甘え上手な彼女

Joker0808

♯23

 その日、高志は机の中に違和感を感じた。
 高志は机の中の物は、基本的にすべて持ち帰る用にしていた。
 なので、朝来たとき、高志の机の中は空になっているのが当たり前だった。
 しかし、今日はそうではなかった。

「なんだこれ?」

 高志は教科書を机の中に入れようとしたときだった、中に何やら封筒のような物があるのを発見した。
 何かと思い、高志が手にとって確認してみると、中に入っていたのは手紙だった。

「なんだ……これ?」

 高志はその手紙を手に取る。
 中には何かが入っているらしく、少し膨らんでいた。
 手紙には「八重高志様」と書かれており、自分宛と言うことはわかった高志だったが、誰から来たのかがわからなかった。

「俺宛だよな?」

 高志はとにかく中を確認してみようと、手紙の封を開け始める。
 健全な男子高校生ならば、机の中や下駄箱の中に入っている手紙に胸を躍らせるのかもしれない。
 しかし、高志は違った。
 つい一月ほど前に、紗弥から告白され、交際している事が公になっている。
 そんな高志の状況を今や学校中が知っていた、そんな高志の現在の状況下で、まさかラブレターを渡そうと言う女子がいるわけがない。
 それに、高志は自身がモテる訳が無い事を自覚していた。
 紗弥に告白されたのをきっかけに、モテ期などと言うものが自分に来るわけがないとわかっていた。

「どうせ、悪戯かなにかだろ……」

 高志は手紙をの封を開け、中の手紙を取り出して広げる。
 手紙にはこう書かれていた。

『貴方の事が好きです。放課後体育館裏で待っています』

 呼んだ後に高志が思った事はこうだった。

(ベタだなぁ……ベタすぎて気持ち悪い……)

 可愛らしい文字ではあったが、なんとなく高志は、この手紙が罠じゃないかと感づいていた。
 絶対にこの手紙の通り、体育館裏には行って行けない気がした。
 ともかく、高志は一人で解決出来る問題では無いと悟り、授業の間の休み時間に優一を連れだし、階段の踊り場で手紙について相談をしていた。

「なるほど、確かにベタだ」

「だろ? ベタすぎて気持ち悪くてさ……」

「確かにな……字もなんだか所々震えた感じになってるし……完全に罠だな」

「やっぱりか、そうだよな、達の悪い事をする奴が居たもんだ…」

「あぁ、あるはずが無いからな、先月告られておきながら、更には一ヶ月後に別な女子からラブレターなんて貰うはずが無い!」

「言い切ったな……」

 優一は強く拳を握りしめ、空に向かってそう言い切ると、再び手紙を見て高志に言う。

「ふざけた野郎だ! 宮岡と付き合ってなかったら、高志は絶対騙されていたぞ!」

「そんな事は無いと思うが……」

「ともかく! 俺はそんな男の純情を弄ぶような野郎は嫌いだ! 差出人を暴いて、そいつの悪評を流してやる……」

「そ、そこまでしなくても……」

「いいや! する! 何せ俺にも似たような物が来たからな……」

 優一はそう言いながら、ポケットから高志と同じような手紙を出す。
 
「あ、お前も貰ってたのね……」

「あぁ、絶対に許せない!! 俺をこけにしやがって!!」

「俺が手紙を見せなかったら、お前は気がつかなかったんじゃないか……」

 闘志を燃やす優一を他所に、高志は溜息を吐く。
 
「んで、どうするんだ? どうやって差出人を特定する?」

「この差出人は、体育館の裏を指定している! 授業が終わったら、速攻で体育館裏に向かい、隠れて奴らが来るのをまつ。そこで奴の顔を特定し、後は俺がそいつの悪評を流す! これで完璧だ!」

「それだけかよ……無視すれば済む話しじゃないか?」

「ダメだ! 俺を甘く見た事を後悔させてやる!!」

「へいへい、じゃあ頑張れよ~」

「何を言っている? お前も手伝うんだぞ」

「いや……俺放課後は紗弥と……」

「宮岡には旦那を借りると俺が言っておいてやろう」

「勘弁しろよ……」

 なんだか面倒な事になってしまったなと、高志は内心思いながら、溜息を吐く。
 時間はあっという間にすぎ、とうとう放課後になってしまった。
 優一は昼休のうちに高志を放課後借りる許可を紗弥から得ていた。

「よし、奴らはまだ来てないみたいだな……」

「なぁ、もしもこの手紙は本物だったらどうすんだよ」

「は? 本物? あるわけ無いだろ、手紙が重複しているんだぞ」

「まぁ、そうだけど……あ、誰か来た!」

 高志と優一は、体育館裏の倉庫裏に隠れながら、手紙の差出人らしき人物を見る。
 そこには男子生徒が数人居た。
 やはり優一の言うとおり、手紙は嘘だったようだ。

「フッフッフ……二組の井上に、倉田、岡田だな……覚えていろよ……今日の夕方には、お前らがホモだと学校中に広めてやる……」

「お前なぁ……まぁいいか、それよりも終わった事だし、バレないうちに反対側から帰ろうぜ」

「そうだな……ソーッとだぞ」

 高志と優一は、差出人を確認し終え、男子生徒がやってきた反対側からその場を離れようとした。
 倉庫の裏のそばには、植え込みが有り、しゃがめば、体を隠すことが出来た。
 優一と高志は植え込み沿いを進んで、体育館裏からグランドの方に出た。

「あぁ~、腰が痛くなったぜ~」

「犯人もわかった事だし、俺らはそろそ……」

「あ、あの!」

「「へぇ?」」

 体育館裏から、グランドの端に無事に出ることが出来た優一と高志達は、後ろから声を掛けられた。
 声の主は女の子だった。
 ショートカットの小柄な女の子で、中々に可愛い子だった。

「なんか用か?」

 答えたのは優一だった。

「あ、あの……手紙……」

「あ! まさかお前も協力者だな! 良くも俺の純情を!!」

「おい、優一待てって、決めつけるのは良くないぞ?」

「だけどよぉ! お前も見ただろ? あいつらのニタニタ笑った顔!」

「そうじゃ無くて……もしかしてだけど、お前の手紙ってさ…その子から貰った本物なんじゃね?」

「は? 何言ってんだ、犯人ならあいつらが……」

「いや、だから、あいつらは俺を呼び出して、何か言いたかったんだろうけど、偶然お前に手紙を出してたその子が、あいつらと同じ場所を指定してたんじゃないのか?」

「はぁ? モテない俺が?」

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