剣の切っ先を向け宣言する。避ける事は考えずに真っ向からの勝負をすると。「あっちはもうクライマックスかぁ」 馬頭鬼と打ち合っているカンナギは視線を僅かにリースとペガサスへと向け、直ぐに眼前の馬頭鬼に戻す。「ねぇ」「何だ?」 カンナギは今も尚相対している馬頭鬼に対して済まなそうに愛想笑いを浮かべる。「こう言っちゃ悪いけど、もう終わりにしてもいい?」「ふん。出来るものならやってみろ」 馬頭鬼はカンナギの言葉に呆れもせず、憤りもせず、淡々と促す。「じゃあ、お言葉に甘えてっと」 カンナギは攻撃をやめ、馬頭鬼の槍を紙一重で避けるとそのまま一気に後退して行く。馬頭鬼はカンナギを追う事はせず、その場に立ち止まって槍の石突を地面に突き立てる。「ただ、こちらとしてもそう易々とやられはしないがな。ブォォオオオオオオオオオオッ‼」 馬頭鬼は拳を固く握り、天を仰いで咆哮を上げる。すると、馬頭鬼の筋肉が膨れ上がり、体が肥大化する。血管が浮き出て、蒸気が上がる。 カンナギはそうでなくては、と口角を僅かに上げる。 ここからリースとカンナギは同じ行動を取る。 オウカの姉、リオカも習得している隠れスキル【解放】。精神力が満タンの時のみ発動可能。精神力を全て消費し一定時間自身の筋力と敏捷を70%上昇させるもので、リースとカンナギの両者もこのスキルを習得している。 二人は、【解放】を発動する為ショートカットウィンドウに登録していた【マナタブレット】の上位種【マナペレット】を複数使用し、消費していた精神力を完全に回復させる。 そして、次の一撃の威力を上げる為に【力水】と【偽鬼薬】を使用する。【力水】はスキルアーツの威力を一度だけ、【偽鬼薬】は大型武器による攻撃を一度だけ50%上昇させる。 ただ、マイナス効果もある。効果適用後【力水】は二分もの間全てのスキルアーツが発動不可能になり、【偽鬼薬】は一分間攻撃にマイナス50%の補正がついてしまう。それでも、敵を仕留めきる前提で使用すればデメリットは気にならない。 リースとカンナギは、次の一撃で仕留める気でいる。 二つの強化アイテムを使用したそのすぐ後にリース、カンナギの順に体力が回復し、筋力が5%上昇する。ドッペルゲンガーと戦闘しているオウカが二人に【セレリルステーキ】を使用したからだ。二人にとっては予想外の事だったが、これにより決定力が更に上がる事となる。 準備は整い、隠れスキル【解放】を発動させ、二人の体は水色の燐光に包まれる。 それを合図にペガサスはリースへと、馬頭鬼はカンナギへと向かって行く。 リースは風を纏って突進してくるペガサスに、カンナギは槍を構えて突撃してくる馬頭鬼に真っ向からそれぞれ最大の攻撃を仕掛ける。「はっ」 ペガサスの風の角がリースに当たる寸前に、大剣による攻撃が繰り出される。 リースの持つスキルアーツの中で最大の威力を誇る【ターンシークエンス】。武器に属性が付加されている場合はそれを強制的に無くす効果を持ち合わせているが、この場合【疾風剣】によって付加されている風属性を無くす事によってペガサスへ与えるダメージ量を増やす事に一役買っている。 風の角に放たれた大剣が接触すると、風が霧散し、大剣はそのまま振り抜かれる。無防備を晒しているリースとは違い、今も尚攻撃の途中であるペガサスはそのままリースへと目掛けて突っ込んで行く。風の角は無くなったが、突進力は損なわれていないので当たれば大ダメージは免れない。 が、ペガサスの攻撃はリースに届かない。 無防備を晒したリースだが【ターンシークエンス】はまだ終了していない。シークエンスは一撃であるスキルアーツではなく連撃のスキルアーツだ。振り抜き終わっても終わりではなく、その威力を殺さぬまま素早く回転して威力を増した一撃をペガサスへと叩き込む。 更に、もう一度回転して一撃を。更に回転して攻撃。それを五回繰り出す。攻撃を繰り出す毎に威力が次々に増していくスキルアーツ。それが【ターンシークエンス】。五連撃全てが終わると、リースは大剣を軽く振るい、大剣を背中に背負う。ここまでが【ターンシークエンス】の動作であり、相手がまだいる場合にはここが隙となり攻撃を受けてしまうが、今はその心配はない。 馬頭鬼はカンナギと、ドッペルゲンガーはオウカと戦っている。ペガサスは強化されたスキルアーツの連撃を喰らい、生命力を失って戦闘不可能となった。「ふぅ!」 光となって消えていくペガサスを見つめ、息を吐くリース。 一方、カンナギはと言うと。「せいりゃ!」「甘い!」 飛び込みながら放ったカンナギの一撃を、馬頭鬼は槍では防がず、片手で白刃取りをして受け切る。カンナギの持つ薙刀のような武器はビクともせず、馬頭鬼は自由な槍で今も尚押し切ろうとしているカンナギを貫く。「残念だったな」「そうでもないよ」 槍で脇腹を貫かれながらも、カンナギは不敵な笑みを馬頭鬼に向ける。「あなたが避ければ負けてたけど、こうして真っ向から防いでくれたからね。負ける要素が無いよ」「何?」 その言葉に疑問を覚えたが、それも直ぐに頭の中から搔き消える事になる。 カンナギもまた、【包丁ビギナー】の隠れスキルを習得していた。だが、オウカと違う点がある。それはスキル経験値が溜まり、スキルアップをした事だ。スキルアップ後は【包丁マイスター】となり、包丁による攻撃の威力が10%上昇する効果を得た。その他にも、スキルアップ時に一つ新たにスキルアーツを習得した。 カンナギが放ったスキルアーツは【解体刃緒】。【捌きの一太刀】と違い、ドロップ率上昇の補正はない。その代わり、回避以外のあらゆる防御を無視する効果を持つ。それは盾による防御行動等の他に、一時的なステータスアップによる耐久上昇も含まれる。馬頭鬼はカンナギの一撃に備えて自身の筋力と耐久を上げたが、耐久上昇に関しては完全に無意味となっている。 そして、防御行動には馬頭鬼が行った白刃取りも含まれる。 白刃取りをしていた筈の刃は、何時の間にか手の中からするりと抜けており、振り下ろされていた。馬頭鬼は気付かなかったが、刃は馬頭鬼の体を斜めに一刀両断した。 馬頭鬼は言葉を発する間もなく、光となって消えていく。「ふぅ……生命力結構減っちゃったなぁ」 槍も消失し、刺さっていた部分を擦りながらカンナギは生命力の残量を確認する。残りは一割を切っており、下手をすれば0になっていた。「次からは、もうちょい慎重にやろっと」 カンナギはショートカットウィンドウから【生命薬】と【生命上薬】を選んで使用し、生命力を回復させる。 それぞれの召喚獣との戦闘を終えたリースとカンナギは、他の仲間がどういう状況下にあるか確認する為に辺りを見渡す。 その時、オウカが【ウェイブグラビティ】を受け、更には無属性の魔法による強化を終えたドッペルゲンガーがオウカを睥睨したのをほぼ同時に二人は見る。「凄く重い攻撃だな!」「こんな無魔法ってあったっけ?」 ドッペルゲンガーが動くと同時にリースとカンナギも動き、オウカに振るわれそうになったフライパンと包丁をそれぞれの得物で防ぐ。「そちらさん二人はもう終わったのか」「あぁ!」「まぁね」 ドッペルゲンガーの問いに、リースとカンナギの二人は頷く。 残りはドッペルゲンガー一人。

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