喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 イベントも二日目に突入した。 昨日の一件はフチに話した。ただ、十晶石擬きの事については何も知らないようで、神殿に行って他の司祭に訊いたり、人間――つまりはプレイヤーに頼み込んで調べて貰うようにするそうだ。また、ローブと水晶玉に関しての情報もなんら得られなかった。それでも情報を提供した事により、他のプレイヤーの手によっても【秘宝の異変】クエストは進行していく事だろう。
『送信者:Summoner&Tamer Online運営  件名:途中経過ランキング(第三回)』
『※このメッセージはイベントに参加しているプレイヤーの皆様に一斉送信しております。
 ソロイベント、パーティーイベントの上位5位までの途中経過ランキングをお伝えします。

 ソロイベント途中経過ランキング(第三回) 1位 カンナギ            Point 1489 2位 リース             Point 1467 3位 琥太郎             Point 1452 4位 ディアブロ=ブラッディマリー  Point 1232 5位 KOTOHA          Point 1221
 パーティーイベント途中経過ランキング(第三回) 1位 機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツ    Point 592 2位 エール(PL)     Point 581 3位 ギーグ(PL)     Point 533 4位 召喚戦隊サモレンジャー Point 500 5位 オウカ(PL)     Point 462
 ※パーティーネームを設定していないパーティーにつきましてはPL様のプレイヤーネームのみを表示しています。

 ご意見、ご質問等がございましたら、随時運営までご連絡下さい。』
 今朝届いたランキングメッセージに遂にランクインしていた。ただ、気を緩ませると直ぐに前回までランクインしていたもふもふ愛好会に抜かされそうなので、今日も一日頑張ってクエストをこなしていこう。「……で、どうして俺は挟まれてんだ?」「一人にならないようにだけど?」 俺の質問に少し棘のあるアケビの返答。 俺の前にはリトシーが、後にはフレニアが、頭の上にはきまいらが。そして左右にはサクラとアケビが並んで歩いており、傍からすれば要人警護に見えなくもない。が、実際には護送中の犯人の感じに近いかもしれない。 昨日――いや、午前零時を回っていたから今日か。アケビは眉間に深いしわを寄せて、サクラはどうしてだか泣きそうな顔で、そしてフチも笑っていたが目が怒った状態での説教だった。リトシー、フレニア、きまいらはもう眠っていたので説教に参加していないが、今朝に少し非難するような目を向けて来ていた。 誰にも何も言わずに夜の外に出て言った事、そしてその後にも連絡をしなかった事、そして夜遅くに戻ってきた事全部俺が悪いのは重々承知している。なので、報告、連絡、相談は絶対にパーティー内の誰かにするという約束事が決定された。 ただ、それだけではなく、目を離した隙に俺がいなくならないようにとこうやって囲みながらの移動になってしまっている。何か、周りの視線が痛く刺さって来るな。 俺達は今ツバキのパーティーとの待ち合わせ場所である発着地点へと向かっている。今朝起きて朝食を取った後にボイスチャットで集合場所を決めた次第だ。「よぉ……って、何でオウカは囲まれてんだ?」「さぁ?」 発着地点に着くと、少し遠くにいるツバキが手を振ってくるが、直ぐに首を傾げる。隣りにいるカエデは肩を竦める。まぁ、普通そう思うよな。「「要人警護?」」「違うからな」 俺が手早く説明をすると、二人はそりゃ、お前が悪いだろう的な視線を俺に向けてくる。その通りなので反論もしない。因みに、リークは直ぐにリトシーの方へ行って二匹してはしゃいでいる。仲いいな。「そう言えば、お前達って二人パーティーなのか?」「そうそう。俺とカエデだけ。本当は三人なんだけど、もう一人はソロイベントの方に出てる」「そうなのか」「何か、VRでダンジョンアタックしてみたかったらしくてさ。今の所、STOでそういうエリアは存在してないし」 確かに。今の所ダンジョンと言う場所はないらしいな。クルルの横穴はダンジョンと言う程入り組んではいないし、クルルの森も同上。そして、ツバキはSTOと略すのか。俺と同じだな。「で、どんなクエストをやるつもりなんだ?」 ツバキは首を傾げながら訊いてくる。クエストに関してはボイスチャットでは伝えてなかった。正確には伝え忘れたと言えばいいのか。気付いた時にはもう向かっている最中だったので、着いたら言えばいいか、と思った次第だ。「それはボ」「お菓子作り」「ボナの実を……は?」 俺の言葉に被せるように、アケビが見当違いの事を言ってきた。「お菓子作り?」「いや、違くてだな。ボボナ」「そう、で、す」 何時の間にか後ろに隠れていたサクラがツバキの疑問に肯定した。「……なんか食い違い、してない?」 カエデが冷静に指摘してくる。確かに、食い違いが発生している。と言うか、俺はてっきりボボナの実を採取する為にイワザル駆除を手伝って欲しいとアケビが言ったと思っていたのだが。 …………んん? もしかして、勘違いしていたのは俺か?
『一つ、クエストを達成するのを手伝ってくれませんか? 一つ、私達だけではどうしても達成出来そうにないものがありまして』
『いや、今日は無理だから、明日連絡入れる』
 昨日のアケビの言葉だ。俺達だけでは達成出来そうにないのはどう考えてもボボナの実の採取なのだが、アケビと……そしてサクラにとっては菓子作り。つまり【楽しいお菓子作り!】が達成出来そうにないという事になる。 また、そうなると昨日の時点では無理と言ったのに納得は出来る。なにせ、そのクエストは今日にならないと出来ないからだ。俺はこの言葉を夜になるから戦闘は不利になると解釈してしまっていたが。 …………もしかして、菓子を作った事が無いとかか? ケーキ作りをした時もケーキを作った事が無いと二人は肯定していたし。その可能性はあるな。「お前等、あのケーキ以外に菓子作った事あるか?」「「…………」」 試にそう尋ねると二人揃ってそっぽを向いてしまった。つまり、今の所作った事のある菓子はケーキだけと言う事になる。と言うか、だ。もしかして昨日クエストを受けた時点で何か言いたそうな目を向けていたのはそれが原因か? 料理スキルは持っているが作れる自信はない、と。「だったら、あの時言えよ」「「…………」」 サクラとアケビは無言を貫く。そしてアケビよ。以前に一人で色々やっていたと言っていたが、菓子作りはしてなかったのか? 料理はしていたらしいが、延々とこんがりアギャー肉(骨付き)を焼いていたのだろうか? と疑問に思っても仕方がないな。 ただ、俺の方にも非はある。あの時は二人に何も聞かずにクエストを受託してしまったからな。言いたくても、もう言い出せないような状況になってしまってたんだろう。 俺は息を吐きながら顔をツバキ達の方に戻す。「ツバキにカエデ。一応聞くが【初級料理】スキルは持ってるか?」「持ってるぞ」「わたしも持ってる」 ツバキ、カエデの両名は首肯する。「あと、菓子作った事あるか? リアルか、もしくはここで」「あるぞ。リアルで」「わたしも」 この問いにも首肯する二人。「因みに、どんなの作った事あるんだ?」「クッキーとか、チーズケーキとか、混ぜて焼くだけの手間のかからなさそうな洋菓子」「右に同じ」 それでも手間は掛かっていると思うが、兎にも角にも何種類か作った事があるようだ。 つまり、二人共【楽しいお菓子作り!】を手伝えると言う事になるが、そもそもあの場にいなかったツバキとカエデがこのクエストを手伝えるのかと言う疑問がある。「……で、俺等は結局何を手伝えばいいんだ?」「ちょっと待ってくれ」 俺はサクラとアケビの方に視線を戻す。顔はそっぽを向いているが、目だけはちらちらと俺の方に向けてくる。……まぁ、二人に意見を訊かずにクエストを受託したのは俺だしな。もし二人がクエスト受けられないのならその際は仕方がないとサクラとアケビには諦めて貰って、ボボナの実の採取の方を手伝って貰うとしよう。「…………菓子作りを手伝ってくれ」「了解」 ツバキは敬礼のポーズを取る。「じゃあ、早速行くとしようか。場所は何処だ?」「中層の保育施設みたいな所だ」「そんな所あるのか。よし、レッツだゴー!」 ツバキは握り締めた拳を天高く掲げると、そのまま中層へと向かう蔦へと走っていく。「お前が先に行ってどうする? わたし達は場所知らないんだぞ」 溜息を吐きながら、カエデは去っていくツバキの後を歩いて追いかける。「……悪かったな。あの時何も聞かないで勝手に決めて」「ううん、あの時……そして今の今まで何も言わなかった私達も悪いから。御免」「……すみません」 互いに謝る俺達パーティー。今日の説教での報告、連絡、相談……ではないが、きちんと話し合う事は大事であると痛感させられる。実際、そうしていれば今回のような誤解は発生しなかった訳だし。「行かないの?」 振り返るカエデの言葉に、俺達も中層に向かって歩き出す。


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