99回告白したけどダメでした

Joker0808

127話

「ちょっと家庭内暴力に……」

「別に暴力じゃなわよ、ただの指導」

「こんな痛い指導はやだ……」

 涼しそうな顔でそう言いながら、美奈穂は料理を食べる。
 誠実はようやく痛みが引いてきたので、みぞおちを押さえながら元の体勢に戻る。

「相変わらずだね~、隣良いかな?」

「あ、どうぞどうぞ」

 誠実に確認を入れると、恵理は誠実の隣の明いている席に座った。
 宴会が始まって直ぐ、皆席を移動しそれぞれ固まって飲んでいるので、最早席など関係無くなっていた。

「誠実君も美奈穂ちゃんもお疲れ様、流石に一日中の撮影はキツいね」

「そうですね、私も表情作るのが後半は大変でした」

「誠実君は一日走り回ってたね」

「まぁ、機材運びが主な作業だったので……」

 三人は仕事の話しや雑談をしながら旅館の料理を楽しんでいた。

「え! 恵理さんって一人暮らしなんですか?」

「そうよ、大学から実家は遠いから、部屋を借りて一人暮らしをしているの」

「へぇ~大変ですね」

「そうね、特に料理がねぇ…どうしても外食中心になっちゃって」

 肩を落としながら、恵理はそう言う。
 きっと大学と仕事で忙しいのだろう、自分で自炊する時間も取れないんだろうなと、誠実は恵理の日々の苦労を感じる。

「大変ですね」

「えぇ、誰か私の家で料理を作ってくれる優しい人とか居ないかしら? チラ……」

「いや、チラ……とか言って俺の方を見られても、そもそも恵理さんの住んでる場所がわかりませんし」

「じゃあ、わかれば作りに来てくれる?」

「いきません、面倒です」

「酷いなぁ~お姉さんは深く傷ついたよ……グスン」

「いや、一人暮らしの女性に家に男が通うのは色々ダメだと思うんですが……」

 嘘泣きし始める恵理に、誠実はため息交じりに言う。
 そんな様子を旗から見ていた美奈穂は兄を冷ややかな目で見て一言。

「女を泣かせるなんて最低」

「ちょっと待て! 俺は正しい事を言ったと思うんだが!?」

 さっきまで、モデル仲間の女の子達と楽しそうに話しをしていたくせに、こういう話しはちゃっかり聞いている美奈穂。
 誠実と美奈穂が言い合いをしていると、そこに美奈穂のモデル仲間の女の子達が入ってくる。

「お兄さんと美奈穂って仲良いですよね~、いつもこんな感じなんですか?」

「え? まぁそうかな? でも、最近まであんまり話しもしなかったんだけどね」

「え! 意外です! だって美奈穂はむぐぅ……」

「静~? ちょっと黙りましょうか?」

「み、美奈穂ちゃん……怖いよ」

 静と呼ばれた子が話しを終える前に、美奈穂は背後を取って口を封じる。
 そして、背後から笑顔で彼女にそう言った。
 笑顔なのに、全然表情は笑っておらず、誠実と静は美奈穂に恐怖を感じる。
 その後も誠実は、美奈穂のモデル仲間の女の子達と恵理から色々と質問攻めに合い、美奈穂は自分に都合の悪い事を言おうとした子の口を次々に封じて行った。

「お兄さん、料理もやるんですか!?」

「まぁ、一時期ちょっと頑張ってた時があってね」

「凄いですね! うちの兄なんて、家事は何にも出来ないですよ?」

「それでも顔が良い方が良いじゃないか……」

 今質問をしてきた女の子のお兄さんは人気俳優らしく、誠実も何度かテレビで見た事があった。

「いや、あれは顔だけですから、そのせいか私は外見が良い男は極力信じなくなりました」

「家庭内事情が見えて来そうだね……」

「やっぱり、誠実君しゃ私の家の通い妻になるべきだよ!」

 話しを聞いていた恵理が、突然そんな事を言い出す。

「俺は男なので、通い妻は出来ないですねぇ……」

 少々呆れ気味に誠実は恵理にそう言う、すると恵理は誠実の袖をつまんで上目遣いで言う。
「じゃあ、通い夫ってことで~」

「そ、それも……嫌……です」

 浴衣の為か、いつも以上に胸など色々なところが強調され誠実は目のやり場に困り、視線を泳がせる。
 そんな誠実の様子に気がついたのか、恵理は楽しそうに笑いながら言う。

「ん~? きょろきょろしてどうしたのかなぁ? お姉さん見て照れちゃったかな?」

「あの……そうやって純情な高一男子をいじめるのやめてください……免疫ないんで……


 モデルの女の子に囲まれながら、誠実が料理を口に運んでいると、突然後ろから誰かが誠実の肩を抱いて来た。

「誠く~ん、モテモテじゃない?」

「な、中村さん……」

 声の主は、酔っ払って顔を真っ赤にした中村だった。
 片手には一升瓶を持ち、誠実に顔を近づける。
 相当な量のお酒を飲んでいるらしく、凄く酒臭く、誠実は思わず顔を歪める。

「女の子ばっかりと飲んでないで、男同士で飲みましょ? ささ、こっちよ…」

「え? ちょっ! 俺は!」

 誠実は首根っこをつかまれ、男性スタッフが集まって飲んでいる場所につれて行かれる。
 そんな誠実の姿を美奈穂は少々安心した様子で見ていた。

「美奈穂ちゃんは誠実君大好きなんだね~」

「い、いきなりなんですか」

 誠実が居なくなった事により、美奈穂と恵理は隣の席になった。
 ニヤニヤしながら、そう言ってくる恵理に美奈穂は視線を反らす。

「そりゃあそうだよね~、女の子ばっかりの場所に居るよりも、男の人ばっかりのところに居た方が安心だもんね~」

「だ、だから何の事ですか?」

「さっきから、私たちが誠実君と話ししてると、羨ましそうにこっちを見てる人の事だよ~」

 からかうようにニヤニヤしながら、恵理は美奈穂にそう言う。
 美奈穂顔を真っ赤にし、恵理に声を上げて言う。

「べ、べつにそんな事!」

「ほら、ここに証拠写真が」

「い、いつの間に……」

 恵理が差し出したスマートフォンの画面には、ジト目で誠実を凝視する美奈穂の姿が写って居た。

「消してください!」

「私が消しても、あっちの子達が残してると思うよ?」

 そう言って、美奈穂のモデル仲間の方を指さす恵理。
 美奈穂の向かいに座るモデル仲間の子達は全員、スマートフォンで美奈穂の写真を撮っていたらしく、美奈穂にその画面を見せる。

「いや、美奈穂のこんな顔を珍しくてつい……」

「リアルブラコンってあるんだね、私は良いと思うよ!」

「中村さんに、新たな世界に連れて行かれないと良いけどね」

 その様子に、美奈穂は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「なんで全員撮ってんのよぉぉぉ!!」

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