グンマー2100~群像の精器(マギウス)
第131話 ああ無常なるいろは坂
――2100年5月12日 09時00分 馬返し
砲撃が始まり、兵士達がイロハ第二坂を進んでいく。 塹壕からも銃撃や砲撃、空から銃撃が行われバタバタと隊員達が倒れて行く。
『まったく、大佐も戻らず隊員は毎日死んでいく」
「そうだね、照貴琉男君!でもこれは君にとって好機だよ」
『そうですが秋山係長、』
照貴琉男に秋山係長といわれたのは、タワミから派遣された社員である。 あの後、ゴア・ビル大佐は米国にずっと留まっている。
「米国は本国がテロリストに攻撃された為に動く事は出来ない」
『確かに、国防総省にアーリントン墓地、各国の大使館が攻撃されました』
「シリア方面から流入したテロリストが原因。それにしてもグンマー校の対応は早かった」
『政府系の新聞では、グンマー校の陰謀とかと言っていますがね』
「っというかアイツラはこっちが忙しいくて米国にチョッカイは出せないだろうに」
『そうだと良いんですけど』
あの後のワシントンD・Cは混乱の境地に陥ったのだ。 スリーマイル島原発のメルトダウン危機が収束したと思いきや今度は自爆テロ。
最初は関連性を疑われたが、犯行声明がネットで公開され無関係である事が分かったのだ。 しかも、彼らは何れも米国生まれの中東系移民である事が分かったのだ。 爆発地域は爆発の被害よりも放射能物質が飛散したのが問題になっている。 大統領は非常事態宣言を発している。
これに合わせて、グンマー校と首都圏校の両首席は共同発表をしている。
~~共同発表~~
卑劣なテロという手法で、弱者である民間人を襲う事は許されない。 勿論であるが、5年前に民間人を襲った米国軍の一部が起こしたテロも許されない。
今回の件において我が校は、米国民に哀悼の意を表しする。 そして、報復で戦火に見舞われるであろう中東地域へ人道的支援をする。
その一部の組織はかって【トモダチ作戦】で我が国を助けてくれた事は感謝する。 だが、感謝と信頼の念は5年前の件で完全に破壊された。 はっきり言って米国は、1941年から上辺だけの【自由・平等・博愛】で進化していない。 それを学ばず放置した結果が、今回の結末である。 これからの米国に祝福があらん事を祈っている。
~~終了~~
共同発表が出たのは、ニュース速報が出るのとのほぼ同時。 まさに、狙っていたかの様な電撃的な速さある。 しかも、今回は両校の首席による共同声明である。 まさかの二校が仕組んだ事か?
っと誰もが疑ったが、中東のテロ組織が大体的に成功したとネットにアピールを始めた。
【異教徒どもの首都を攻撃してやった】 【我々の攻撃は米国とイスラエルが滅びるまで行う】 【世界中に散らばった仲間達よ今が好機だ】 【我々は適合者を人間と認めない】
言いたい放題の事を言っている。 が、着目して欲しいのは彼らが適合者を人間と認めていない事。 これは、彼らが敵対するローマ教皇が適合者を人間と認めている事が関係している。 坊主が憎ければ袖まで憎いというという所である。
だが、これはこの二校に最も言ってはいけない言葉である。 この事発言から中東のテロリスト達とグンマーと首都圏校は敵対していると世論は判断。
「どうだ!状況は!」
「最悪です。敵十次砲火により進軍不可です!航空支援を!うぁああぁああ」
報告していた隊員の映像が消える。 ドローンからの映像には、バタバタと大地に縫われる様に倒れて行く隊員達の姿が見える。
「秋山係長!航空支援が必要です」
『分かっているが……出来ない』
「何故です」
秋山はデータをデキルオに見せる。 そこには館林市と古河市間の空戦結果が示されている。
「全滅ですか!」
『我が社の精鋭派遣社員を失ったよ』
「グンマーは南関東に空から侵攻が出来ますね」
『彼らは能登半島で忙しいのだ』
グンマー校は能登半島と長野県の一部を開放した。 人・物・資金を全力で復興に振っている為に忙しいのだ。 日々ネットに復興計画が載せられスケジュールが更新されている。 担当しているのは、グンマー校と首都圏校の企業である。
投入される予算は、両校の企業で20兆円規模と言われている。 首都圏校の企業だけでも、数百社が参加予定でもある。 投入される人員は100万を超えるらしい……。
そんな事業をしている為にグンマー校は超忙しいのである。 っという事を秋山は説明する。
「なるほど、そういう事なのですね」
『だからこそ、我々には犠牲を払っても勝利が必要なのだ』
ぐっと唇を噛みしめて言う。 気持ちとしては、パッシェンデールの戦いを指揮をしたダグラス・ヘイグの気持ちだろう。 明智平要塞という存在はどうでもよく勝利という点を目指しているのだ。
「もう、後には引けないのですね……」
『50万、イヤ100万人を犠牲にしてもグンマーには勝たないと行けない』
「勝利宣言の為の明智平要塞の攻略ですか」
『そうだ!』
そう言い合っている間にも第3陣が突撃を開始する。 猛烈な爆炎と爆風の中を隊員達が雄叫びを上げながら突撃していく。
第二イロハ坂と隊員達はというと……。
「うぉおおおお」 「死ねーーーー」
銃を撃ちながら突撃を開始する。 塹壕では自動式銃が唸りを上げて掃射を始める。 バタバタと倒れて行く隊員達。 銃撃を恐れて少しでも違う方向を変えて歩くと砲撃に巻き込まれて死ぬ。
やがて、一人の隊員が猛烈な銃雨を通り抜けて目的の塹壕に飛び込む。
「やったぞ!一番のりだ!」 「あ、お疲れ。退屈だったよ」
少年の声がし、隊員の肩に手が掛かると紫色の炎が立ちあがる。 声も上げる間もなく一瞬で隊員は灰に変わる。
「さすがだね、太陽君」 「定子先輩こそ、流石です」
人民服を着た美少女が、血塗れの直角三角形定規を持っている。 どうやら、直角部分で隊員の頭をブン殴ったようだ。
「定子先輩!敵も迫ってきましたね」
「そうだね、でもまだ下がる時じゃないわ」
そう言いながら180度の分度器を出しブーメランの様に放り投げる。 向かってくる隊員達の首がバサバサっと落ちて大地を赤く染める。 応戦をしていると定子のスマホが鳴り耳に当てる。
「太陽君、騎兵隊の登場だって」 「騎兵隊?ああ、航空隊ですか」 「あ、来たみたいだわ」
2人が見上げると高速で降下していく10の黒い姿が見える。 背中に背負っているランドセルからはマニュピレータが展開されている。 展開された四本の手は大型の30mmガトリング砲やミサイルが多数展開される。
まずは全機によるミサイル攻撃で大地に巨大な爆炎が上がる。 爆炎の中を縫うようにして、航空隊は30mmガトリング砲で大地を掃射する。 10機が通り過ぎた後は動く人影は存在していなかった。
「先輩、凡そ2万が全滅ですね」 「あとは、中禅寺湖付近の主力敵指揮系統を破壊するだけですね」
10の影が中禅寺湖へ飛んでいき、暫くすると華厳の滝周囲から土煙が上がる。 どうやら攻撃に成功した様だ。
この日、華厳の滝に増設された指揮所及び砲撃陣地、兵站が攻撃を受け破壊された。 兵士や正社員を含め3万人が重軽傷を負う事になる。 時間と人的資源の無駄が続く……。
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