喚んで、育てて、冒険しよう。
116
アップデートが終了してから一週間が経った。 キリリ山でボスと遭遇し、気絶して強制ログアウトしたサクラは次の日には復活し「すみませんでした」と頭を下げてきた。別にサクラが気にする事ではないし、あれは仕方のない事だったので「気にするな」と一言言った。 それでも済まなそうな顔をしていたので、もう一度気にするなと言おうとしたがアケビに口を抑えられて遮られ「で、今日はどうする?」と俺達に訊いてきた。あまりこの件を長引かせても何時ぞやの平行線状態になりかねなかったので予定を決める事にした。 三人で少し話し合い、まずはクルルの森をクリア、その次に召喚獣カーバンクルのイベントをやろうと言う流れになった。 一週間前の俺達のレベルでもクルルの森までは普通に進む事が出来て、難なく北の森へと向かえた。北の森で出現するモンスターはクルルの森と同じのが出現するが、モンスター自体のレベルが上がって強化されている。なので、攻撃パターンが分かっていても速度が違ってタイミングを見誤る事も最初の頃はあった。 また、北の森にだけ出現するモンスターもおり、イベントの時も対峙したホールクォール、チルアングール、アングールがそれに該当する。ホールクォールとチルアングールの対処法はイベントで学んでいたので苦戦する事は無かったが、ホールクォールの巣穴に足を突っ込んで捕食されかけたのが多々あった。その度にスビティーとフレニアに助けて貰った。 そして、北の森に入って二日目にアングールと初対面。基本的に敏捷の高い俺とアケビが囮としてアングールの注意を引き、サクラ、フレニア、スビティー、キマイラの魔法を主戦法にして挑んだ。即死技の呑み込むを回避しながら地道にダメージを与えて撃破に成功。 北の森でレベルを上げてSPとSLを稼ぎ、ステータスを強化した。俺は何時も通りに生命力、体力、敏捷、器用を上げたが筋力も少し上げておき、一撃の威力を向上させた。サクラとアケビもそれぞれ生産に必要な器用と、魔法を扱う為に精神力と魔力を上げ、それ以外には平均的に振った。アケビは今まで魔法を覚えていなかったが、今回を機に【初級光魔法】を習得した。 何でも、今回のアップデートで【初級~魔法・攻撃】と【初級~魔法・補助】が一つになり【初級~魔法】となったそうだ。級が同じならばそのままだが、級が違う場合は位の低い級の魔法になるらしい。例えば、【初級無魔法・攻撃】と【中級無魔法・補助】を習得していた場合は、統一された時に【初級無魔法】となる。統一された時に、消費していたSLも戻ってくるらしいので、実質損はしていない。 魔法を片方しか習得していなかった場合は、もう片方の魔法が新規で自動習得され、両方習得していた場合はそれぞれで覚えていた魔法を引き継ぐ形で一つに纏められるそうだ。そのまま引き継ぐので統一されて初級に下がってしまっても中級で覚えていた魔法を問題なく発動させる事が出来る。 これにより魔法による攻撃と補助を行う為には二枠必要だった装備スキル枠が一つ分空く事になる。その分他の属性魔法を覚えたりパッシブスキルを装備出来るようになるので戦略の幅が広がった。 属性一つに限られるが、スキル枠一つで攻撃も補助も出来るようになったのでアケビは「折角だから覚えてみる」と習得した。ただ、魔力と精神力に全くSPを振っていないステータスだった為、最初は全く使えなかった。最初の二日はレベルを上げて手に入れたSPを全て精神力と魔力につぎ込み、魔法を使えるようにした。 また、同属性の攻撃と補助の魔法の統一はプレイヤーだけでなくパートナーモンスターにも言える事で、リトシーもリークと同じように木の槍を発生させて攻撃を行えるようになり、威力は抑え目だが遊撃が可能になった。 レベルが全員40前後となった事、そして攻撃手段、補助の手数が増えた事も起因してちゃくちゃくと俺達は森の奥へと進んで行った。 そして現在。 俺達は北の森のボスと戦っている。 北の森の奥地では、木で囲まれ周りに遮蔽物の無いぽっかりと空いた広い空間があり、そこにボスが鎮座していた。俺達全員が足を踏み入れると透明な壁がせり上がり外に出られなくなった。それを合図にボスが動き始め、戦闘開始となった。 北の森のボスはフォレストワイアーム。木肌のようなゴツゴツとした皮膚を持つ手足の無い西洋竜だ。大きさはアングールと大差ないが、翼が生えてる分空中での移動が可能となっており、その巨体を持っての突撃や薙ぎ払い、プレス、噛み付き、翼をはばたかせて風の刃を生み出しそれらで攻撃をしてくる。 更には木属性の魔法でこちらの動きを封じてきたり麻痺や毒等複数の状態異常を付加させてくるブレス攻撃を放ってくるので厄介だ。ブレスは上空から扇状に放たれ、遮蔽物が無いから物陰に隠れてやり過ごす戦法が取れないので飛んでいるフォレストワイアームの真下もしくは後方に全力で逃げないといけない。装備で耐性を持つ事も出来るが完全じゃないので避けるしかない。 基本的に空中移動が出来るスビティーとフレニアに近距離から攻撃して貰い、地上組は遠距離攻撃でダメージを与え、こちらの動きを封じてくる木属性の魔法を絶対に喰らわないように注意し隙を窺ってアケビがキマイラを短時間だけ召喚。キマイラにフォレストワイアームを地面に叩き落としてそこをタコ殴りにする戦法を取っている。 因みに、フォレストワイアームとは二度目の挑戦だったりする。一度目はスビティーではなくリトシーを戦闘に参加させていたが、フレニアとキマイラ以外が初見で放ってきた木属性の魔法に捕まりブレスの直撃を喰らい、様々な状態異常に苦しんでいる間に突進と風の刃で一掃されてあっさりと死に戻りした。 今回はブレス前の予備動作も分かっているので、今の所一度もブレス攻撃を受けていない。大きく息を吸って体を仰け反るから判別が楽だ。そして、ブレスを吐く寸前に背部に強烈な攻撃を与えれば体勢を崩して落下する事も今日学んだ。「ギャァァアアアアアアアアアア!」 本日十度目となる墜落を経験するフォレストワイアームが地面に激突した瞬間に咆哮を上げる。「えいっ」 その直ぐ近くで気の抜けるような掛け声と共に、キマイラを戻したアケビが奴の目を目掛けて【スラッシュ&】を繰り出す。「水よ、我が言葉により形を成し、彼の敵を押し流せっ!【ウェーブスプラッシュ】!」 アケビが飛び退くとサクラが【中級水魔法】による攻撃【ウェーブスプラッシュ】を発動させる。スケアリーアングール=フラトが使っていたものよりも範囲が狭いが、それでもフォレストワイアームに覆い被さるくらいの水量で飛び上がろうとしていたワイアームを怯ませる事にも成功する。「びー!」 フォレストワイアームの真上を飛んでいるスビティーが成長した時に新たに覚えた固有技【ニードルラッシュ】を発動し、何発も毒針を連射して攻撃を行う。【ニードルラッシュ】は時折毒の状態異常を付加させるらしいが、今の所フォレストワイアームが毒状態になったようには見えない。流石に竜だから耐性でもあるか?「くらえ」 俺も【流星脚】からの【小乱れ】の連撃でダメージを与えていく。器用と敏捷が上がったので、スキルアーツの再現をより早く行う事が出来るようになり、スキルアーツの連撃をしやすくなった。「ギャァァアアアアアアアア!」「光よ、我が言葉により形を成し、視界を眩ませ。【フラッシュハインドランス】」 再び舞い上がろうとするフォレストワイアームにアケビが【初級光魔法】の補助魔法【フラッシュハインドランス】をぶっ放す。とは言っても、ただ目の前で強烈な光を発して目くらましをするだけの単純な魔法だ。「ギャァァアアアアアアアアアアッ⁉」 フォレストワイアームは強烈な光を受けて怯み、少しの間硬直する。その間に俺達は減った生命力、体力、精神力を回復させておく。フォレストワイアームが空にいると様々な攻撃のオンパレードを繰り出してきて回復する暇がない。 と言うか、流石はボスか。かれこれ二十分以上は戦っているのに未だに健在か。そろそろ倒れてくれないとこちらの回復アイテムが底を尽いてジリ貧になりそうだ。「ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼」 怯みから回復したフォレストワイアームが一気に飛び上がり、自らの下に魔方陣を浮かばせていく。恐らく、木属性魔法でこちらの動きを封じに来たんだろう。俺達は喰らわないように地面から姿を見せるだろう木の根に注意を向けていたが、意味が無かった。「うわっ」「きゃっ!」 フォレストワイアームを中心として竜巻が発生して吸い寄せられてしまう。地上にいる俺、サクラ、アケビはそれぞれの得物を地面に突き刺して抗うが、空中にいるスビティーとフレニアはそのまま竜巻に飲み込まれてしまう。「びーっ!」「れにーっ!」 ぐるぐるとフォレストワイアームの周りを錐揉み回転する二匹は避ける事が出来ずに尻尾での薙ぎ払いの直撃を貰い、光となって消えていった。 戦力が減ってしまったのが痛いな。それも空中移動が出来る二匹を失ったのが特に。キマイラはアケビが戻していたから大丈夫だったが、残りの召喚時間が少ない。多分、あと五秒くらいしか戦闘に参加出来ないと思われる。「ギャォォオオオオオオオオオオオオ…………」 竜巻が未だに発生している中、中心にいるフォレストワイアームが大きく息を吸い始めた。あれはブレス攻撃の予備動作だ。 あ、このパターンヤバい。
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