草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第12章 後編15 草食系とお嬢様

 雄介が織姫と出会ってから、既に二週間が経とうとしていた。もう十月になろうかという時期にきて、雄介たちの学校では文化祭の季節を迎えていた。
「はぁ~、嫌な季節だ」
 雄介は窓の外を見ながら、だるそうにつぶやく。すると前の席の加山が、いつものように雄介の方に体ごと方向を変えて話しかけてくる。
「私は秋って好きだけどな~。あ! 安心して、雄介の方が好きだから!」
「誰も聞いてねーよ」
 いつも通りの加山に、いつも通りのツッコミを返す雄介。本日、最後の授業の前の休憩時間。最後の時間は文化祭の出し物について話し合いがあり、教室中がざわついている。
「文化祭楽しみだね~」
「俺は憂鬱だよ。学校にいつも以上に女子が来るなんて」
 そんな事話している間に本日最後の授業が始まる。先生が文化祭の説明をし、先に決まっていた実行委員が、その後の司会と進行をし話は進んでいく。 高校生活で初めての文化祭とあって、みんな積極的だ。
「今現在出ている案は、黒板の通りですが、他に意見ありますか?」
 黒板には、飲食店、フリーマーケット、お化け屋敷、展示会、と案が四つ出ている。雄介は、フリーマーケットなら楽そうだ、と思いながら話し合いを聞いていた。
「はい! 私は飲食店が良いです!!」
 雄介の目の前の席で加山が声を上げて立ち上がる。雄介は一番恐れていたことが起こったと思った。
「喫茶店とかにすれば、本格的な料理は出さなくてもできそうだし、それに可愛い制服で接客とかしてみたいし!」
 加山の意見に、クラスのほとんどが賛同しつつあった。雄介は流石は人気者だな、と思いながらその様子を眺めていた。
「じゃあ! 是非ともメイドカフェに!」
「それは良いな! 俺もその意見乗ったぜ!」
「加山さんのメイド姿……俺も乗った!!」
 急なメイドカフェの提案に、クラスの男子はどんどん賛同の声を上げていく。しかし、女子は……
「はぁ? 男子何考えてんの~、バッカじゃない?」
「やらしい事しか考えてないくせに、私ら嫌だからね、そん恥ずかしい」
 女子は大多数が、反対の様子だ。理由は恥ずかしいから。確かに可愛い服と加山も言っていたが、メイド服は可愛い服ではなく、女子からは恥ずかしい服としてとらえられている様子だ。
「なんだと!! メイド服の何が悪い! メイドさんはあの服で日々の家事や仕事こなしているんだぞ! 何を恥じる必要がある!!」
「「「そうだ! そうだ!!」」」
 雄介や慎以外の男子は全員乗り気で、今までにない団結力を見せて、女子を説得するが、女子も負けていない。
「あんたらの考えるメイドなんて、アニメや漫画の中のメイドでしょ! 現実にメイドなんて存在しないのよ!!」
「「「そうよ! そうよ!!」」」
 女子は一般論を語って、男子たちを納得させようとする。もっともな意見に、息詰まる男子たち。
(まぁ、実際は居たけどね……メイド…)
 雄介は倉前さんの事を思い出しながら、若干苦笑いを浮かべる。
「クッソォー! こうなったら、恨みっこなしの多数決と行こうじゃねーか! このクラスは男女20人づつ!! 公平な投票が出来るはずだ!」
「良いわよ! 白黒はっきりさせようじゃない!」
 さっきから男子の中心となっている帰宅部の堀内と女子の中心となっているこちらも帰宅部の江波。二人はクラスの全員の多数決を取って、普通の喫茶店にするか、メイドカフェにするかを決める案を出す。 この二人のせいで、文化祭実行委員の男女は完全に空気になっている。 やがて、投票箱と投票用紙が準備され、クラスの全員が記入し始める。雄介は正直どちらでもよかったのだが、女子の露出度が高いのは遠慮したいので、女子サイドにつき普通の喫茶店に一票を入れる事にする。
「はっ! 今気づいた! 男女半々づつじゃ、引き分けの可能性もあるじゃねーか―!!」
「そ、そうだったわ!!」
(こいつら、アホだな~)
 雄介は声には出さなかったが、心の中でそう思っていたが、同時にその心配はないとも思っていた。なぜなら、女子サイドには雄介が投票するからだ。 結局、引き分けになったらジャンケンで決める事になった。じゃあ最初からジャンケンしろよ、なんてことを考える雄介だが、面倒なので何も言わない。
「良し! 全員入れたな! 開票!!」
 箱を開け、投票用紙を数えていく実行委員の二人。その様子を男子も女子も祈るように見つめていた。そして、投票結果がついに発表される。実際、雄介はこの時、どうせ女子の勝ちだと思っていた。
「じゃあ、結果を発表します」
「「「ごくり」」」
「結果は……………引き分けです!!」
「やっぱりか!!!」
「もうジャンケンしかないわね!!」
 この結果を聞いたクラスは若干の納得があった。しかし、雄介は納得がいかなかった。なぜ、自分が女子サイドの普通の喫茶店に投票したのに、引き分けなのかと……
「ねぇ、雄介……」
 投票の結果に疑問を抱いていると、加山が前の方から声をかけてきた。
「なんだ?」
「雄介って私のメイド服姿見たい?」
「はぁ?」
 実際、雄介はどうでも良かった。おそらく加山が、メイド服を着て自分にアピールでもする作戦なのだろうと、思い雄介はあえてこう言った。
「俺、メイドって嫌いなんだ」
「はーい、私! メイド喫茶に一票入れまーす」
「「「えぇぇぇぇぇ!!!!」」」
 みんなの声と雄介の声が重なり、クラス中が驚きの声で包まれた。
「おい! 加山! ちゃんと聞いてたのか? 俺はメイドが嫌いだと……」
「うん、その雄介の眼は何か嘘を言ってる目だから、メイドさん大好きなんだと思って!」
「お前は一体何者だよ……」
 確かに、雄介は最近。倉前さんという、本物のメイドさんに出会い、メイドに対して尊敬に似た感情を抱いてはいたが、まさか加山が、それを察するとは思わなかった。 そして、雄介のクラスの出し物はメイド喫茶に決まった。最後まで嫌がった女子たちを加山が説得し、男子が何かコスプレをして接客をするなら、という事で話に決着がついた。

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