99回告白したけどダメでした

Joker0808

54話

「手土産? そんなんそこの角の和菓子屋の饅頭で十分よ」

 誠実がリビングでテレビを見ながらダラダラ煎餅(せんべい)を食べる母に尋ねる。
 誠実のは母は、テレビを見たまま誠実に適当そうに応えた。

「いや、健の家とか武司の家に行くんじゃねーんだって! 一応女子の家なんだよ!」

「あんたね、寝ぼけてるの? それとも妄想? あんたにそんな素敵イベント、起きるわけないでしょ、お父さんの息子なんだから」

「前々から思ってたんだけど、一体うちの父さんって過去に何があったの……」

 誠実の言葉を疑う母に、誠実は肩を落としてそういう。
 毎回父の子供というだけで、随分な言われようをされてきた誠実。
 前は一緒になって笑っていたが、最近ではあまりの言われように、父の事を心配になり初めて居た誠実。

「まぁ、あんたの妄想だとしても、そうじゃないにしても、そんなの自分で考えなさい。行くのはあんたなんだから、あんたが決めないと意味がないでしょ」

「そ、それはそうだけど……」

「ハイハイ、わかったら言った言った。今からドラマ見るんだから」

 誠実はそのまま母にあしらわれ、リビングを後にした。
 母があてにならず、どうしたものか考えながら階段を上がっていると、美奈穂が向かいの方から降りてきた。

「難しい顔で何してんの?」

「ん。美奈穂か……」

 美奈穂なら女子だし、手土産に何をもらったらうれしいかわかるかもしれない、誠実はそう思い、美奈穂に尋ねる。

「なぁ、お前って何をもらったらうれしい?」

「え、え? 何って何よ?」

「いや、贈り物って言うか、なんていうか……手土産的な」

「あぁ……手土産ね……どっか行くの?」

 そう聞かれ、誠実は栞の家に行くことを美奈穂に言うべきか悩む。
 今日のファミレスで、なぜか美奈穂に誠実が女子の話をすると、機嫌を損ねることがわかった。
 なので、誠実は美奈穂の前ではあまり女子の話をするのはやめようと、思っていた。
 誠実は何とかうまくごまかせないかを考える。

「あぁ……じ、実は、友達の家に行くんだけど、そいつの家に妹がいてだな……」

「妹?」

 なぜか妹というワードに反応した美奈穂。
 自分も妹だから、何か思う事でもあったのだろうか?
 などと誠実は考えながら。言葉を続ける。

「あ、あぁ。それで、手土産は何が良いかと思って、ほらあれって、家族に渡す物で、友達本人だけに渡すわけじゃないだろ? だから女子受けもするような手土産が良いと思って参考に……」

「ふーん」

 女子の話はしていないはずなのに、美奈穂はなぜか不機嫌だった。
 誠実は何かまずいことでも言っただろうか?
 そう思いながら、美奈穂の回答を待った。

「それなら、無難にケーキじゃない? ケーキなら誰だって好きでしょ?」

「なるほどな、じゃあちょっとケーキ屋言って来る!」

「でも、ケーキって単体で買うと結構高いわよ」

「母さーん! 小遣いの前借頼む!!」

 玄関に向かって走り出した誠実だったが、美奈穂の言葉にすぐさまリビングに方向転換し、母に金を要求する。
 何とか土下座で、小遣い3000円を手に入れた誠実は、そのまま急いでケーキを買いに行き、家に戻って来た。
 栞の家が相当な金持ちと聞いていた誠実は、こんなもので大丈夫だろうかと不安になりつつも、まぁ誠意は伝わるだろうとプラス思考に考る。
 そして、翌日。
 誠実は、着ていく服を美奈穂に選んでもらおうと思ったが、そこまで気合を入れているのがバレれば、またややこしい質問をされそうだったので、自分で着ていく服を選んでいた。

「まぁ、普段通りが一番だって言うしな……」

 そんな何処かで誰かが言っていた言葉を誠実は信じ、普段通りの私服で迎えが来るのを待っていた。

「迎えが来るなんて、随分良い人ね。アンタの妄想の中の人」

「母さん、いい加減信じてくれない? あと、美奈穂にはこの話は内緒でお願いします」

「わかってるわよ、兄貴がこんなイタイ妄想男なんて事実を知ったら、あの子が可愛そうだわ」

「だからもうそうじゃねーって!!」

 そんな事をリビングで母と話ている間に、家の前で車が停車する音が聞こえる。
 車が止まって数秒後、家のチャイムが鳴り、迎えが来たことに気が付き、誠実が玄関に向かった。

「は~い」

「伊敷君、お待たせしました。お迎えにきましたよ」

「せ、先輩、その後ろの長い黒塗りの車って……」

「えっと……リムジンでしたでしょうか? すいません、私はあまり車詳しくなくて」

「いや、大丈夫です……あれが先輩の家の車ってわかっただけで……」

 家の前に停車している、黒塗りの長い車。
 テレビなんかで、金持ちや政治家が乗っているような物とそっくりで、誠実は改めて栞が良いところのお嬢さまなのだと実感する。

「ちょっと、なんかすごい車……止まってるわね……」

「あ、お母様ですか? 初めまして、私は息子さんの学校の先輩で、蓬清栞と申します。本日は少し彼をお借りしてよろしいでしょうか?」

「………」

 笑顔で誠実の母に自己紹介をする栞に、誠実の母は放心状態のまま動かない。
 誠実が「おい」と肩をたたき、やっと放心状態から解放された誠実の母は、誠実を連れてリビングに戻って行く。

「あ、あんた! あ、ああのあの!!」

「母さん、落ち着け、言いたいことは分かるが、現実だ」

「も、もしかして、あんたの……彼女?」

「ちげーよ! 最近ちょっと色々あって仲良くなったんだよ。それで今日は家に呼ばれ……」

「あんた! なんでそういう大事なことを言わないの! 手土産は何買ったの! まさかそこの角のお饅頭じゃないでしょうね!」

「昨日話したよ! しかもその店! 母さんがすすめた店だからな!!」

 誠実の母は、まだ今の状況が信じられないという様子で、頭を手に当てて、考えを整理していた。

「ま、まさか……父さんの子供のあんたが、あんな可愛い子と……良い誠実、絶対に落としてきなさい! じゃないとあんたは一生独身よ!」

「どこからそういう話になった! 別にそういう仲じゃねーって言ったろ!」

 数分間、誠実は母から、「絶対に粗相はするな」とか「彼女の好感度をしっかり上げてきなさい」などと、よくわからないことを言われ、ようやく解放され、玄関先に戻って行く。

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