甘え上手な彼女

Joker0808

♯29

「高志……呼んでるわよ?」

「紗弥、俺に出て行ってどうしろと?」

 高志達三人は、助けを求める優一を他所に、倉庫裏で苦い顔をしながら、話しをしていた。
「まさかそんな性癖だったなんて……」

「色々な子が居るのね……ちなみに高志はどっち?」

「何がだ、紗弥?」

「S? それとも……」

「紗弥、その話しは後にしよう……」

「と、とにかくどうするのよ?!」

 三人は、少しの間考えた。
 そうこうしているうちに、変態性癖を暴露した、芹那は優一にジリジリ近づいていた。

「せ、先輩……わ、私……先輩になら……何をされても……」

「ま、まて! 落ち着け! 君の歳でその特殊な趣味に目覚めるのは早い!!」

「趣味に年齢なんて関係ありませんよ~」

「性的な趣味には関係あんだよ!!」

 やがて、優一は体育館の壁際まで追い詰められる。
 基本的に女性に手を出さない優一は、芹那に手を出さず、少しづつ近づいて来る彼女から、逃げるしかなかった。
 優一に色々な大事な物が奪われそうなそのとき、体育館の裏の倉庫から高志が姿を表した。
「ちょっと待った、お二人さん」

「やっぱり居やがったな……」

「や、八重先輩?」

 優一は高志の登場に、ホッと溜息を吐き。
 芹那は高志に驚き、半歩後ろに下がった。
 
「俺だけじゃないよ」

 高志がそう言うと、倉庫の裏から紗弥と由美華が姿を現した。

「ど、どうも~」

「こんにちは」

 気まずそうに挨拶をする由美華とは対象的に、紗弥はほとんど無表情だった。
 芹那は、まさか自分の変態性癖が、他の人間に聞かれているとは思わず、顔を真っ赤にする。

「な……せ、先輩方……いつからそこに?」

「えっと……最初から…」

 そう言った瞬間、芹那の顔をから血の気が引いた。
 芹那はそのままその場に崩れるようにしゃがみ込む。

「そ……そんな……わ、私の……秘密が……」

「あ、だ、大丈夫! 誰にも言わないから!!」

「そうそう! 盗み見してた私たちも悪いんだし!」

「ねぇ、なんでそんなに那須君に執着するの?」

 謝る由美華と高志とは違い、紗弥は芹那に質問し始めた。

「さ、紗弥! そこでそんな質問は…」

 高志は紗弥の質問を止めに入るが、紗弥の言葉は止まらない。
 いつもの高志を見る、柔らかな笑顔では無く、紗弥は何を考えているのか、よくわからない、無表情に近い顔で芹那に尋ねる。

「そんな、そういうプレイだけが目的なら、那須君に失礼よ? 貴方がそう言う変態的な趣味の妄想をしている間、彼は貴方を思って悩み続けたのよ? それなのに、そんな理由はあんまりじゃないかしら?」

「紗弥……」

 紗弥は優一の事を思って発言してくれていた。
 相談を受け、デートの様子を盗み見た紗弥には、優一の真剣な思いがわかっていた。
 そして、断る事に関しても優一は、芹那に申し訳なさを感じていた。
 そんな優一を紗弥は知っているから、ここまで厳しい事を芹那に言う。

「先輩! 何か誤解をしてませんか?」

「え?」

「私は、那須先輩のありとあらゆるところが好きなんです!」

「それはどう言うこと?」

「確かに、最初は先輩の力強いキック力に惹かれました……」

「そこに魅力を感じるのって、サッカー部とかじゃない?!」

 思わず優一は芹那にツッコミを入れる。
 しかし、紗弥と芹那の間には何も聞こえていない様子で、話しは続いて行く。
 
「でも、今は……先輩の実は優しいところとか…少し馬鹿なところとか……兎に角全部大好きなんです!」

「君今、俺をさり気なくディスらなかった!?」

「だから、私は絶対に那須先輩を諦めたくないんです!!」

「う……」

 芹那は、紗弥にではなく、優一に思いのたけをぶつけた。
 優一は、先ほどとはまるで違う、芹那の真っ直ぐな告白に、顔を赤らめる。
 紗弥はそんな二人を見ながら、わずかに口元を歪めていた。

「だから私のご主人様になって下さい!!」

「おい! 今の告白絶対おかしいぞ!! 最後に油断しただろ! 俺はそんな告白は受けない!」

「なんでですか!? 何処がダメなんですか!」

「全部だ!! お前みたいなド変態に付き合ってられるか!!」

「ど、ド…変…態………はぁ…」

 優一にド変態と言われた、芹那は何故か顔を赤らめ、吐息を漏らす。
 
「うわぁ……本物かよ…」

「はぁ……その蔑む視線も、言葉も最高です! 私、諦めません! 絶対ご主人様になって貰います!!」

「そこは彼氏って言えよ!!」

「え!? 彼氏になってくれるんですか!」

「そう言う意味じゃねーよ!!」

 高志は漫才のようなやりとりを続ける優一を見て、ふと笑みがこぼれる。

(意外と、あの子は見てるかも知れないな……)

 優一は、噂の根源として学校内でも有名だ。
 当然、そんな事をしてる奴を優しいなんて言う奴は少ない。
 しかし、高志は優一がどれだけ優しい奴なのかを知っていた。
 そして、芹那もそれを知っているのだろう、だから優しいの前に「実は」と付けたのだ。
 意外に、この二人は付き合ったら上手くいくのでは無いか?
 などとを思う高志だった。

「ところで、紗弥」

「何? 高志」

「あの子にわざとキツい事言ったのは、本心を聞くためか?」

 紗弥の言葉が無ければ、芹那は真っ直ぐな気持ちを優一にぶつけられ無かったかも知れない。
 高志は紗弥がわざと、芹那を焚きつけたのではないかと、想像していた。
 そうしなければ、優一の中で、芹那はただの異常性癖の変態と言う認識しか持てなかっただろう。

「ウフフ、私はそこまで頭の良い人間じゃないわ……ただのアドバイスよ……先輩からの」

 相変わらずの優しい笑みを浮かべながら、紗弥は高志に言う。
 二人がそんな話しをしている間に、優一は更に芹那に迫られていた。

「じゃあ、徐々にでいいです! 友達からお願いします!」

「最終的に俺は何になれば良い?」

「ご主人さ……」

「だから、彼氏って言えよ!! 俺、君のこと叩いたり蹴ったり、絶対出来ないから!」

 最早止めたら良いのか、このままにしておけば良いのか、高志と紗弥、そして由美華にはわからなかった。

「もう付き合ったら? アンタ、これのがしたら、一生彼女とか出来ないかもよ?」

「彼氏の居ない御門にだけは言われたくない!」

「わ、私は良いのよ! さ、紗弥さえ居てくれれば……」

「あぁ……ここにも特殊なのが一人居たんだ……」

 優一の質問に対して、由美華は頬を赤らめながら、ちらっと紗弥の方を向く。
 やっぱり、由美華は紗弥を狙うライバルか!?
 などと高志が思っている一方、紗弥は呑気に由美華に言う。

「私も由美華が一番かな? 友達なら…」

「さ、紗弥……あぁ~紗弥可愛いよ~! もうほっといて、二人でクレープ食べに行こう~」

 そう言って、由美華は紗弥に抱きつく。
 高志はなんだか、紗弥が近いうちに襲われるのではないかと、心配になった。
 結局、返事は保留となり、優一と芹那の関係は、ひとまずは友達という関係に収まった。

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