99回告白したけどダメでした

Joker0808

61話

 誠実と栞が、捜索を再開して更に2時間。
 時刻はもうすぐ17時になろうとしていた、既に日が落ち始め、誠実たちも疲れが出始めていた。

「居ませんね……」

「はい……本当にどこに行ったんでしょう……」

 栞の不安は大きくなっていき、誠実はそんな栞が心配だった。
 しかし、時間も時間で義雄からそろそろ一度切り上げようと、電話も来ていたため、誠実と栞は義雄達との合流場所まで歩いていた。
 そんな道中だった。

「あ……」

「どうかしましたか?」

 急に誠実は立ち止まった。
 その様子に、栞は疑問を感じ誠実の尋ねる、しかし誠実は何も応えず、どこか複雑そうな表情で、どこかを見つめている。
 どこを見ているのだろう? 栞はそう思い、誠実の視線の先を見る。

「あれって……」

 誠実の視線の先、そこに居たのは綺凛だった。
 しかも、綺凛の隣には駿が居た。
 栞は誠実が綺凛に振られ続けていることは知っていたが、誠実が綺凛に利用されていたという事を知らない。

「……行きましょう」

「伊敷君、大丈夫?」

「大丈夫ですよ、行きましょう」

 誠実は無理やり笑顔を作り、栞にそういうと綺凛達に気が付かれないように、顔を伏せて綺凛たちの脇を通り過ぎようとする。
 すると、栞はそっと誠実の手を握る。

「先輩?」

「大丈夫です、私もいます」

 栞はそう言って誠実の半歩後ろをついて歩いていく。
 手を握られているだけなのに、誠実はすごく安心できた。
 誠実は顔を上げ綺凛達の脇を通り抜ける。
 すれ違った瞬間、綺凛は気が付いていなかった様子だったが、駿は気が付いている様子だった。

「………明日が楽しみだな」

「………」

 すれ違った瞬間、駿は嫌な笑みを浮かべながら、誠実に小声でそういった。
 どういう意味だ?
 誠実は少し歩いたところで振り返り、駿の方をにらみつける。

「伊敷君……どうかしましたか?」

「あ、すいません……行きましょう」

 気になる事はあった。
 しかし、誠実はその場で何もできなかった。
 やり返してやりたい、綺凛に本当の事を伝えたい。
 そう思ったが、綺凛のあの笑顔を見たら何も言えなくなってしまった。
 本当に楽しそうだった、誠実が知らない綺凛の笑顔がそこにはあった。
 それを考えると、誠実は何も言えなかった。

「大丈夫ですか?」

「……あ、大丈夫ですよ………」

「えい」

「ふぁ、ふぁの……ほっへをつねるのひゃめてください……」

 誠実の元気のない表情を見た栞は、急に誠実のほっぺを掴み、両脇に引っ張る。

「うふふ……難しい顔ばかりしているからです。伊敷君はいつも通り笑顔でいて下さい。そっちの方が私は好きです」

「そ、そうですかね?」

 栞に好きと言われ、若干ドキッとする誠実。
 そういう意味ではないと分かっていても、異性から笑顔で好きと言われるのは、照れてしまう。
 なんだか、普段の栞に戻ったようで、誠実は安心した。
 一方で栞も今日初めて先輩らしいことが出来たと、ご満悦だった。

「あ、あの……」

「なんですか?」

「そろそろ、頬から手を放して下さい。恥ずかしいんで……」

「あ、すいません……」

 気が付くと周りの人から見られ、注目を集めていた。
 小学生くらいの男のなんかは、誠実たちを指さし大きな声で何かを言っている。

「ねぇねぇ、お母さん。あぁ言うのバカップルって言うんでしょー?」

「マー君! 大きな声でそういう事言わないの!」

(マー君、君は早くこの場から離れてくれ! なんかドンドン爆弾を落としそうな雰囲気がする!)

「でも、お母さんも言ってたよ、最近の若い子は街中でも節操が無いって……せっそうって何?」

(マー君! とそのお母さん!! お願いだからさっさと向こうに行って! 先輩顔真っ赤だから!)

 誠実は急いで栞を連れて、その場から立ち去る。
 少し歩いたところで人通りのすくな道に出た誠実と栞。
 栞は顔を真っ赤にしたまま下を向居ており、誠実も先ほどの出来事が脳裏をよぎって離れず、気まずい雰囲気だった。
 しかし、そんな気まずい雰囲気を打ち消す人物が、すごい勢いで走って来た。

「お嬢様ぁぁぁぁ!!!」

「よ、義雄さん?」

「お嬢様! お怪我はございませんか! この男によからぬ事をされませんでしたか!!」

 焦り過ぎて、モロに本性が出ている義雄に、誠実は思わず苦笑いを浮かべる。
 この人って、こんなキャラだっけ?
 なんてことを考えながら、誠実は栞と義雄の話に耳を傾けていた。

「な、なにもされてません! どちらかというと……なにかしたのは私で……」

「お! お嬢様!! 一体何を! 何をしたんですか!!」

「そ、その……ボディータッチを……」

「貴様ぁぁ!!」

「え! なんでぇ!!」

 義雄は栞の話を聞くと、誠実の方に詰め寄り誠実の襟を掴んで怒号を浴びせる。

「貴様! お嬢様にどこを触らせた! あそこか! そこか! それとも何か!!」

「別に触らせてません!!! ていうか、その選択肢は何なんですか! 名称を言ってください!!」

「よ、義雄さん! 落ち着いてください、触ったのは私の方ですから!」

 あまりの怒りで、すでに栞の声が聞こえていない義雄。
 そんな義雄をなだめようと、義雄の後ろから、栞の母である由良がゆっくり近づき、義雄の腰をツンと突く。

「えい」

「あ! お、奥様……今腰は……」

「お客様に何をしているんですか、こうなると思ったから、義雄と伊敷さんを離したのです。毎回毎回、栞を心配しすぎです。栞に言い寄る男性すべてにそんな調子では、栞に良い人が出来なくなってしまいますわ」

「し、しかし……」

「しかし、じゃありません! 少しは自重してください!」

「うう……す、すみません」

 義雄は腰を押さえてその場に四つん這いになり、誠実は義雄から解放され、少し距離をとる。

「それよりも、そちらはどうでしたか?」

「いえ、残念ながら……」

「そうですか……他の使用人も探していますが、見つからないようで……一旦戻りましょう。それに伊敷さんはそろそろお帰りにならないと、遅くなってしまいますわ」

「え、でも……」

「ここからは、元々は私たち家族の問題です。これ以上伊敷さんにご迷惑はかけられません」

 由良が申し訳なさそうに誠実に言う。
 すると、脇の居酒屋から誠実にとって聞きなれた声が聞こえてきた。
 そんな愉快な声に、この場の雰囲気を壊されてしまい、誠実は声のした居酒屋をみる。

「あれ? この店って……」

 誠実はその居酒屋を知っていた。
 昔、よく父親に連れて来てもらった店で、店主の親父さんと顔見知りだった。
 誠実はそんな知った居酒屋から、聞きなれた声が聞こえてきたので、まさかと思い聞き耳を立てる。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品