99回告白したけどダメでした

Joker0808

117話

 夏休みに入った誠実は、毎日夜遅くまで起き、朝は昼頃まで眠る生活をしていた。
 しかし、そんな生活の中でも朝早く起きなければいけない日はあり、今日がまさにその日だった。
 時刻は朝の5時、誠実は欠伸をしながら眠そうな表情でリビングに居た。

「ふわぁ~あ……眠い……」

「さっさと目冷ましなさいよ」

「んなこと言っても朝の5時だぜ? 学校がある日よりも朝が早いって……」

「仕方ないでしょ、長時間の移動になるんだから、それに迎えにきてもらえるだけありがたいわよ」

「まぁ、そうか……」

 今日は誠実と美奈穂が二泊三日で仕事に出かける日だ、ばっちり支度を済ませた二人は中村が迎えに来るのを待っていた。
 そんな時、自宅のチャイムが鳴った。

「来たみたいね、じゃあ行きましょう」

「あぁ、そうだな」

 誠実と美奈穂は、そろって玄関に向かい扉を開ける。

「おはよ、朝早くからごめんなさいね~」

「大丈夫ですよ、それよりも早く行きましょう」

「そうね、お兄さんも今日はありがとう」

「いえいえ、頑張るんでよろしくお願いします!」

 雇ってもらったからには、給料に見合うだけの働きをしなければと思う誠実はシャキッとした様子で中村に言う。
 誠実の言葉に、中村は笑顔で微笑みながら、小声で誠実に耳打ちする。

「大丈夫よ、お兄さんが居るだけで十分役立ってるから」

「え? どういう……」

「さぁ! 出発しましょう!」

 誠実の問いを聞かないまま、中村は誠実達の荷物を車に積み込み始めた。
 中村が乗ってきたワンボックスカーに誠実と美奈穂は乗り込み、現地に出発となった。
 現地の海には約2時間ほどの時間が掛かるらしい、しかも中に休憩や食事などを入れる為、こんなに朝早くになってしまったらしい。

「それにしても、良いわねぇ~夏休み……私も一ヶ月くらい休みたいわ~」

「いつも暇そうに事務所でぼーっとしてるのにですか?」

「そんな事無いわよ! 毎日大変よ~」
 
 車内では中村と美奈穂が暇な時間を潰すために会話に花を咲かせていた。
 気の利く中村は、誠実にも話題を振り、車内が気まずくならないよう気を配っていた。

「それにしても……本当にお兄さんが来てくれて良かったわ~」

「え? そうなんですか?」

「そうよ~、お兄さんが来るって言うから、美奈穂ちゃんが……」

「中村さん、運転集中した方が良いと思いますよ?」

「あら、ごめんなさい」

「え? え? なに?」

「ごめんなさい何でも無いわ、ウフフ」

「は、はぁ……」

 結局なんで自分が来て良かったのか聞くとができず、誠実はモヤモヤした感じを残したままそれ以上は聞かなかった。
 車は一時間ほど走ったところで休憩のためにサービスエリアに止まった。

「私飲み物買ってきます」

「わかったわ、行ってらっしゃい」

 サービスエリアの駐車場で、誠実は車から降りて大きく伸びをする。
 流石に一時間も座りっぱなしだと、体が痛くなってしまう。

「まだ朝の6時過ぎか……いつもなら寝てるな」

 スマホで時間を確認しながら、誠実は一人つぶやく。
 すると、後ろから中村がニコニコしながらやってきた。

「お兄さん、これ三日間のスケジュール、あっちに行ったら詳しく説明するけどとりあえずね」

「あ、わかりました……凄いスケジュールですね……分刻みで」

「そうね、いつもこんな感じよ、色々写真を撮って使うのはわずか数枚なの」

「へぇ~、そうなんですか、あいつも大変だなぁ……」

 改めて美奈穂の仕事の大変さを思い知らされる誠実。
 そんな誠実に中村は尋ねる。

「お兄さん、この前振られたんだって?」

「うっ……イタい質問しますね……」

「あぁ、ごめんなさいね急に、色々相談に乗ってあげられるかと思って」

 申し訳なさそうに言う中村。
 確かに人生経験も豊富で、色々と苦難を乗り越えている感じの中村さんに相談すれば、誠実の現在の悩みである、美沙と沙耶香からの告白の返事の答えについて何かヒントが見つかるかもしれない。
 男らしい見た目とは裏腹に、女性のような心を持っている中村だ、良い相談相手かもしれないと思い、誠実は綺凜から振られた出来事からこれまでの事を簡単に説明した。

「なるほどね……それで今現在はその女の子達からほぼ同時に告白されて困ってると……でも、その山瀬さんって子の事も忘れられないと」

「はい……」

「その美沙って子はこの前来てた子よね? 確かに可愛いし元気で明るい子だったわね~」

「元気すぎますけど……」

 そう言うのも、美沙からは毎日のようにスマホにメッセージが来るからだ。
 内容はどうでも良いことなのだが、正直返信が面倒だった。

「で、今週の土曜日に沙耶香って子とデートなの?」

「はい、約束してたので……」

「そう……とりあえず言える事は一つね」

「何ですか?」

「絶対にこのことを美奈穂ちゃんに言っちゃダメ!」

「え?」

 なぜ美奈穂に言ってはいけないのか、誠実には不思議だった。
 土曜日のデートの服装などを誠実は美奈穂に相談しようと思っていたので、美奈穂に頼れないのは少しキツいと思った誠実は、中村にその意味を尋ねる。

「なんでですか? 別にあいつに相談くらい……」

「絶対ダメ! そんなことしたら……」

 言いながら、中村の顔はどんどん青ざめて行く。
 そんなところに美奈穂がペットボトルの飲料水を持って帰って来た。

「お待たせしました……何してるんですか? 男二人見つめ合って」

「ウフフ、ちょっと彼を味見しようかと……」

「え!」

 中村そう言うと、誠実の耳元に口を近づけ小声で言う。

「……いい? 絶対に言っちゃダメよ」

 そう言って中村は誠実から離れ、美奈穂の方に向き直る。
 誠実は若干顔を青くして直立のまま動け無くなっていた。

「あの、兄に変な性癖付けるのやめてもらえますか? 妹として同性愛の兄を持つのはちょっと……」

「あらごめんなさい、じゃあさっさと朝ご飯食べにいきましょっか?」

 中村笑顔でそう言うと、車の中に乗り込む。
 直立で固まる誠実を美奈穂が蹴飛ばして正気に戻し、誠実達も車に乗り込む。

「いつまでボケてるのよ!」

「いてっ! ……俺、ちょっと中村さん苦手かも……」

 突然のボディータッチと耳打ちに、誠実は中村に対して少し苦手意識を持ってしまった。
 

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