99回告白したけどダメでした

Joker0808

138話




「じゃ、俺はこっちだから、山瀬さん誠実が襲って来たらためらわずに股間を蹴り上げるんだよ」

「おい! 人を変質者みたいに言うな!!」

「少し前までストーカーだったろ……」

 店先で武司と別れ、誠実は綺凜と二人で帰宅の途中だった。
 夏休み前よりも綺凜から信頼されたらしく、綺凜は誠実と帰宅することに抵抗することはなかった。

「ごめんね、折角の夏休みに」

「大丈夫! どうせ暇だったから、山瀬さんは夏休みは何してた?」

「私は基本的に本読んだり、美沙と買い物行ったりかな?」

「そうなんだ、俺この前海にバイトに行ってきてさ~」

 誠実はこの前の海でのバイトの事を綺凜に話した。

「へぇ~、妹さんすごいんだね、私も美沙から雑誌見せてもらったけど、凄く可愛いもんね」

「ま、見た目は良いんだけどね……問題は中身なんだよな……」

「え? そうなの?」

「あぁ、正直最近良くわかんないんだよ、急によく話すようになったり、急に機嫌悪くなったり……」

「でも、いいなぁ……私は一人っ子だから」

「俺からしたら、一人っ子の方が羨ましいけどなぁ……」

「そうでも無いよ……家に一人って寂しいよ……」

 さっきまで良い感じで話しが出来て居たのに、急に重たい話しになってしまったと誠実焦りを感じていた。
 なんとか話題を変えようとあれこれ考え始める。

「そ、そういえば八月に入ったら、海に行くんだけど! 山瀬さんもどう?」

「え……でも私は…」

 綺凜は誠実の提案に乗り気ではなかった。
 誠実の関係は確かに友人かもしれないが、綺凜は誠実を振った本人であり、誠実は振られた本人。
 関係は複雑だし、何より誠実を好きな他の女子生徒からは良く思われない。

「折角だけど私は……」

「そ、そっか……そうだよな、俺とは嫌だよな……ストーカーだし…」

「そ、そうじゃなくて! えっと……あの……私よりも美沙とか誘ってあげて、あの子喜ぶから」

「美沙……あ! ちょっとまってね」

「?」

 誠実はそう言うとスマホを取り出し、誰かに電話を始める。
 電話を掛けて直ぐにつながり、誠実は電話の相手を確かめる。

「美沙か?」

『そうだよ~、貴方の大事な大事な美沙ちゃんだよ~』

「……切るわ」

『あぁぁぁ! ごめんごめん! 久しぶりに電話来たからテンション上がっただけだから!』

 美沙の異常なまでのテンションの高さが、電話越しにも伝わってくるようだった。
 横で誠実の話しを聞いていた綺凜は不思議そうに首をかしげる。

「まぁいいや、お前って海とか行きたくないか?」

『え! 海! 行く行く! なによ~そんなに私の水着姿が見たいの~?』

「安心しろ、そんな事は微塵も思って居ない」

『ぶ~、それはそれで不満! で、メンツは?』

 誠実は誰が一緒か、現時点で決まっているメンバーの名前を言い上げていく。

『へ~沙耶香ちゃんと一緒か~、すごいね誠実君、私と沙耶香ちゃんを同時に誘うなんて……それともどっちかに決める覚悟でも出来たのかな?』

「うっ! ……それはその……」

『おおかた、一緒にカラオケ行ってたし大丈夫か……とか思ったんでしょ?』

 なんでこの女はこんなに察しが良いんだろうと考えながら、内心やっぱりまずかったかと冷や汗をかく。
 いくらカラオケに一緒に行くほどの仲と言っても、一応はライバル同士の二人、やっぱりこの作戦はまずかったかと後悔する誠実。

『ま、いいんだけどね沙耶香ちゃん良い子だし』

「良いのかよ!」

 思っていたよりもあっさりと、しかも楽しそうに答えられ拍子抜けする誠実。

『だって海いきたいし! 安心してよ、沙耶香ちゃんには、私から言っておくから! 抜け駆けしようとしても無駄なんだよ~って』

「やめて! ややこしくなるから!!」

 美沙との会話に疲労を感じ始める誠実。
 早く用件を済ませてしまおうと、本題に入る。

「実は、いま山瀬さんと一緒なんだけど……海に誘っても良いか?」

『ん? なんで私に聞くの? 言いに決まってるじゃん』

 誠実の質問に、綺凜は少し驚いた。
 聞かれた美沙は、なんでそんな質問をするのか不思議な様子で答える。

「いや、お前って俺のこと……す、好きじゃん? 一応聞いておこうかと……」

『あ~、確かに好きな男子が好きな女子って……今の私からしたら敵だわ』

「ですよね……」

 やっぱり気まずいだろうか?
 そう考える誠実を余所に、美沙はうれしそうに答える。

『なんてね! その前に私と綺凜は友達だし、そんな事で気まずくなってたら、今頃友達じゃ無くなってるよ』

 美沙のその答えに、誠実は頬を緩めて言う。

「ありがと、それと……そのとき返事もするから……」

『え……それって……』

 誠実は美沙が言い終える前に、通話を切った。
 そして綺凜の方を見て笑顔で言う。

「美沙は良いって、あと一人連絡するから待ってて!」

「え、あと一人?」

 誠実はそう言うと、再びスマホを操作し電話を掛け始める。
 
『も、もしもし?』

「あ、沙耶香? 俺だけど」

『ど、どうしたの? いや、うれしいけど……何か用事?』

「あぁ…海のメンバーなんだけど……二人追加して良いか?」

『え? うん大丈夫だけど……誰?』

 聞かれて誠実は息を飲み、一呼吸置いてから答えた。

「山瀬さんと美沙」

『え……そ、それはなんで?』

 沙耶香の声は動揺していた。
 それもそうだ、追加したい相手が好きな男が好きだった女子と今の恋敵なのだ、動揺しても仕方がない。

「正直言うと、山瀬さんは最近凄い嫌なことがあって、へこんでると思ったからリフレッシュにって思って誘った」

『そ、そうなんだ……じゃあ、伊敷君はまだ……』

「それは違う、もう諦めた」

 誠実は沙耶香が言い終える前に、沙耶香の言葉を否定した。

「沙耶香が俺のこと好きなの知ってるから、こうやって電話したんだ、他に女の子誘ってもいいか……」

『正直……不安だけど……誠実君がそうしたいなら……』

 自分でも最低な事をしていると誠実も気がついていた。
 それでも誠実には綺凜を誘いたい理由があった。

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