グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第88話 忘れ難き孤児院(ふるさと)前編★

 ――2100年4月25日13時00分 東京某所
 ~小鮒釣こぶなつりしかの川ー  ~夢は今も巡りて
 パイプオルガンの音と少女の声が、礼拝堂の中に響く。 ステンドグラスには、雨が当たっている。
 礼拝堂の中央には、1人の男が十字架に貼り付けられている。
 「私を誰だと思っている!この地区の神父だぞ!」
 『分かっていますよー、政治家や経済人との交流も盛んですよね』
 「そうだぞ!私はこの地域の権力を握っているんだぞ!」
 『だからといって、孤児を使って人身売買しても良いのですか』
 ダダンとパイプオルガンが叩かれ、男は躰を震わせる。 この神父……どうやら孤児を売買していた様で有る。
 神父の前には、映像が展開される。 多数の少女達が、値段付きで表示されている。 何れも創られた様な美しい顔出をしている。 適合者フィッターである。
 「ふっ、異教徒の化物を売って何が悪い!」
 『日本人を異教徒とそして適合者フィッターを化物ですか』
 どっかの吸血鬼物のアニメで出てくる神父の様な事を言っている。 普通は心の中で思っていても、口に出しては行けないはずである。 だが、この男は口に出してしまった。
 『ねぇ、知っています?口は災いのもとって?』
 「ど、どういう事だ?」
 男の前には、別な映像が映る。 映像の男は、先程の言葉を繰り返している。
 『世界中に拡散して上げたわ、教皇様も可哀想に』
 クスクスと悪魔の様な笑みを浮かべる。 この言葉に、男は顔を蒼くする。 男の属する教会のトップはローマ教皇なのだから。
 カトリック教会の性的虐待事件は根深い物がある。 21世紀のローマ・カトリック教会を揺るがしていた問題でもある。 歴代の教皇は何れも膿を出しきれず、信者を失っていた。 ビーストによりヴァチカン・イタリア陥落が、天罰とさえ言われた程である。
 そんな中で、3年前にグンマー校は襲学旅行アサルトトラベルを決行。 スイスからマルタ島までを開放したのだ。
 現在この地域をヴァチカンとグンマー校、米軍が管理している。 地域名を【神聖ローマ帝国】とか【教皇領神聖十字国】にするか国名が話題になった。 現在は【NEOスイス・ヴァチカン・イタリア連合国】という名前だ。  新生という意味のNEOは、米国が敢えて入れた。 決して、グンマー側が【ガイアが俺に輝く】的に考えて付けた分けではない。
 当初は誰かが反対すると思われていた。 だが、グンマー首席の【NEOって、いいんじゃない?】の一言で良識は陥落。 提案した、米国側でさえ頭を抱えた。 何故ならNEOというのは、米軍基地に多く付けられる名前だからである。
 【神の代弁者たる教会を米軍が基地とした】これが世界に広まった。
 案の定、米国内ではカトリック右派の政治家や民衆が暴れた。 結果……外務省のお偉方の首が飛んだらしい。
 『グンマー首席がヴァチカンに求めたのは、適合者フィッターを人間と認める事』
 当時の社会では適合者フィッターは、意志を持った人造兵器という認識だった。 それを覆したのが、グンマー首席が願った適合者フィッターの【人間宣言】。
 米国はというと……イタリア半島基地の治外法権化とスイスの管理権を求めた。 それに比べたら、グンマーの願いなど金も掛からない安い物。 適合者フィッターの人間宣言は直ぐに認められた。
 なお、米軍はスイスを管理を許可さホクホク顔でスイスに駐留。 数週間後、ドイツ側からビーストが流入し壊滅的な損害を被る。 全5個師団、5万が壊滅的な損害を出した。
 原因は、ビーストの駆除をマメにしなかった為に餌が不足した為。 直ぐにグンマー校の100名がスイスに遠足に行き●●●●、スイスを再開放した。 現在は、教皇直属の聖騎士隊とグンマー校が管理している。
 この功績で、グンマーは欧州では自衛隊より一目置かれている。 また、世界で適合者フィッターを人間として見るように変わった。
 「教皇が認めようと、儂は適合者フィッターを認めんぞ」
 『異端審問の結果、死刑です』
 パイプオルガンを叩くとオルガンはべキッと音を立て壊れる。 立ち上がった少女が持つのは、火が付いたライター。
 『悪い者は全て業火で焼かれる』
 「や、やめろ!死にたくない」
 『さようなら、私の孤児院ふるさと
 ライターが投げられ、床が燃え上がる。 <a href="//19656.mitemin.net/i236402/" target="_blank"><img src="//19656.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i236402/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
 炎を背に少女は礼拝堂を後にすると雷雨が少女に涙の様に降り注ぐ。
 『あら、お客サンからしら?』
 少女の瞳に映るは、鉄斎少年だった。

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