草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第19章 クラスメイトと雄介 3

 こんなにも暖かい場所さえも雄介は手放し、仇が打ちたかったのか。 それは本人にも今は分からない、しかしこの胸の痛みが、段々雄介は分かり始めていた。
「おーい、次は今村と山本だぞー」
 教卓の前に居る堀内が、雄介と慎にくじの順番を告げる。
「お、じゃあ行くか…って言っても、加山が行かせてくれればだが……」
 気が付くと、雄介は加山に制服の袖を捕まえれ、涙目で雄介を見ていた。
「雄介~、今の席は嫌なのぉ~」
「えっと……なんていうか……」
 雄介は返答に困ってしまう。 こんなに悲しまれると思わなかったので、なんと言っていいか分からない。
「はぁ……優子、それなら今度は今村君の隣を引けば良いでしょ……」
「いってらっしゃい雄介! 絶対私の隣を引いてね」
「う…うん…頑張てみるよ……」
 優子は沙月に言われ、コロッと態度を変えて、雄介の袖を離し笑顔でそう言う。 雄介は、いくら何でもそれは無理だと思いながら教卓に向かい、用意された箱からくじを一つ引く。
「お! 俺は今の加山の席だな、窓際ラッキー。雄介はどうだった?」
「えっと、今の席と変わらないかな?」
「すげーな、変わりなしかよ。じゃあ、席が前後で近いな」
「うん、そうだね」
 これは雄介にはありがたかった、今のところ慎と一番砕けて話が出来るし、何より信頼が出来る。 とりあえず、慎と雄介は先ほどまでいた雄介の席付近に戻り、優子に結果を告げる。
「どうだった?」
「あぁ、俺は今の加山の席で、雄介は変わらずだ。だから、加山はこの席を取らなくちゃな」
「よし! 頑張る!」
「優子が頑張っても仕方無いでしょ……」
 そんな事を離しながら、優子と沙月は教卓の方に向かい、くじを引きに行った。
「まぁ、加山には申し訳ないが、確率が低いからな……」
「だよね、流石に狙った席には……」
 なんて話を慎と雄介がしていると、教卓の方から優子の元気な声が聞こえて来た。
「やったぁぁぁぁ!! 雄介やったよ~!」
 雄介と慎は、そんな加山の様子から優子が目的の席を獲得した事を察する。
「マジかよ……」
「加山さんって、運良いんだね……」
 こんなところで運を使って大丈夫なのだろうか? そんな事を考えていると、優子が雄介の元に戻ってくる。
「やったよ! 流石! 愛の力は凄いね~」
「あ…愛なんだ……」
 加山の言葉に苦笑いで答える雄介。 結局雄介の席の状況はたいして変わらなかった。 前に居た優子が隣に移動し、前の席に慎が来たくらいだ。
「ん……終わったか?」
 丁度全員くじを引き終わったところで石崎が目を覚ました。 椅子に座りながら大きく伸びをし、委員長に席替えが終わったかを尋ねる。
「後は、席を移動するだけです。先生も移動してください、邪魔になります」
「教師に邪魔って言うなよ……よっこらせ! ふぅ……」
 石崎は立ち上がり、教卓に椅子を戻して、席を移動させるように指示を出す。 石崎の指示に従い、クラスの生徒は全員移動を開始する。
「う~ん、結構景色は変わったな……うるさい奴らが隣同士になったもんだ……」
 石崎は、目の前の一番前の席に仲良く席を並べる、堀内と江波を皆がら言う。 堀内と江波は、石崎に言われ声を揃えて「こいつと一緒にしないでください!!」と言っていた。
「なんであんたが隣に居るのよ!」
「それはこっちのセリフだ! しかも黒板の目の前って……地獄だ…」
 堀内は絶望的な表情を浮かべながら、頭を抱え俯く。 そんな堀内に対して江波はまだ諦めていない様子で、先生にやり直しを要求する。
「先生! やり直してください!! こいつ一緒じゃ、うるさくて授業に集中出来ないです!」
「んー、まぁ頑張れや」
「返答適当過ぎませんか!!」
 寝起きで頭が回らないのであろう、石崎は江波に適当に返事をすると、大きなあくびをした。
「まぁ、お前らは席が離れてもうるさいし、どっちにしろかわんねーから良いか……」
「「良くねーよ!!」」
 またしても声を揃えて言う江波と堀内、雄介はそんな二人を見て、本当に仲が悪いのか疑問に思う。 そんな事をしている間に、一時間目終了のチャイムが鳴り、授業が終わりを迎えた。
「良し、じゃあここまで、じゃあ俺は職員室に帰る……」
 職員室と言う単語に、雄介は少し引っかかった。 石崎は朝、雄介の事を悪く言った湯島に対して少し行き過ぎた反撃をした。 職員室で白い目で見られていないか少し心配になった。
「あ、今村。そんな可哀そうな人を見る目で俺を見なくても大丈夫だぞー、一応俺にも見方は居るみてーだから……」
 教室を去る間際、石崎は雄介にそう言い残して教室を後にする。 心配するな、と言う意味だろうか? と考えながら、雄介は石崎が言った言葉の意味を考える。 雄介が真剣に考えている中、それを隣から見つめる強い視線がある事に、雄介は直ぐに気が付いた。
「あ、あの……加山さん……」
「もぉ~、優子で良いって言ったのに……」
「す、すいません。優子さん何か?」
 頬を膨らませ、雄介の呼び方に対して不満をいう優子。 雄介は直ぐに呼び方を訂正し、なぜそこまで凝視していたのかを聞いてみる。
「あぁ、なんでもないよ~、気にしないで~」
「は、はぁ……」
 雄介はあまり納得のいかないままに会話を終了し、再びボーっと外を眺め始める。 すると今度は前の席から声が掛かった。
「なに見てんだよ?」
「ん? あぁ、ちょっと外をね……」
「なんか面白いものでもあんのか?」
「いや、別にないよ…でも、なんていうか懐かしい気がして……」
「ふーん、まぁ確かに、お前は記憶を無くす以前も、良く外を見ていたからな」
 慎も雄介と同じく、窓の外を眺め始める。
「……あとは……」
「ん? 後は?」
「隣の視線が強すぎて、逆方向を向いていたいからかな……」
「あぁ……こりゃあ耐えられんわ……」
 慎は隣の席を見ながら納得する。 隣の席では、優子が雄介の事をすごく見ていた。 目を輝かせ、時に表情を変えて雄介を凝視している。 雄介はそんな視線に耐えられず、外に視線を逃がした意味もあった。
「にしても、加山が隣って事は、これからの授業も大変そうだな……」
「この状況から察するに、自分もそう思うよ……」


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