喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「さて」 夕飯も作り終え、残りの家事も終えたので後は自由時間だ。今日こそは情報を収集しよう。 俺はベッドに腰掛け、タブフォをインターネットに繋げる。 まずは、公式サイトを見るとしよう。『Summoner&Tamer Online』と検索を掛けると最初の方にヒットする。そこをタップしてサイトを開く。 最初は真っ黒な画面も上から光が差し込み、真っ白に変化する。その後にシンセの街の中央広場が映され、それを背景に様々なモンスター、召喚獣がわらわらと降ってくる。その後に『Summoner&Tamer Online』とタイトルロゴが振り落ちて来て各種メニューが表示される。 俺はこの中でまずはお知らせにある『アップデートについて』という項目を選択して閲覧する。 確かに、今回のアップデートver.1.02では様々なコンテンツが追加されているな。 今日出会ったモリュグ族もそうだが、クルルの森のイベントに関わるセイリー族もこのアップデートで追加されたのか。クルルの森に棲んでいるらしいが、今の所一度も出会った事が無いな? モリュグ族と同じように偶然を待つしかないか? まぁ、今度のイベントに参加さえすればそれを待つ事なく遭遇する事は出来るか。 他にもスキルとスキルアーツ、魔法の追加、スキルアーツ及び魔法詠唱の一部不具合を修正。武器、防具の追加及び弱過ぎる性能及び強力過ぎる装備の調整なども行われたようだ。 また、スキルアーツによるVR酔いを極力まで減らすような修正も行われたそうだが……あれでも改善されていたのか。もしアップデート前だったら俺は絶対にスキルアーツをやろうとは思わなかっただろう。絶対意識なくても吐いていた気がする。 あと、リースやアケビの言っていたパートナーモンスターの成長についても記載されていた。リースの言った通り信頼度が高く、かつレベルも一定以上上がらないと成長はしないと注意書きが為されていた。 他にも動作に関するバグやモンスターのアルゴリズムの修正も行われたようだ。 結構な数の調整が入っていたようだが、姉貴の言った通り、隠れスキルについては一切触れていなかった。まぁ、それはスキルの追加でもしかしたら暗にプレイヤーに伝えているのかもしれないが、個人によって異なるスキルを習得出来るとは全く書いていないので、やはり情報量が少な過ぎるぞ。 あと、確か反抗値と言うステータスについても言及されていない。姉貴曰く信頼度と真逆のステータスだと言うから、これは戦闘におけるパートナーのサポートだけではなく成長にも影響してしまう。これぐらいは書いておけよ運営。 ……取り敢えず、夜なので声を出して一人突っ込みは出来ないので心の中で済ます。アップデートで追加、修正された事に関してはもう充分に分かったので、今度はイベントの内容を確認する為にその項目をタップする。
『~イベントについて~ 四月四日午後二時より、運営主催の大規模イベントを開催! ソロプレイとパーティープレイでイベント内容が異なります。 ソロイベントを参加の方はこちら パーティーイベントを参加の方はこちら          』
 今回はソロでの参加ではないから、そっちは見なくてもいいか。パーティーイベントの方を選択して閲覧を開始する。 パーティープレイでのイベント名前は【クルルの森の異変】。
『何時もと違うクルルの森。一体何が起こったのか? それにはクルルの森に棲むセイリー族の持つ秘法が影響していると言うが、果たして……?』
 と言った説明文が最初に書いており、その下に概要が記載されている。 このイベントでは臨時クエストが発生し、それをクリアしていくことが目的の一つとなっているそうだ。だが、別に強制ではなくやらなくてもいい事になっているが、そうする事による弊害も出て来るようだ。その弊害とやらが全然書かれていないので何なのかが分からないが。 そして、イベントでは臨時クエストの他にもポイントを集めて他のパーティーと競うのも目的となっている。 ポイントは臨時クエストのクリア、モンスターの討伐等で加算されていくそうで、また、モンスターの討伐の際にスキルアーツで止めを刺すと通常よりも多くのポイントを入手する事が出来る。 一定時間ごとにポイントを多く集めた上位五パーティーが掲載されているランキングをメッセージでイベントに参加しているプレイヤー全員に一斉送信される。 このランキングに応じて、上位五チームには限定ユニークアイテムが配布される。一位が【紅水の勾玉】、二位が【青土の腕輪】、三位が【緑木の首飾り】、四位が【黄土の指輪】、五位が【黒火の耳飾り】となっており、アケビが欲しいと言っていたのは三位の【緑木の首輪】だそうだ。なので今回は三位を目指して頑張る事となる。 また、その他にも参加したプレイヤー全員に共通のアイテムが配布される事に加え、取得したポイントを消費してアイテムやスキルを手に入れる事が出来る仕様となっているので、上位にならずとも損はない仕様になっている。 また、イベント中も当然生命力減って死に戻りをする事があるだろう。死に戻りをしてもイベントの強制終了と言う事にはならないが、集めたポイントが一定数減ってしまうそうだ。死に戻りの地点もシンセの街ではなくイベント限定の場所となるらしい。 死に戻りの際にPKされた場合はポイントは減らず、PKした側のポイントだけが減るようにされているので、他プレイヤーによって生命力を0にされ、ポイントを減らされると言った悪質な行為は出来ないようになっている。 ここまではサクラとアケビに訊かされていたので知っていたが、参加方法と期間についてまでは訊かされていなかったのでそちらの方を注意深く読む。 参加をするにはパーティーリーダーがイベント前日の午後九時までに公式サイトで参加登録をしなければならないと言う事だった。これに関してはDGから公式サイトを閲覧していれば参加ボタンを押すだけで参加となるのだが、他の媒体の場合はパーティー全員の名前とユーザーIDを入力しなければならないらしい。 自分のは知っているが、サクラとアケビのIDなぞ知らない。なのでタブフォを片手にDGを手繰り寄せ、電源を入れてそちらでも公式サイトにアクセスする。そこからパーティーイベントへと移動し、参加ボタンを押す。
『参加登録を完了しました』
 そのように画面に表示されるのと同時にメッセージが届く。メッセージには俺達のパーティーの名前とパートナー、召喚獣、レベルが記載されており、最後の方に『以上のパーティーで参加を完了しました』と表示されていた。 兎にも角にも、これで俺達はイベントに参加出来る。情報収集の為に公式サイト開いてよかったよ。俺はメッセージを保存し、DGを横に置いてタブフォに視線を戻す。 で、次のイベント期間においては現実世界での三時間。つまりは午後二時から午後五時までとなっている。 しかし、体感時間では三日となるそうだ。 なんでも、VRアクセラレーターと言う装置を導入してVR世界の時間の流れを加速させるそうだ。これによりVRでの一日が終了するのは現実世界で一時間だけ必要となるそうだ。 このような装置があるのだったら、常時稼働させておけば沢山遊べるだろうに、と思うかもしれない。しかし、VRアクセラレーターによる長時間の時間加速は精神に異常をきたしてしまう等の弊害が起こる可能性があるから常時の稼働は無理と注意が書かれている。 だが、長時間でなければ影響はないらしく、四時間までなら個人差はあるが大丈夫だそうだ。今回のイベントのように三時間……つまりは三日だけならそう言った症状が絶対に出ないと証明されているようで、こう言った大規模イベントのみでVRアクセラレーターは稼働されるように国から認可を受けているらしい。 まぁ、大丈夫と言う事なので安心してやる事にしよう。 さて、公式サイトでは他に調べる事とは特に無いな。お知らせの場所にもイベントの事しかなく、開発者ブログなるものも存在するが見ても特に真新しい情報は手に入らないだろう。 次はウィキなる攻略サイトを閲覧してみるとするか。 検索画面に戻り『Summoner&Tamer Online 攻略ウィキ』と入力して検索を掛ける。 すると、確かにそのようなサイトが引っ掛かった。取り敢えず、そこをタップする。 そのサイトには攻略に関する情報を載せると共に誰でも編集を可能としているようだ。メニューと最新一覧が表示されており、取り敢えず俺はメニューを選んで項目を羅列させていく。 攻略情報にはエリア一覧やクエスト一覧が表示されていた。他にもモンスター一覧やスキル一覧、装備一覧、アイテム一覧、パートナーモンスター一覧、召喚獣一覧等があった。あと、小技裏ワザ一覧と言ったものも存在している。 俺は取り敢えずモンスター一覧を開く。そこにはアイウエオ順でモンスター名が表示されていて、更に選択する事によって個別の詳細が掛かれたページに行くようだった。 試しにアギャーの項目を選択する。 飛んだ先ではアギャーの身体的な特徴、出現エリア、攻撃方法、弱点、耐性、取得経験値、取得アイテム等が纏められていた。成程、確かにこう言う情報を仕入れておけば戦いも有利になるし、目当ての素材、食材アイテムも手に入れやすくなる。 装備一覧では武器、防具、ファッション、アクセサリと分かれており、更に個別の記事では能力の他に作り方まで記載されていた。だが、あくまで大まかにしか書かれておらず、このページの最初では『これを元に自分なりの作り方で理想の装備を作りましょう』と注意書き? が書かれていた。 エリア一覧でクルル平原を選択すれば、最初に広大な全体マップが表示される。また薬草の採れるポイントや他のエリアへと続く場所を記載、更には出現するモンスターの名前が表示されている。 マップの下にはエリアの特徴が書かれており、これを参考にしてエリア攻略をしていけばある程度は苦戦せずに行けると言う事か。 流石にクエスト一覧を見る事はしなかった。クエストの中には怪盗からの挑戦状のように一つのストーリーとなっているものもある。そう言ったもののネタバレも記載されている可能性があったので、もしそうだとしたらクエストを攻略する際の楽しみが半減されてしまうだろう。そう思ってクエストに関しては最初から見る気はない。 まぁ、それはそれぞれのエリアの情報、モンスター情報にも言える事だ。初めて会うモンスターでは何が弱点で、そのような攻撃を行ってくるのか分からない。それを自分自身が対峙して確かめていくのも楽しみの一つだ。 俺の場合はストーリー性のあるものの情報収集を拒み、装備作成やモンスター等に関する情報は別に構わないと区切りをつけている。この区切りは人それぞれなので自分のそれを押し付けようとは思わないし、押し付けられそうになれば拒む。 と言う訳で、今回はクルルの森とクルルの北の森に関する情報を頭に叩き込む為にそのページを表示させ、入手出来るアイテムや出現するモンスター等のページへと飛んで頭に入れていく。「……ん?」 閲覧していると、メールを一通受信していた。「…………」 タブフォの上端にメールの送信者が表示されたのを目で確認し、一度攻略ウィキを閉じてメールの文章を見る。「…………」 メールの文章は短くはなかったが、長過ぎると言う事も無かった。読み終え、このメールを直ぐに閉じて攻略ウィキへと戻ろうとする。「…………」 が、タップしようとする指は自然と止まってしまう。「…………はぁ」 溜息を吐きながら、俺は先程のメールに返事を送ろうと送り主に対して文章を簡単に打ち込む。 書いた文章に間違いがないかどうかの確認をする必要はなかったので直ぐに返信する。「……もう終わった事なのにな」 そう呟くとまたメールが来た。さっきの返事のようで確認をしてみると眉間に皺が寄るのが分かった。 俺はそれに返信する事も無く、そして調べる気も削がれてしまったのでタブフォを机の上に置いてシャワーを浴びて寝る事にした。 シャワーを浴び終えて部屋に戻るとDGにメッセージが届いており、サクラとアケビから漸く参加登録をしたのかと言う旨の文章が書かれていた。 アケビに至っては明日まで登録をしていなかったら催促のメッセージを送ろうとしていたらしい。 二人に謝罪のメッセージを送り、DGの電源を落とす。それと同時にタブフォがメールを受信した。 誰からのメールかを確認し、それを開きもせずにタブフォの電源も切り、部屋の灯りを消してベッドに横になる。 …………本当、しつこいな。 睡魔に襲われ、夢の世界に旅立つ寸前まで、そう思った。


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