グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第76話 殺戮兎《キラーラビット》前編


 ――2100年4月23日10時00分東京某所
 鉄斎少年は、無事に退院すると先輩に連れられ街の中へ繰り出した。 普通の人間から重傷だが、適合者フィッターはスグ治るのだ。
 『先輩、仕事はまだ有るんですよね?』
 「今日は、昼ドンだ。上手い飯屋が有るんだ奢るぜ」
 先輩に連れられ、街の中へ繰り出す。 動かない●●●●高いビル群が立ち並び、人々の雑踏を鉄斎は眺める。
 「都心の混雑は珍しい?グンマーも同じ様に発展しているらしいけど」
 『ええ、ビルがそのまま立っている事に、驚きました』
 「ああ、そういう事か……あの都市は時差式移動都市だもんな」
 『行かれた事が、有るんですか?』
 「まぁ、任務でな……」
 末尾を濁しながら、先輩少年は鉄斎少年を連れて歩く。 暫く歩いているが、一向に上手い飯屋に着く気配が無い。 そして、最後には人気の無い裏路地にやって来た。
 『先輩、道間違ってませんか?』
 「イヤ、間違って等いない。なぁ、そうだろう?」
 先輩少年が振り返りながら、手に持っていたナイフを投げる ズシャっと肉に刃物が刺さる音がし、足音が遠ざかっていく。
 「さて、飯前のウォーミングアップだ」
 先輩少年は、血痕を見ながら言った。 2人で血痕を追いかけた先には、閑静な住宅街の一軒屋。
 『鉄斎武器を出しとけ』
 「ハイ、分かりました」
 先輩少年はナイフ、鉄斎少年は刀を出した。 玄関は半開きで有ったが、罠の可能性を考慮し庭側のガラス戸から様子を見た。 2人の目に飛び込んだのは、異常な光景。
 血塗れの男が刃物を首に当て、立っていたのだ。 男は手に持った刃物で、自分の首を切り床に倒れる。
 先輩少年は、ガラス戸をナイフで切り中に侵入する。
 「おい、大丈夫か?」
 「バ、バニーガール……」
 グフッと血を吐き男は、虚ろな瞳で天井を見る。
 『先輩!見てください!』
 鼻を抑えながら、鉄斎少年は廊下を指差す。 そこには、多数の人間らしき肉塊が多数転がっていた。
 「取り敢えず、警察に連絡するか」
 先輩少年はスマホを取り出した。
 ◆  ◆  ◆
 パシャっとフラッシュが焚かれ、鑑識が写真を取っている。
 「警部!少年達から、事情聴取して来ました」
 『何か、焼肉臭いぞ?』
 「近くの焼肉屋で、昼飯を奢って来ました。領収書です」
 シレっと領収書を警部に見せる。
 『死んだ人間を見て、肉を食うとはな!』
 「先輩らしき方は食べましたが、後輩の鉄斎という子は食べませんでした」
 『それが、普通だ!』
 警部は、部屋中を見回す。 壁に床に血が吹き飛び、尋常な状態で無い事が分かる。 さらに、台所には人間の大腿部が無造作に置かれている。
 『適合者フィッターは、どこかオカシイ……』
 「オカシイで、男の最後の言葉がバニーガールだそうです」
 『もう死語の言葉だな!風俗でも、ガイシャは行っていたのか?』
 「イイエ、とても真面目で勤勉実直な警察官でした」
 『どうした?』
 「同期の間では、性癖が難有りと噂され」 
 「そこまでに、してもらおうか」
 言葉を遮る様にして、黒スーツに黒サングラスの男達が現れた。
 『また、あんたら本庁か……』
 「出て行ってもらおうか?」
 『分かったよ、出て行くよ』
 玄関から出ていく時に、警部はフラリとバランスを崩し床に倒れる。
 「警部!大丈夫ですか?」
 『疲れているのかな?』
 そう言いながら、警部は家から出ていく。 2人が車の中に入った時、警部はハンカチに包んだ有る物を出す。
 「警部それは?」
 『分からんか?小学生向け記録装置付きの防犯ブザーだ』
 「まさか、先程の死体は……」
 『あの男の小学生になる娘だろうな……』
 「なんて事だ!」
 ガンと車のドアを叩く。 さて、記録装置には一体何が映っているのだろうか……。

「グンマー2100~群像の精器(マギウス)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く