グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第67話 憂鬱なる浪漫部部長

 2100年4月20日8時00分。
 朝から、浪漫ろまん部部長は少し不機嫌だ。
 「17日から早3日……早すぎる」
 『まあ、いいんじゃない?』
 燃える様な髪に瞳の少女が、画面越しに声を上げる。 赤城朱音あかぎあかね副首席である。
 「朱音首席……朝から何食べているのですか?」
 『香箱蟹ズワイガニ能登のと牛だよーー』
 右手に巨大な蟹の右腕。 左手に脂肪が乗りよく焼けた肉。 朝から胸焼けしそうな組み合わせである。
 『金沢の新鮮な香箱蟹ズワイガニと幻の能登牛、早く食べたかった』
 「違います、侵攻速度です。このままだと補給線が伸びます」
 『加賀に来たのは私だけ、他の者達は金沢攻略をしています』
 映像に映るのは、廃墟と化した金沢市内に千本ノックを打つ野球部。 球が音速で街中に飛び込み、大爆発を起こす。
 『朝は野球が朝練、昼はテニス部、夜はサッカー部が三交代で部活をしています』
 ビースト達が宙を舞い、当たった球で爆発していく。 金沢市内も半分以上が、ボコボコと穴が空いている。
 「ですが、これだけ早いと1週間で攻略してしまうのでは?」
 『何か問題でも?』
 「イエ、他の隊員達が不満を持つのでは?」
 『我々は戦闘狂では無い、1週間の休みを与える』
 朱音は、肉を食べながら笑う。 そんな彼女の前に蟷螂カマキリが現れる。
 『まぁ、安心して。私も時間が掛かる様に手を抜くわ』
 カマキリの巨大な刃が、朱音の躰を切り裂く。 普通の人間なら、死んでいる所。 朱音の躰は燃え上がり、何事も無かった様に元に戻る。 逆にカマキリはバッサリと切られ、大地に落ちる。
 『ね?ヤられてから殺りかえす。時間掛かるわよ』
 「そういう問題では無いような……」
 『カマキリって美味しく無いのよね?』
 「へ?」
 朱音は、転がるカマキリの頭を齧る。 ペッと吐き出し、炎の中へ投げ入れ灰にする。
 「何でも喰べると思っていました」
 『私を悪食みたいに言わないで下さいな』
 「それでは、また定時連絡で!」
 映像が消え、作戦本部で浪漫部部長は溜息を吐く。

 「朱音副首席って、予想外の行動しすぎ」 「部長の思惑を超えて行くとはねー」 「1週間の休み、僕たちも欲しいねーー」
 周りの少年少女達は、ニヤニヤし言いたい放題言う。
 「お前ら……休めるとでも?」
 「「「イエイエ、思っていません」」」
 部長は、持っていた杖で床を叩く。 展開されるのは、栃木方面の映像。
 「前々からの話だが、栃木方面がきな臭い」
 「部長、情報部の情報を纏めると侵攻は間近です」
 部長の前に出される映像は、大量の人やトラックが動く映像。 場所は中禅寺湖及び戦場ヶ原と書かれている。
 「数は10万程っとなっているが確かか?」
 「ハイ、全国の求人広告からの算出された数値です」
 「また、派遣社員を使うのか……学習しないな!」
 「その他にも仏国、露国、英国人が出入りしている様です」
 「馬鹿、3ヶ国か……まだ根に持っているのか」
 呟きながら、国旗は無いが、その国独特の兵器達の映像を見る。 仏国、露国、英国、何れも独特な武器の形状をしている。 浪漫部がそれを見逃すハズはない。
 グンマーは3年前に、イタリア及びヴァチカン・スイスを解放した。 その後、グンマーはドイツ及び欧州を開放予定だったが3ヶ国が介入。
 結果、グンマーはドイツと欧州の開放を放棄。 3ヶ国は進めた軍が全滅し、ビーストの反撃を受け大損害を受けた。  慌てた3ヶ国の首脳陣は、マスゴミを使い情報操作を行なった。
 数ヶ月には、グンマーが部隊を勝手に撤退させ3ヶ国の軍が全滅した事にされた。 勿論、グンマーは抗議をしたが開放した地域以外で信じる者は居なかった。
 此処までは、良かった……。 だが、首脳陣は世論の流れを甘く見ていた。
 世論はグンマー憎しに変わり地中海やオホーツク海で一触即発の状態になった。 米国が、何とか仲介し事なきを得たが未だに遺恨が残っている。
 「あの3ヶ国は、経済が不味いですし国民の目を逸らす気でしょう」
 「部長、どうします?」
 「西の方は、群馬警備グンマー・ポリス統合部・ユニオンGPUゲーペーウーに任せましょう」
 「分かりました」   
 部長は着々と開放される能登半島図を眺めこう呟く。
 「我々は任を果たした……次は、お手並み拝見だGPU隊長」
 (報告では、侵攻まで2週間……能登を完全に平定した後だな)
 っと同時に思いながら、朝日を浴びる為にエレベータに向かって行った。 

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