グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第140話 セルバンテス・ゴ―ン暗殺


 ――2100年5月14日 18時30分 ワシントンD・C
 日本時間からマイナス14時間、米国首都ワシントン議会。 ここでは、中東への対策が議会で行われている。 先日ワシントンは中東のテロリストの汚い爆弾ダーティボンブの攻撃を受けた。 アーリン墓地や国防総省ペンタゴン、各国大使館が標的。 結果として放射能物質が散乱し、首都圏は大混乱に襲われた。
 戦争で没した兵士の墓地を攻撃で死者への冒涜をし、軍の頭たる国防総省ペンタゴンを攻撃。 そして、各国大使館を攻撃し米国の首都における軟弱さを示した。 テロリストからしてみれば米国ザマ―ミロである。
 テロリストの声明を聴き米国民はプッツン切れた。 米国の近代史では真珠湾に9・11に続き2度目のプッツンである。 この国は自国に責が有ったとしても、攻撃をした方をなじり責を押し付ける。
 さて、大統領は今とても苦労している。
 「大統領閣下!世論は敵テロリストの殲滅を欲しております」 『分かっているが陸軍の派遣は認められない』 「何故です!我々には多数の勇敢な兵士達がいるではないですか?」 『だが、我々は西海岸やフィリピンのビーストの為に陸軍の動員は出来ない』 「ですが、先日。グンマーと首都圏とNEO埼玉が平和条約を締結しましたよね?」
 ぐっと思わずトーマス・エジソン大統領は息を詰まらせる。 平和条約にはフィリピンへの支援を行う事が書かれている。 が、人を派遣するとは書かれていないのである。
 どうやらこの議員は勘違いをしている様である。
 『そうだが、まだ彼らが部隊を派遣するとは決めていない』 「そうですが!閣下!彼らにはアジア地域の安定の為にも……」
 言いかけた所で、休憩をしらせるビーっいう音が鳴る。 トーマス・エジソン大統領は食事の為に議会内に設けられた食堂に向かう。 周りには多数のボディガードが立ち全員が銃を構えている。
 『随分、厳しい警護だな』 「戒厳令が敷かれている為です」
 彼の秘書が耳元で告げる。 そして、手元には手紙を持っている。
 「先ほど、手紙を受け取りました。閣下にだそうです」
 封筒は差出人は無いが黒に金字でGPUと書かれている。 見る人が分かれば差出人である。  大統領が封筒を開くとこの様に書かれていた。
 【ロシア産車は、貴社へ納入を完了】 【エスカルゴは朝日で焼けた、敵の血流は止まった】 【貴社に栄が有らん事を】
 『なるほど、なるほど。当分の間はルノワール社は混乱しそうだな』
 ふっと笑みを浮かべながら手紙をクシャっと纏める。 不思議な顔をしながら秘書は首を傾げながら大統領の後ろについていく。
 食堂に入ると付いていたテレビに速報が流れる。 【ルノワール社CEO、セルバンテス・ゴ―ン氏暗殺される】 それを見ながら大統領はご機嫌に椅子に座った。
 ■  ■  ■
 ――2100年5月15日 10時30分 米軍基地前
 ウーウーと警報が鳴り隊員達が走り廻っている。 敵襲を受けた訳ではないが異常事態を知らせている。
 『一体何が有った?』
 「視察で来ていたルノワール社のCEOが殺されました」
 秋山部長代理は照貴琉男できるおの返答に呆然とする。 ルノワール社のCEOといえば南関東連合において強い権限を持っている。 フランスの政界や企業、中東地域にも影響力がある人物である。 政治経済界ではルノワールから取って、闇の帝王ノクターンとも比喩されている。 そんな人物が暗殺される……日本的にも世界的にも大問題である。
 『で、下手人は?』
 「不明です。視察中に突如として吹き飛んだとの事です」
 そう言いながらその時の映像を見せる。 基地内を視察していたセルバンテス・ゴ―ンと側近の足元が爆発したのだ。 現場には肉片が散らばり誰一人として生きていない事が容易に想像出来る光景が広がる。
 『通常の兵器では無いな』
 「ハイ、メンタルギアです」
 そう言いながら観測機器に強力なマギウス波が表示される。 マギウス波の照合結果は【アンノウン】である。
 『犯人は適合者《フィッタ―》か?』
 「はい、恐らく」
 『グンマー校か?』
 「不明ですが捕まえない限りは不明です」
 『そうか……分かった。君には基地内の保安を任せる』
 「了解しました」
 敬礼をし照貴琉男できるおは天幕から出て行く。 彼がまず最初に指示を出そうと友人である2人の元へ向かった時。 ドンっという衝撃を後ろから受け彼は吹き飛んだ。 同時に口の中に砂と鉄の味が染みわたる。
 「一体なにが……」
 爆発源を振り返ると彼が先ほどまでいた天幕が跡形も無く吹き飛んでいた。 中に居た人間の生存など望めないだろう。
 「秋山部長代理!!」
 思わず叫びながら瓦礫を素手でひっくり返す。 暫くして瓦礫の中から右手が見えた。 デキルオは瓦礫を避けて手の主を救出しようとした。
 が、有ったのは右腕だけであった。 ポトリと彼は腕を落としながら涙を流す。 デキルオを取り立てて人間が逝ってしまったのだ。
 そう思っているとふと目の片隅にスーツを着た女性が見えた。 タワミの社員であろうか移動式の臨時社屋に向かっていた。
 (ん、あんな綺麗な人見た事ないぞ)
 突如として頭の中に適合者フィッタ―の特徴が浮かぶ。 容姿端麗にして髪や瞳に身体的特徴が現れる。
 (ま、まさか)
 照貴琉男できるおは銃を構えながら社屋に向かう。 社員証を翳して中に入り内部を見ると先ほどの美しい女性がいた。  彼女が居たのはデータを取り扱うサーバ室。 余程の権限が無ければ立ち入り不可能な所。
 その権限を持っている主任は……転がっている。 首筋に手をあてるが既に事切れていた。 彼女は持っていたスマホを巨大なサーバに置く。
 (彼女が犯人か?確保しないと!)
 そう思いながらデキルオは持っていた銃をガラス越しに彼女に向ける。 ダンダンっと音と共に銃口から煙が出る。 デキルオの前には罅が入ったガラスと銃弾が刺さっている。
 彼女は左手の人差し指をチッチッと振る。 まるで、彼の存在に気が付いており彼が撃つ事が分かっていた様である。 そして、彼女は右手を出した瞬間。 バキッと音がし強化ガラスが割れデキルオに突き刺り、壁に背中を打ちつけ肺から空気を吐き出される。
 『うーん、死んだかな?』
 そう言いながら彼女はデキルオの元へ歩き始めた。 (や、やられる) 額から血を流し朦朧とする意識の中でデキルオは思っていた。
 足音が自分の前まで来た時……。  スマホがピリピリと音を立てて鳴り同時に轟音が聞こえ天井に穴が開く。 開いた天井からは人民服を着、飛行装置を付けた少年兵士が姿を見せる。
 『等候着まっていたよ』 「抱歉晚了ごめんおそくなった
 的な会話を中国語で会話をすると手を繋ぎ2人は空へ飛んでいく。  異常に気が付いた隊員が発見したのは、瓦礫の中で気を失うデキルオであった。

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