グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第58話 火花散る滑走路 後編


 兵士達は銃を構えながら、機体から向かってくる少女を見る。
 「ヒュー若くて可愛い女の子だな」
 「そうだな」
 『話は、そこまでだ』
 隊長が、後ろから言葉を挟む。 そう言っている間に、少女は彼等の前に姿を見せる。
 「こんにちは、前橋宇佐美まえばしうさみ脳業デカルチャー部長です」
 宇佐美を名乗る少女は、完璧な英語で彼等に話す。 兵士達は、まだ銃を構え何時でも撃てる様にしている。 沈黙を破るように、隊長が宇佐美に声を掛ける。
 『NEO埼玉に、来た理由は?』
 「とある人物達を回収する為」
 『誰を回収するのだ?私には報告されていない』
 「セキュリティランクが低い方には、伝わって無いのでは」
 プッっと兵士達が吹き出し、隊長がギラリと睨む。 どうやら、兵士と隊長とは仲が良い訳では無い様だ。
 「そうそう」
 宇佐美が懐に手を入れ、兵士達の手がトリガーに掛かる。
 「あ、銃だとおもっちゃいました?」
 『何を出すか知らないが、ゆっくりだせ』
 「ハイハイ」
 懐から、ゆっくり出してきたのは紙。
 『紙だと?グンマーは未だに使っているのか?』
 「何か知らないけど、問題が有った時用のコードだって」
 隊長が差し出された紙を受け取る。 中には、9桁の数が書かれていた。  最後には、司令官の名前が入っていた。
 『分かった、確認が取れるまで天幕で待っていて貰おうか?』
 「フフ、慎重さは臆病と表裏一体」
 カッと隊長の目が開き、兵士達は殺気に怯える。 隊員隊は、宇佐美と隊長の間で見えない火花が散った幻想を見た。
 天幕内に連れて行く宇佐美を見送り、隊長は司令部に連絡を入れる。
 『司令部、見ていたな?宇佐美とは何者だ?この手紙は何だ?』
 「こちら、司令部確認する」
 司令部では、隊長から送らて来た少女データと手紙を確認する。
 「手紙の方は、解析に時間が掛かる。宇佐美のデータを出す」
 隊長は、前橋宇佐美のデータを確認する。
 ~~前橋宇佐美まえばしうさみ~~
 16歳、首席親衛隊10番隊隊長。 特定人的災害特A級。
 10年前の群馬独立戦争グンマーワーで活躍。 戦争末期の関西地域で、起きた暴動の首謀者とされる。 この暴動で、500万の民間人が犠牲になった。 本人は、関与を否定。 コードネームは、地獄の傀儡師ヘルマリオン
 注意事項:彼女に触れたり、触られない様に!操られる可能性大。
 ~~以上~~~
 『不味いぞ!アイツ等』
 ボディチェックの時に、宇佐美に触った事を思い出した。 通常、女性の場合は女性兵士が確認する。 だが、宇佐美は文句を言わず男の部下達にチェックを許した。
 隊長は慌てた足取りで、天幕に向かって行った。 勢い良く天幕を開ける。
 中には、誰もいなかった。
 『不味いぞ、奴はグハッつ』
 隊長は、突然の腹の衝撃で転がりながら受身を取る。 銃撃を受けたが防弾チョッキが防いだ様だ。 攻撃した相手は、部下の兵士だった。
 『オマエ、なぜこんな事を』
 「……お前を殺す」
 『それが、お前の本心か』
 無言のままで、兵士は銃を持ち隊長に打ち込む。 ダンダンっと音がし、隊長がいた床に穴が空く。
 「っつ!」
 『恨むなら、弱い自分を恨め』
 アーミナイフが、兵の首に刺さる。 クタッと糸を失った人形の様に倒れる。 ギャリギャリと嫌な音を立て、隊長の足元で火花が散る。 足は、タイヤに変化していた。
 (足だけ人造人間化していてよかった)
 通常なら、音に気がついて他の部下達が来るはず。 やってくるはずの部下の姿は見えない。
 (っという事は全員、やられたのか?)
 慎重に、天幕から出て外を眺める。 誰も其処にはいなかった。
 「司令部!不味いぞ!宇佐美が基地内に入った!」
 「分かった、緊急配備する」
 基地内のサイレンが鳴り始める。 隊長は、躰を屈め高速で本部へ向かっていく。
 滑走路には、火花が散る。 まるで、導火線の様に……。
 親衛隊10番隊隊長、前橋宇佐美まえばしうさみがNEO埼玉に侵入。 2100年4月18日15時30分の事であった。 

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