グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第141話 舞台の裏側にて

 ――2100年5月15日 12時30分 NEO埼玉 司令部 
 NEO埼玉の総司令官ジョン大将は機嫌がとても良い。 グンマー校と首都圏校で平和条約を締結出来たのだ。 さらに、グンマー校は山梨と長野の諏訪以南半分を開放をしてくれている。 首都圏が実質は行う事になっているがグンマー校が担当している。
 開放された事による経済的な利益は測りしれない物が有る。 軽工業と重工業の複合地域。 それが長野県の目指す姿なのだから。
 『それにしても、セルバンテス氏が亡くなったのは残念だ』 「閣下?そんな笑顔で言われても困りますね」
 オペ子はジョン大将を窘める。 NEO埼玉とセルバンテス・ゴ―ンは意外に仲が悪いのだ。 セルバンテスが押し勧めているのは自動化オートマチックである。
 そして、彼の会社が持っているシステムと日本の機械を組み合わせた物である。 短期的に見れば魅力的な自動化オートマチックであるが罠が有る。 そう今まで働いていた人間がリストラされるのだ。 彼的に言わせれば、最適な環境から脱落した人間は国家や地方が面倒を見るべきと言っている。 
 つまり、企業活動の一環であり企業は利益を重視する以外は無いという事である。 株主からすれば、自分に利益が還元される為に歓迎される事である。 が、そこで仕事をしている人間からしてみれば機械に仕事を奪われる様な物。
 経営の選択と集中、そして合理化と言ってしまえばその通り。 その後ろには解雇された多くの人々の悲哀な人生が転がっている。 それを踏み台にして過去最大の役員報酬を貰っているセルバンテス・ゴ―ンは鬼畜だろう。
 グンマー校からは【腐れ太眉、吸血鬼】。 首都圏校からは、【冷傑人間】。
 という評価を貰われメチャクチャに扱き下ろされている。 すでにグンマー校も首都圏校も未就労率がゼロと驚異的な数値を叩き出している。 無駄な工数などは存在していないし新しいシステムに入れる気も無い事を表明している。
 これを南関東及び東京は【反グローバル】とか都合の良い様に言っている。 NEO埼玉でもこれらの自動化オートマチックは検討はされている。 が、導入は一部に留まるという観測である。
 兵器を含めて自動化オートマチックは出来ない。 それを実感しているのは、10年前の戦いを経験している在日米軍陸軍上層部。 彼らは凛書記に【不思議な力ハッキング】で痛い目に合っているのだ。
 一応は対策案もある。 簡単な事である、無線通信等のソフトを排除し機械的ハードで対応する。 分かり易くいうと第一次世界大戦宜しく経験と勘と度胸でヤレという訳である。 これが、彼らの考えた対策でありセルバンテス・ゴ―ンの考えとは逆行している。
 『これが新の意味での神の見えざる手である米国の理グローバルである』
 そう言いながらジョン司令は熱々のハンバーガ―を食べる。 満足そうな笑みを浮かべながら昼食の時間は進んでいくのだ。

 ■  ■  ■
 ――2100年5月15日 12時30分 首都圏校首席室
 白と金が基調とした机や椅子は、派手であるが気品も備えている首都圏首席室。 部屋の中には一人の少年と少女がいる。
 グンマー校首席、至誠賢治しせいけんじ。 首都圏校首席、白虎乙姫びゃっこおとひめである。
 「グンマの平和条約締結が此処まで早いとも思わなかった」 『はは、色々と色々とあってね。ようやく彼女達からGOが出たんだよ』 「委員会制民主主義とは大変だな」 『そうだね、そっちと違ってボトムダウンだからね』
 フフフっと賢治首席は笑顔で笑う。 グンマー校は知っての通り首席の政治的権限は弱い。 各学年毎に選ばれた委員が委員会を開き決められた事が生徒会に上げられる。 生徒会の副首席・書記・庶務が細かい内容を修正し首席が半子を押す。
 逆に首都圏は首席・副首席の政治的権限が強く、首席が決めた事で下が動く。 組織構造としては、全くと言っていいほどに正反対なのである。
 「で、米国のテロは凛書記が企んだのかい?」 『イヤ、察知はしていたが米国の対応を観察していた』 「どういう事?」 『24時間で解決とかミッション何とかのドラマ的な組織が出てくると思った』
 そう言うとスマホから3台のトラックが移動をし爆発する映像が映る。 乙姫はそれらのトラックが何事も無く通過し爆発するを以外そうに見ている。
 「以外、何も警備も何もしていないのか?」 『イヤ、出来なかったというべきかな?』
 映像が更に変わり、中洲に映る二基のスリーマイル原発が映る。 ニュースでは未だに原発の周囲で報道がされている。
 「なるほど、原発の問題が有ったんだな?これは依頼されたのか?」 『イヤ、我々とジェネラル・エジソン社の相互的利益の為の遊び』 「そういう事ねー、彼らはそちらだけを見ていたのだな」 『そもそも知らなかったというのが正しいのかも知れない』
 そう言いながらとある傍聴システムデータを見せる。 いずれもテロ実行犯達の通話履歴が示されている。
 【チーズケーキを作りました】 【パーティで会うのを楽しみにしています】 【忘れられないパーティにしましょう】
 ここで止めて賢治は口を開く。
 『チーズケーキというのは黄色なんだよね』 「なるほど、イエローケーキか?」 『その通り、ウラン含量の高い粉末の事なんだよね』
 この時代も米国は梯子エシュロンの存在は否定している。 が、これは公然の秘密であり中東のテロリストも知っている事である。 彼らは梯子エシュロンに感知されないワードを選んで会話をしていたのだ。
 「で、結果として米国は中東に兵を出さないといけない」 『まぁ、そうなるね。そうするとフィリピンが手薄になる』 「なるほど、なるほど。そこで手を差し伸べると」 『そうだね。あとは、中東で同士撃ちは勘弁して欲しいわ』
 乙姫は思わず首を傾げるが納得した顔をする。
 「たしか、グンマー校には中東部アラブが居たね」 『緑化委員グリーンベレーの存在も忘れないで貰いたいね』
 フフっと互いに無言で笑いを浮かべる。 とても楽しい想像をしている様だ。
 「で、中東部アラブより南関東チバと戦争中だが大丈夫なのか?」 『問題は無いね、300の適合者《フィッタ―》と50万のNEETの戦い』 「油断は大敵だぞ?」 『GPUが油断をするとでも?』
 そう言いながら賢治は椅子から立ち上がる。
 『次は戦勝祝いでもしようかな?』 「そうだね、楽しみにしているよ」 『ではでは、またー』
 パチンと手を鳴らすと賢治の姿は霧の様に消える。 300の適合者《フィッタ―》と50万のNEETの戦い。 どの様な勝負になるのだろうか……。 

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