グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第139話 瑠奈アタック


 ――2100年5月15日 10時30分 タワミ・PKOロシア基地
 女性は良く月と名詞で示される事が多い。 そして、太陽は男で示される事が多い。 地球から見て月の表型は美しいが裏側は酷いボコボコの穴が多数存在している。 まるで、DV夫から子供を守る母親の様である。
 そんな地球に住んでいる人間達は地球を【母なる星】と呼んでいる。 まさに、親の気持ち子知らずである。
 もし、月が今まで受けたダメージを地球に負担を求めたらどうなるか? その答えがここにある。
 『タワミロシア軍基地の破壊を完了』
 ボコボコに穴が空いたタワミ・PKOロシア派遣基地周囲を見渡しながら少女が言う。 少女の名前は武尊瑠奈ぶそんるな、セーラ服を着た黒髪に右目の蒼な特徴の美少女。 能力は月の裏側ムーン・リバーシブルという受けた攻撃を吸収し反撃する力。 メンタルギアは月の天球儀である。
 一体何があったのだろうか?
 それを遡る事、30分程前の事。 ロシア製のT-14アルマーヌが唸りを上げながらタワミ・PKOロシア基地に現れた。 入口での警護任務をしていた兵士の一人がこう呟く。
 「あれはアレクセイ隊長が載っている車両だ!どうしたのだろうか?」 「何か忘れ物でもしたのか?」 「イヤ、明智平要塞の占領が完了したら祝杯用の酒でも取りに来たのでは?」 「ハハハ、隊長は酒が大好きだもんな!」
 そう言い合っている2人の方へ砲が音を立てながら回塔を始める。 発砲音と共にヒュンっと風を引き裂く音がし基地前のバリケードが吹き飛ぶ。
 「て、敵襲撃だ!」 「ど、どうして隊長が!」
 慌てながら非常ボタンを押そうとした時。 彼らの手元が急に影で暗くなり、思わず頭上を見上げる。
 「な、なんだ?」 「つ、つきなのか?」
 歪んだ、ガスタンク程の大きさでデコボコした月が姿を見せる。 直径30m程の巨大な球体は基地の上空で止まる。 ぴかっと光った瞬間、大地が揺れ爆音と土煙が発生した。
 「一体何がおきたんだ」 「ゲホゲホ」
 土煙が晴れるとそこには瓦礫の基地が姿を見せる。  先ほどまで存在していた重厚な壁で造られた基地や最新鋭のレーダ通信施設。 いずれも、対ビースト戦にてロシア軍が誇る最高の強度を有している。
 「キ、きちが壊滅したぞ」 「い、一体何がぐあああ」 「どうした」
 声を上げた同僚を見ると細い腕が胸から突き出していた。 腕の先にはドクドクと脈打つ心臓が握られている。 ブシャっと音がし心臓がはじけ飛ぶと口から血を噴き出しながら白目を剥く。
 『大人が言う、【とりあえずナマ】って奴だね!』 「きさま!!」
 グタッとした男の後ろから少女がヒョコリと顔を見せる。 男は抱えていた銃を構え死体ごと撃ち抜く。 あっという間に撃ち抜かれ、ハチの巣にされる死体。
 「やったか?ぐはっつ!」
 男は自分の右腕に痛みを覚え確認すると右腕から血が流れている。 左手で止血をした時、太ももに衝撃を感じ仰向けに倒れた。
 『残念、ヤレナカッタみたいだねー』
 少女の軽やかな声と共に死体が投げ捨てられる。 グチャっと肉が潰れる音と共にそこには少女姿がある。
 「何故、生きている?確かに弾は貫通したはず」 『ええ、そうね確かに当たったわ。だから、お返しするわ』
 倒れた男の真上に野球ボールサイズの月天球儀が姿を見せる。
 『当たってもこの子にダメージが行くのだけど痛く無い訳じゃないの』 「なにを」
 男が問う前に多数の銃弾が貫く。 躰中を撃ち抜かれビクンビクンと跳ねる男をみながら少女は語る。
 『これが私の能力、月の裏側ムーン・リバーシブル
 ダンっと音と共に男は吹き飛び跡形も無くなる。 まるで、戦車砲の直撃を受けた様である。
 そう、少女の能力は受けた攻撃をそのまま返す能力。 ただし受けた攻撃は自分に傷を付ける事は無いが、痛みは有る。
 『痛みは共有しないとね?全ては平等にってのが社会主義だっけ?』
 基地の地下から出て来た兵士達を見ながら言う。 彼らは少女に気が付いたのが指を指す。 が、突如として彼らが居た所が吹き飛ぶ。
 『痛みの共有はされるべきだと思いませかね』
 あっという間に生き残っていた人間は少女と痛みを共有する事になる。 残っているのは血染めの大地と少女のみ。
 少女は戦車に乗ると進み、米軍基地そばの道路に停車する。 道端には【米軍基地の為に違法駐車を禁止する】と書かれた看板が置かれている。 そこに戦車●●は停車する。
 ハッチを開けて少女は人民服からスマホを取り出し電話を掛ける。 やがて、米軍基地からスーツを着た男と兵士達が姿を見せる。
 「ハイガール、ここは駐車禁止ですよ」 『ハイ、ミスター。勿論、分かって止めていますとも』 「それはいけませんね、レッカー移動しないと行けませんね」 『そうですね、罰金については指定された口座に振りこんで下さい』
 罰する者が罰される者に罰金を払う。 本末転倒であるが、2人がしているのは取引である。
 戦車はいつの間にか牽引され米軍の基地内に運ばれていく。 年配の男は銀色のスーツケースを渡す。 少女が開けると中には、タワミ日本社の社服が入っている。
 「ご注文のサイズ通りの服です」 『ありがとうございます、それではまた』
 少女はペコリと頭を下げてスーツケースを受け取り去って行く。 そんな少女を見送る男達。 姿が見えなく為った後い一人の兵士が口を開く。
 「サ―質問があります」 「なんだい?あの子の正体とか何をするかは無しだぞ」 「サ―酷いですね、私が聞きたい事はソレデス」 「あえていうならば、妖精だね」
 その兵士はタブレット端末を開き男に言う。
 「やったことを言うならば、グレムリンでは?」 「そうかも知れないな」
 タブレット端末に表示されたデコボコのタワミPKOロシア軍。 先ほどまでに堅牢な要塞で有った物が無くなっているのが映し出されている。
 「我々の最新爆撃機でも、此処までは一度では出来ませんよ」 「そういう事だ……彼女の正体も分かるだろう?」 「彼女は大漢民国で無く、そういう事ですか?」 「建前上は彼女は大漢民国の特殊な兵士だ!いいね!」 「分かりました」
 全てを呑みこんだ兵士は敬礼をしながら返す。
 さてさて、そのグレムリンと言われた少女は何処にいるのか? ガサガサと音を立て木陰から出て来たのはタワミ日本社の社服を着た美少女。
 スーツとタイトスカートが非常に似合っている。
 『所属が人事とはまた米国さんも皮肉好きの様ですね』
 所属が書かれた社員証を確認する。 そして、用意していたカツラを被りコンタクトを入れる。 現れたのは黒髪ロング、黒目の清楚系美少女である。 小さい身長に対応する為に、シークレットシューズを履く。
 『さて、セルバンテス・ゴ―ンさんにもリストラを受けて貰うのです』
 そう言うと少女は、タワミ日本社の部隊が展開している駐屯地へ向かっていった。
 セルバンテス・ゴ―ンとは何者ぞや? 彼はフランスと日本で有名なルノワール自動車・重工業CEOである。 武器から車までルノワールは様々な物を生産している。 かの社長は南関東連合圏内にて、自動化オートマチックを推進している。 これにより、企業利益の確保が可能としているが実際は人件費を削っている。 つまりは、人を減らすリストラをしているのだ。
 内外からは【人切りゴ―ン】と言われて批判を受けている。 本人曰く【金を儲けて何が悪いんですかー】と開き直っている。 最も自動化オートマチックに反対しているのは、グンマー校と首都圏校である。
 本日はその彼が米軍基地に来ており、新型兵器のお披露目をしている。 そして、つい先ほどからタワミ日本部隊の視察を行い始めたのだ。
 少女が目指すのはそのセルバンテス・ゴ―ンの暗殺リストラである。

「グンマー2100~群像の精器(マギウス)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く