グンマー2100~群像の精器(マギウス)
第107話 115年目の飛行 前編
――2100年4月28日18時00分羽田空港
羽田空港に停止中の一機の旅客機。 JANAL123便、最新機体A380で乗客数524名。 18:04分に羽田発で伊丹に向かう予定の機体である。
その機体の操縦席から見えるのは、空港ラウンジから上がる黒煙。
「機長!管制塔の方は何と言っているのですか?」
『まだ、何とも言ってきて居ない』
「この状況では、出発など出来ませんよ」
『分かっているが……』
言いかけた機長に管制塔から連絡が入る。 暫く言い合った後に、副機長の方へ顔を向ける。
『管制塔から連絡だ、5分後に離陸だ』
「本当ですか?」
『ただし、条件があってな』
立体ディスプレイに飛行ルートの指示を表示する。 横に停まっている航空自衛隊の機体と一緒に離陸しろという指示なのだ。
「一体これは、どういう事ですか?」
『わからん、ただこの計画道理に飛べば良いらしい』
2人は顔を見合わせながら、離陸準備を始める。
その頃、空港内ではというと……。 ダダダット銃撃を警備員達がしている。 彼等はとある警備員は撃った銃弾の後を躰に残し、バタバタと倒れる。 別な警備員は、骨さえも残さず紫色の球体に飲み込まれ消える。
「瑠奈ちゃん、一般人を傷つけない様にね」
「分かっているよ太陽くんー」
逃げ惑う一般人を見つめながら、滑走路に顔を向ける。 ちょうど、滑走路にはオスプレイが降り立った。 自衛隊の対適合者部隊部隊である。
彼等は航空自衛隊の機体を守る様に半円の形を取る。 飛び上がったオスプレイは、武装を展開し左右の両翼から光を照射する。
「うーん、これはひょっとして、マギウスジャマーかな?」
「そうだね、マギウスジャマーだね」
マギウスジャマーは、適合者体内のマギウスを抑制する装置。 これによって、普通の適合者は行動を阻害されたりする。 が、グンマー校の適合者は普通では無い。
「瑠奈ちゃん、退屈で死にそうだ」
「陽くん、首席が言っていたでしょ!退屈は人間の誇るべき感情だと」
「瑠奈ちゃんそうだね」
少年が右手を翳すと紫色の球体が現れ、オスプレイを飲み込む。 マギウスジャマーの影響か、中途半端に飲み込まれた機体は大地に落下する。 ドーンっという音と共に空港内の窓ガラスが震える。
「一発で落ちるとは、ダラシがないねー」
「一発なら誤射だよ、誤射だから狙っていないから中途半端に残ったみたいだね」
落っこちていくのを眺めていると滑走路付近に展開していた部隊からも光りが照射される。 同じ様に、マギウスジャマーが照射されている様だ。
「瑠奈ちゃん、どっちだと思う?」
「勿論、自衛隊機でしょ!彼等は民間人を巻き込め無いわ」
「そうだね」
2人は滑走路を走り始めた機体を眺める。 そして、眺めていた窓から飛び降りる。 ダダっと銃撃音が響く。
そんな彼等が、追いかけている航空自衛隊の機体では……。
「機長!急げ、早く離陸するんだ!」
機体で男が怒鳴っている。
「待って下さい!まだ、V1に達してません」
V1っというのは離陸決定速の事をいう。 通常だと約285km/hである。
「何としても飛び立つのだ!さもないと」
ボンっという音と共に、紫色の炎が上がる。 隊員達が爆炎に巻き込まれたり、吹き飛ぶ中で二つの影が現れる。 それは、照明で照らされ少年少女である事が分かる。
「機長、追いつかれるぞ!」
「そんな!こっちは時速300kmなのに」
男が怒鳴り、困惑している機長の横に座っていた副機長が声を上げる。
「Vr、ローテーション速度です。機首上げます」
「了解、機首上げ」
副機長が操縦桿を上げる。 同時に機体は浮き始める。
「地面から離れたぞ!ガハハこれで、グンマーも追って……クソ」
男は武器を持ちながら、後ろの方に移動を始める。 顔を見合わせながら機長と副機長は、急ぎ後方の映像を展開する。
映っているのは、手を繋いだ2人の少年少女が空を飛んでいる光景。 2人とも後方から紫色の炎を吹き出している。 男が後部ハッチを開けた様で、ゴゥっと風音がし機体に警報音がする。
「な、何をしているですか!」
「飛んでいる相手なら、これで打ち落とせる」
肩掛けているのは、RPG7。 トリガーに手が掛かり、轟音と共に発射される。
「これでも、喰らえ」
炎を吹きながら、ミサイルは2人に向かって飛んで行く。 ドンっという音と共に爆炎が生じる。
「やったか!」
あ……フラグである。 爆炎の中から現れたのは2人の影。 少女の方は左手を差し出し、灰色の球体が現れる。
同時に、機体がメシメシっと音を立て分解する。 まだ滑走路上だった為、機体は機首を下げ始め大地に激突する。
機長も副機長も衝撃で投げ出され即死。 が、しぶとく男はボロボロになりながら生き残っていた。 そんな男の前に降り立ったのは、双子の少年少女達。
「瑠奈ちゃん、このオッサン以外生きている人居ないみたい」
「陽くん、そうみたいだね」
「フフフ、掛かったな馬鹿め種は上がった」
2人の上を巨大なジェット機が飛んでいきアッという間に空に姿を消す。 そう、彼等のターゲットは民間機の方に乗っていたのだ。
「全く、ヤってくれたね」
「私達の任務は、獲物が空に飛びきった此処で終わり」
「お前らは、何れ裁きを下されるんだ、ハハハギャアアア」
ボッと紫の炎が男を包み男は大地を転がる。
「陽くん、殺しちゃだめよ」
「安心して、四割四分殺しだよ。半殺し以下だから四捨五入しても四だよ」
「じゃ、帰ろうか?」
「そうだね」
2人は、手を繋ぐとロケットの様に炎を吐きながらグンマーの方に姿を消した。 残ったのは、プスプスと全身を焦がした男と機体の残骸であった。
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