99回告白したけどダメでした

Joker0808

58話

 誠実の父、忠志は、散歩中に出会った妙な中年男性と街を歩いていた。
 男の名前は、勤と言い、ガタイが良く身長も高い。
 スーツ姿で、年齢の割には若く見える上に、ダンディな感じの男だった。
 あそこであったのも何かの縁だと思ったのもそうだが、忠志は単に話相手が欲しかったという理由もあり、勤を誘ったのだった。

「まぁ、なにわともあれ、とりあえず腹減ったな。飯でも食うか?」

「私は構いませんが、食事は何処で?」

「そうだな……お前は何が食べたい?」

「え、私ですか? えっと……」

「あ、それとその敬語やめてくれ、同い年なんだからよ。もっと軽く接してくれ、疲れちまう」

「あ、ごめん。じゃあ……僕は味の濃いものを食べたいな、いつも食べているものは薄味で……」

「味の濃い物か……じゃあ、牛丼でも食いに行くか!」

「牛……丼?」

 忠志の言葉に、勤は不思議そうに首を傾げる。
 そんな勤の様子を見て、忠志はもしやと思い、尋ねる。

「もしかして……牛丼知らねーのか?!」

「う、うん……食べた事が無いんだ」

「マジかよ……じゃあ、試しに食ってみるか!」

 そう言い、勤と忠志は牛丼チェーン店に向かって足を進める。
 歩いて数分ほどで店につき、2人は店の中に入って行く。

「なんだか狭い店だね」

「まぁ、ここは駅前だからな、店によって違うが、ここは狭い方だ」

 2人はカウンターの席に並んで座り、メニューを見て商品を選び始める。

「色々あるんだね……牛丼って」

「まぁ、ここはチェーン店だからな、バラエティーにとんだ物が多いんだ。スタンダードはこれだな、牛丼並み」

 忠志は、メニュー表の中にある、牛丼の並みの写真を指さし勤に教える。
 勤は「じゃあ、それで」と言い、スタンダードな牛丼並みを注文し、忠志は牛丼の上に温泉卵が乗っている、温泉牛丼なるものを注文する。
 チェーン店だけに、商品が出てくるのは凄く早く、物の数分で商品が出て来た。

「すごいね、こんなに早くに料理が……」

「まぁ、こういう店は、早い・安い・美味いが基本だからな、あんまりこういう店来ないのか?」

「うん、仕事で外食はするけど、こういう店は来たことが無いなぁ」

「おお、そうなのか? じゃあ奥さんの飯が一番って感じかい? いいねぇ~、優しい奥さんなんだろうね~」

 牛丼を食べながら、忠志は言う。
 そんな忠志の様子を見た勤も緊張した様子で箸を持ち、牛丼を口に運ぶ。

「ん……美味しい……」

「だろ? こういう安くて美味い食い物は、庶民の強い味方だよな~」

 勤は夢中で牛丼を口に運んでいく。
 本当に美味しそうに牛丼を食べる勤に、忠志は連れてきてよかったと、少しうれしくなった。
 物の十数分で2人は牛丼を完食し、店を出た。
 お昼より少し前の時間だった為、お客さんも少なく、スムーズに食事が出来た。

「あぁ~食った食った! さて、んじゃ行くか!」

「行くってどこにだい?」

「まぁ色々だ! 良いから行くぞ」

 その後、忠志は勤を連れまわし、色々な場所に行った。
 釣り堀にパチンコ、ボーリング場など様々な場所に行き、おっさん2人は少年時代に戻ったかのように、楽しんだ。
 そして、夕方の17時過ぎ、忠志と勤の2人は居酒屋に来ていた。

「ここは……なんだい?」

「あぁ、俺の行きつけの居酒屋だ、ここの主人とは、もう10年くらいの付き合いになる」

 忠志はそう言って、居酒屋の中に入って行く。
 勤は、今までこういった居酒屋に入った事は無く、戸惑いながら、忠志の後ろをついて行く。

「いらっしゃい! お、ただちゃんじゃない! 何だよ、今日は早いじゃんか」

「まぁな、こいつと一日遊んでたんだよ」

「誰だい? このガタイの良い男前は?」

 店のカウンターには、陽気な中年の親父がおり、焼き鳥を焼きながら忠志を愛称で呼び、笑顔で目の前の席に座るように指示をする。

「あぁ、ちょっと今日色々あってな! こいつスゲーんだぜ! ボーリングはオールストライクだし、パチンコは大勝だし、ホント何者だよ!」

「いや~、どれも初めてやったんだけど、楽しくて……良いのかい? パチンコの元金は君から借りた物なのに、借りた分だけで」

「あぁ、どっちみち、連れましたのは俺だしな! それに、あんまり俺は金銭関係で揉めたくないんだよ」

 居酒屋に来る前、忠志と勤はパチンコをしていた。
 元金を忠志から借りて遊んでいた勤だったが、数分で大当たりを引き、店始まって以来の大量出玉をたたき出し、借りた額の数十倍の金を手に入れた。
 勤は、自分は遊戯が出来ただけで十分だと言い、勝った金を忠志に渡そうとしたが、忠志は受け取らなかった。

「しかし、お前も変な奴だぜ、牛丼もボーリングも初めてだし、しまいには居酒屋も知らないなんて……本当に仕事しかしてこなかったんだな」

「そうだね、ずっとそうだったから、それが当たり前になってて……でも、今日は凄く楽しかったよ。忠志に色んな所に連れて行ってもらって、今日は本当に良かった。ありがとう」

「気にすんなって、俺も丁度話し相手が欲しかったしな」

「ただちゃん、また家で何かあったの?」

 居酒屋の店主が、忠志にニヤニヤしながら忠志に尋ねる。
 すると、忠志は涙を浮かべながら、話出す。

「そうなんだよ~、勤! お前も聞いてくれよ~、最近家族がな………」

 忠志は最近の家族の話を店主と勤に話出した。
 店主は、またいつものかと思い、笑いながら話を聞き。
 勤は、何かを考えながら、真剣に忠志の話を聞いていた。
 話す間、2人はビールと焼き鳥を注文し、それを食べながら話をする。

「そんな感じでよ~、最近嫁も娘も息子も冷たいんだ……なんか、俺って必要ないのかな~って……」

「また、その話か? 全く、毎回言ってるだろ? そんなの気のせいだって! 勤さんもそう思うだろ?」

「え……僕は……」

 店主が笑いながら、勤に話を振る。
 勤は忠志の話を聞きながら、自分と似ていると思っていた。
 娘の事は、使用人と妻に任せっぱなしで、自分は仕事ばかりで、たまに口を出す事と言えば、本当に緊急事態の時だけ。
 家族の為に、金を稼いでいるはずなのに、家族の中で疎外感を感じる。
 忠志と自分は似ている。
 勤はそう思っていた。

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