99回告白したけどダメでした

Joker0808

93話

「だから、怒ってません! ま、全く……人の話はちゃんと聞くものですよ!」

「ほ、本当に怒って無いんですか?」

 その割には、顔は真っ赤だし、いつもよりも口調が強い栞。
 まぁ、本人がここまで言っているのなら、これ以上は大丈夫だろうと考え、誠実は頭を上げた。

「えっと…先輩も今帰りですか?」

「えぇ、そ…そうです。今はテスト期間ですから、生徒会も無いので」

「そうなんですか、先輩頭良いって聞きましたから、今回のテストも余裕そうですね」

「それはあなたもじゃないの? 前回のテスト、学年一位だって聞きましたよ」

「あ、いや…あれはまぐれって言うか……なんて言うか……」

 好きな女子の好みに合わせる為に、必死で勉強したなんて恥ずかしくて言えない誠実。
 しかも振られて終わっているため、余計に言いづらい。

「うふふ、実は知ってるんですよ。好きな人へのアピールの為に必死で勉強したんですよね?」

「な、なぜ…それを!」

「とある女子生徒から聞きました」

 きっと沙耶香なんだろうなと誠実は思いながら、知っているならと素直に話し始める。

「あはは、まぁそうなんですよ……結局振られましたけど」

「でも、あなたの努力は何らかの形であなたの自信に帰って来ます。だから、無駄だったなんて思ってはだめですよ」

 先ほどまでとは違い、優しい笑顔でそういう栞に誠実はなんだかほっとした。
 やっぱりこの人は優しくて、いつも自分を励ましてくれる。
 良い先輩だな~と思いながら、誠実は栞に言う。

「やっぱり、先輩は優しくて可愛いっすね」

「え、な…何を!?」

 誠実の言葉に、元に戻っていた栞の顔がまたしてもどんどん赤くなっていく。
 そんな栞に誠実は更に言葉を掛ける。

「先輩と付き合える男性は、きっと幸せですよ」

「そ、そんな……こ、ことは……」

 誠実の言葉に、栞は顔を真っ赤にしたまま俯く。

「あれ? 先輩どうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」

「ち、違います! せ、誠実君がまた変な事を言うから……」

「え? 俺変なこと言いました?」

「そういうところが誠実君は卑怯です!」

「え? な、どこがですか……」

 栞の言葉の意味がわからず、誠実は戸惑ってしまう。
 女性の心というのは難しいと考える誠実であった。

「もう、あまり女性に軽々しく、あぁ言うことを言うものではありません!」

 落ち着きを取り戻した栞と共に、誠実は昇降口に向かって歩いていた。
 なぜ褒めたはずなのに、自分は怒られているのだろうと疑問に思いながら、栞と共に昇降口に向かう。

「でも、俺は本当に先輩は可愛いって思ってますよ?」

「だ、だからあまりそういうことを!」

「お嬢様」

 昇降口を出て誠実と栞が歩いていると、蓬清家の執事である義男がやってきた。
 いつもの執事服を着て、手には白い手袋をしており、相変わらず動きに無駄がない。

「義男さん、いつもお迎えありがとうございます」

「いえいえ、お嬢様にお仕えする事が私の生きがいですから……お久しぶりですな、伊敷様」

「あ、どうも…一週間ぶりくらいで……」

 なぜか誠実にだけ鋭い視線を向ける義男。
 そんな義男を見て、誠実は若干距離を置く。
 義男は栞に悪い虫がつかないよう、栞の周りの男性には細心の注意を向けている。
 この前の出来事で、それを知った誠実は、義男の事が苦手だった。

「お嬢様、お車を校門の前に止めています。ささ、お早く…」

 早く誠実から栞を引きはがしたいらしく、義男は栞を押して校門の方に向かって行く。

「え…よ、義男さんどうしたんですか? なにか急ぎのようでも?」

「はい、急がなければあの男から妊娠させられてしまいます。お早く離れてください」

「するか! 人をなんだと思ってやがる!!」

 義男の言葉に思わず力強くツッコミを入れてしまう。
 そんなツッコミに義男は言葉を返す。

「黙れ、思春期! 男子高校生なんて四六時中エロいことしか考えて無いだろ!」

「な……意外とその他も考えてるわ!」

「嘘をつけ! 今もお嬢様をいやらしい目で視姦しおって!」

「視姦なんてするか!」

「貴様! お嬢様が視姦する価値もない女性だと言いたいのか!」

「そうじゃねぇよ!!」

「やはり変態か!」

「あぁぁぁ! だからどうしてそうなんだよ!」

 どんどんヒートアップする誠実と義男。
 そんな二人の姿を見ていた栞は、笑顔で二人に向かっていう。

「お二人共……他の人に迷惑ですわよ?」

「しかし、お嬢様!」

「義男さん……わかりますね?」

「は、はい! 申し訳ございません!!」

 栞は笑顔のはずなのに、その笑顔が逆に恐ろしかった。
 誠実も栞の怒りのオーラを感じ、顔を強張らせながらピンと背筋を伸ばす。

「誠実君」

「は、はい!」

「では、また……」

「ど、どうぞお気をつけて!」

 誠実は栞のそんな恐ろしい笑顔に、敬礼で応える。
 いつもは優しい栞だが、怒ると凄く怖いと改めて誠実は感じた。





 土曜日の朝、誠実は図書館に向かっていた。
 夏の暑い日に、集中して勉強出来る場所と言えば、町の図書館だと思い誠実は自転車で目的地に向かった。

「あぁ~やっぱり涼しい~」

 暑い外から涼しい図書館内に入り、最初に出た言葉がそれだった。
 どんどん汗が引いていくのを感じながら、誠実は学習スペースのあいている席を探す。

「結構いるんだなぁ……」

 以外と学習スペースに人が多く、席が空いているか心配になったが、無事に席を確保し、誠実は勉強を開始した。
 一人の為か、いつも以上に集中して勉強が出来ていると感じながら、誠実はどんどん問題を解いて行く。

「隣、良いですか?」

「え……」

 急に声を掛けられ、誠実は驚き声のした方を振り返る。
 するとそこには美沙が笑顔で立っていた。

「お前! ……なんでここにいるんだよ」

 思わず大きな声を出してしまった誠実だったが、直ぐに声の音量を抑え美沙に聞いた。
 すると美沙は誠実の隣に座りながら、話始めた。

「私もテスト絵勉強に来たのよ、別におかしな理由じゃないでしょ? そこに偶然誠実君がいただけ」

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