10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

107


「一星達は何処いったんだよ!」
「わ、わかりませぬ…」
俺は苛立っていた。集落の前に広がる海は消え、奈落の谷が出来上がると同時に当初俺が予定していた数値を遥かに上回る量の魔素が兵器に充填されている。
後は視界の端で縦横無尽に暴れまわる黒い大剣を振り回す巨人にお見舞いするだけだ。
まだその姿は小さな影程度だが、ぶちかますまでには時間の問題だ。
万が一に備えてあいつらには集落にいて欲しいが何処にも見当たらない。二星の天炎竜が涙を流している事から何やら嫌な予感はしていたのだが……。
「もういい、探しに行ってくる」
「主君!!おやめください!!」
「なんでだよ!!」
足に抱きつくカルマを叩き落とすとカルマは涙を浮かべる。
「主君……実は…………」
そこから話された衝撃の事実に俺は言葉を失った。
いつもならカルマを殴り倒していただろう。だが、それすらも出来ないぐらいに驚愕してしまったのだ。
「なめやがって」
俺は気付いたら走り出していた。
ふざけるな。
何が命を引き換えにだ。
誰の許可を得て言っているんだ?
俺はあいつらを…。
仲間のみんなを守りたいからこそ死にそうな目にあいながらもあの兵器を完成させたのだぞ。
それを…それのせいで…あいつらが死ぬなんて…。
許さん。
絶対に許さん。
俺は持てる力の限りを開放し転移プレートへ走った。
そして転移プレートに乗ろうとした瞬間に俺は唇を奪われた。
カルマに?
何を言っている、よく見ろ。
「おえぇぇぇぇぇ」
「あるじぃぃ!?!?」
俺は一星に襟首を掴まれた鼻水と涙垂れ流しの強面ヤクザと唇を合わせてしまったのだ。
「リブラさんはオールラウンダーですね」
「と、ときたさん…流石に怒りそうだぞ?」
「じょ、冗談ですよ!」
通りすがった時田さんは見てしまった事に申し訳なさそうに小さく笑い、カルマはプルプルと震え始め大粒の涙を浮かべていた。
「っ…うっ…うぅ」
「カルマ様?なんで泣いてんすか?」
「うわぁぁぁん!!一星のばかやろぉが!!どんだけ!どんだけこのカルマに!!どんだけ心配かけたと思っているのだ!!」
何処かいつも大人びていたカルマがボロボロと泣きながらポカポカと一星を叩き、それに続いて二星が現れる。
「おい、一星殿。いくら上官と言えど我が師匠に対して無礼を働いたとなれば槍の錆に変えてくれますぞ」
「まて!まずお前の槍錆ねぇだろ?!」
「うぅ、りゃんしぇん」
「カルマ様、約束通り帰って参りました」
「ばかぁぁ!!」
カルマは鼻水まで垂らしておかしな事になっている。
約束とかどんな死亡フラグ立てて行ったんだよ。
「すいませんでした主」
石松の巨大な手にヤクザを大量に抱きかかえた三星が現れるや否や俺と目が合うと頭を下げる。
「そこ立っとけ。お前ら全員」
続いてしばらくヤクザが垂れ流し状態が続くと四星が現れる。
白髪を風に揺らしながらヤクザをポイポイ浜辺に投げ捨てるとサムズアップで俺に白い牙を見せるがとりあえずビンタする。
「いたっ!!えっ?」
「いいから並べ」
頬をさすりながら渋々と星持ちの列に並ぶと最後に六本の腕一杯にヤクザ抱えた五星が現れる。
「これでヤクザは全てです」
「そうか、じゃあ五星、お前もそこ並べ」
ゆっくりと頷き一星から五星まで並ぶと俺は大声を出しながら距離をとった。
「再教育じゃぁあああ!!!」
「ちょ!あるじ!俺がやばい!やめてっ!!」
一星に向けてドロップキックをかますとドミノ倒しに星持ち達は吹っ飛んでいく。
もはやここまで吹っ飛べばドミノどうこう関係無い気もするが。
「お前らこの先は絶対に俺に相談しろよ?けどな、色々聞いたけど三星…お前の考えは正しい。確かにあれは危険すぎる…そんな事は造ってる俺自身がわかってる、けどな、心配しすぎだ。何処まで行っても俺だぞ?決める時は決めてやる。だから相談しろ。わかったか?」
「はい……」
いきなり聞かされた大問題が一瞬で解決した後、迷宮での出来事を聞かされた。
「うぅん、じゃあその秋定って奴が対価を払ってくれるってかい?」
「うん…それで俺らはこいつら連れて帰ってきたんだ…」
「そうか……」
確かにそれなら安全だろうな。一応こちらもそれに近い術式は安全性を見て取り込んだが…いや、それ以上に安全性が見込める術式なのだが。まぁ、ここで漫画の主人公とかならそいつも助けるとか言うのかも知れないが、こんだけのヤクザ抱えさせられた上に親玉までってなると願い下げた。
むしろ申し訳ないが凄く殺したい。
けどそれは流石に末代まで呪われそうだからしないけども…。
八つ当たりで喧嘩売ってくれればいいんだけど。
それは今は置いておこうか。
「リブラさん!!あの…巨人?がかなり近づいてますよ!!」
「おけーい、行っちゃおうか」
星持ち達とカルマに向き直ると神妙に頷く。やはり信用していないのか?
なんたる。
まぁ、いい。
結果で唸らせてやる。
月神さん、太陽神さん。
おつでーす。

魔導兵器の前に立ち術式を作動させていく。
中に組み込まれた魔法陣が無数に輝き始め、青い魔晶石もそれに連動し輝き始める。
しかし近寄れば近寄る程気持ち悪さが際立つ巨人だ。
浅黒い肌に丸坊主。
猿のような顔に…………。
いや、待て……。
何かの冗談だろ?
「おい写楽」
近くに写楽が居たので呼びかけた。
「どうしたんですか?」
「あの巨人、お前に見覚えはあるか?」
すると写楽は深刻な面持ちになる。
「えぇ、あれは私達の世界での先代大統領。世界初の黒人大統領バラクウ・オバナそのものです…」
やはりか…。
報告では気持ち悪い巨人としか聞いていなかったが…。
「ありがとう。全ての術式が起動したら撃ち込む。悪いが大統領は木っ端微塵だ。」
「まぁ、別の国なんでなんとも思いませんが…できる事なら是非この掛け声で…」
写楽が耳打ちした言葉を噛み締めると俺は魔導兵器に向き直った。
「わかった、じゃあいくぞ」
「えぇ、是非。」
赤と青の魔導兵器は白い光に包まれ、激しい魔法音を鎮める。
準備完了だ。
この管理下に置かれたベルト状に広がる世界の魔素の三分の一を集約した魔導砲。
今ここに開放する。





「イエスウィーキャン!!!」






起動と同時に発動。
万を超える民衆の前で撃ち放たれる魔導兵器の発射音に華やかさは無かった。
ポコン。
気の抜けるようなシンプルな音と共に世界が白く染まる。
やはり予想通り小分けにする事は叶わなかったようだ。
全ての術式が一つに集約され、現状俺が使える最大級の殲滅魔法の二つ。
臨海温度の深紅の太陽クリティカリティクリムゾン
破滅の冬の白い雪月フィンブルクロウカシス
この陽と陰の両極の殲滅魔法が実に1000ずつ組み込まれ、2000発分が一つにまとまった。
一瞬で空の青も消える程の真っ白な空間に切り替わると同時に、念入りに組み込んだ界理術がエリミガリアの消滅を対価に構築されていく。

「耐えてくれ……」

光が大統領に集約されるや否や無音に包まれ。
容赦無く崩壊が始まった。
ウェスタールンド程の宇宙最大の星ですら容易く砕くであろう崩壊の始まりは壮絶すぎて無音だった。
俺は小さな声で願う。
「頼む…死んでくれ」
そして破滅を悟った巨人はその無音の中で叫んだ。俺の声に答えるように…。


「イエスボォォォオオス」





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