甘え上手な彼女

Joker0808

♯6

「え? 何! 宮岡さんってあいつの事好きだったの?!」

「えぇ、何か問題?」

「い、いや…問題って事はないけど……」

 紗弥に尋ねて来た、一人の男子生徒に、紗弥は落ち着いた様子で答える。
 言われた男子生徒は、返答に詰まってしまった。

「なんでこの時期に?! まさか二人とも前から知り合い?」

「昨日まで、ろくに話しもしたこと無かったけど?」

「ほ、本当に宮岡さんの方から告白したの!?」

「えぇ、私から昨日彼に言ったのよ」

 次々と来る質問に、紗弥は淡々と答えて行く。
 教室の他の生徒は、紗弥の話しを聞き、高志と紗弥の話題で持ちきりになった。

「ちょっと! 良いの? そんなあっさりバラして!」

「別に良いじゃない? その方が悪い虫も寄って来ないし」

「相変わらず、紗弥は八重君に夢中なのね……」

 心配そうに言う由美華に、紗弥は何食わぬ顔でそう言い放つ。
 教室の中では、一部の男子生徒が夢も希望も無くしてしまったように、真っ白になり。
 女子は、今まで恋バナの一つも無かった紗弥が彼氏を作った事に、興味津々の様子だった。 そんな中、紗弥はスマホを弄りながら、ホームルームが始まるのを待った。





 教室が軽いお祭り状態になっているころ、高志は優一と共に学校の屋上にやって来ていた。
 屋上のフェンスに背中を預けながら、高志は昨日の出来事を優一に説明していた。

「なるほど……それで、付き合う事になったと……」

「あぁ、俺も昨日は色々ありすぎて……」

「そうか……お前も疲れただろう、今楽にしてやるからな」

「その荒縄はどこから出した?」

 心配そうな表情を浮かべながらも、優一はどこからか取り出した荒縄を高志の足に結び始める。

「大丈夫! この縄頑丈だから!」

「おい、バンジーか、バンジーをやらせようとしているよな?」

 高志は、優一の持っていた荒縄を没収し話しを再開する。

「俺も正直驚いたよ……お前のアイコンの隣にあのマークが出てたの見つけて、すぐさまお前と俺の共通の友人に、一斉にメッセージを送って……その後返信の対応して……」

「やっぱり見てたのか……しかも既に広めてるのかよ」

 どこか遠くを見つめながら、やりきったような感じの表情を見せる優一に高志はため息を吐く。

「嫌な予感はしたけどさ……」

「そうは言っても、お前も迂闊(うかつ)だぞ? あのマークが付くって事は「彼女ができました」って自分から公表するようなものだ。俺が何もしなくても、誰かがしてたと思うぞ?」

「違うんだよ……あれは……」

 高志は、昨日の紗弥との連絡先交換時の一連の出来事を説明する。
 自分が望んだのでは無く、紗弥が望んだ事だと告げると、優一は驚き高志に尋ねる。

「え? あの宮岡が? あの男を全く相手しない宮岡がか?」

「あぁ、半ば無理矢理に……」

「……お前……金銭を要求されてるとかじゃないよな?」

「まぁ……普通はそう考えるよな……あの宮岡だし……」

 宮岡紗弥と言う女子生徒は、この学校では一切男になびかない、クールビューティーな美少女として有名だった。
 そんなイメージしか無い宮岡が、そんな事をするとは、誰も考えられなかった。
 しかし、高志は昨日あれだけの事をされたうえに、今日は手を繋いで登校までしてきた。
 流石にもう夢では無いと気がついていたが、なにか裏があるのでは無いかと、思わずにはいられなかった。

「ま、なんにせよ気をつけろよ、お前はあの宮岡と手を繋いで登校したんだ、どれだけの男子生徒を敵に回したかわかってるのか?」

「まぁ……大体……」

 朝、昇降口から教室に向かうまでで、既に多くの殺気を感じている高志は、自分の身の危険を感じていた。

「かく言う俺も……リア充を憎む男子生徒の一部なので、一発くらい殴りたいと考えている」

「先生! ここに今まさに非行に走ろうとしている生徒がぁぁ!!」

 高志は、友人の迷いの無い目を見て恐怖を覚えて叫ぶ。

「馬鹿野郎! 百発のところをまけにまけて、一発で済ましてやろうってんだ!」

「一発も殴らない方向にはならないのかよ!」

 高志は、拳をワナワナと振るわせて近づいて来る優一から距離を取る。
 優一は拳を握りしめ、ゆっくりゆっくりと高志に近づく。

「お前……あれだけの美人に迫られたうえに……部屋で二人っきりだとぉ……羨ましいんじゃボケェェェェ!!」

「落ち着け馬鹿! それはただの嫉妬だ!」

「やかましい! 紐有りバンジーか、俺の拳百発か……選ばせてやろう」

「だからなんで紐有りなんだよ! しかも結局百発殴るのか!」

「安心しろ、紐の長さは校舎の高さより長い」

「安心出来るか! バンジーになんねーだろ! 即死だ!」

 そんな会話をしながら、高志と優一が屋上で鬼ごっこをしていると、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。
 
「ちっ! 運の良い奴め……」

「それが友人に対して言う台詞か! どっかのラスボスみたいな台詞だったぞ!」

 などと話しをしながらも、高志と優一は教室へと戻って行く。
 




「あの……今なんと?」

「だから、一緒にお昼食べようって」

 時間は過ぎて現在はお昼。高志も昼飯を食べようと優一と学食に向かおうとしていた。
 あの後、授業と授業の間の休み時間の度に、高志はクラスメイトからの質問攻めにあった。 昨日の出来事についてや、どうやって紗弥を落としたかなど、逆に高志が聞きたいような質問ばかりだった。
 そんなこんなで、ようやく昼休みとなり、高志は一刻も早く教室を出て、学食でゆっくり食事をしたかったのだが、その行く手を紗弥が塞ぐ。

「えっと……俺は飯は学食か購買派なんですよ……宮岡みたいに弁当じゃないし、今日は別々でも……」

「そうだと思って、八重の分も作って来たから一緒に食べよ」

「な……」

「「「「なんだってぇぇぇ!!」」」」

 高志が答える前に、教室の男子生徒が声を上げて叫ぶ。
 男子生徒の叫び声に、高志は思わず教室を見渡す。そこには、膝を抱えてうずくまる者や、地面に両手をついて絶望の表情を浮かべる男子生徒の姿があった。

(個性的なクラスだなぁ……)

 咄嗟にそんな事を考えてしまう高志は、このクラスで上手くやっていけるか、心配になってきていた。

コメント

  • 神代 夜

    私もこんなにニヤニヤできて面白い作品を作りたいです。

    0
  • 黒流星

    高志と優一のやり取りは、面白いわ笑

    2
  • ノベルバユーザー240181

    いいクラス俺の学校のクラスとは大違い

    3
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