10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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不動国跡地の畔では、盃を交わす鬼の姿があった。
「これ開けたらいくか五星」
「そうですね、でも本当に三星殿まで行くのですか?」
「何回目だよその話!いいから飲めよ!!」
その二匹の鬼を追う一星達は畔にて盃を交わす三星と五星を見て安堵の息を吐く。
「おいおいおぉい!抜けがけかぁ?俺も混ぜろよぉ!」
「この緊迫した中でこんないい酒を飲みおって、なんぞ怪しいのう。まさか貴様らホモか?」
「二の旦那ぁ、コムギさんが言うにはBLって言うらしいですよ?びーえる」
冗談を飛ばしながら三星と五星に歩み寄る一星達は、三星と五星の真剣な表情を見て顔を引き締める。
「やはり来てしまったっすね、一星様。」
「あ?なんの話だ?俺たちは更なるパワーアップの為にあの迷宮を攻略してやろうかって思ってんだけどお前らもくる?」
知らぬ存ぜぬと白々しい話しをするが、そこで五星が頭を下げる。
「お願いです!一星様、ここは我々にお任せください!」
その言葉を聞いた二星は五星の腹を蹴り上げる。
「うっ」
「我らの主を何処まで愚弄する気だ!!信じれぬとでも言うのか…」
「そんな事は断じて!断じてありませぬ!!」
怒気を孕む青面金剛五星の叫び、鋭い目をさらに尖らせ覚悟を伝えようと邪気を纏う。
「ほう、面白いな?我に挑もうとでも言うのか?」
そこに立ち方すらも忘れてしまいそうな強烈な破裂音が響く。
「はいはい!うるさいぞーおまえら。」
一星だ。閻魔一星がただ手を鳴らしただけである。
圧倒的なまでの鬼である一星が、ニコリと微笑んでから空間が歪む程の力を開放する。
魔力、邪法、地獄の下法、闘気それらを綯い交ぜにした純粋なまでの力の開放。
だが、笑顔であった一星の顔は怒りで染まり上がっていた。
「お前らがあるじを、神域を大切に思う気持ちには心打たれたよ…でもな、俺たちは仲間だ。なんで相談しない?」
右足を踏み込むと大地が揺れ水面が波打ち、空気が赤黒く染まる。
鬼だからこそ立てるであろう、地獄の空気に一変する。
世界が赤一色に染まる。
「三星!!!!!」
「は、はいっ!!」
「何故五星の蟲の話しを聞いて俺らに言わなかったのだ!!何故助けを求めない!!!」
叫びと共にさらに空気が変質し濃厚になり息も絶え絶えとなりはじめる。
「そして五星!!!!!」
「…っ、はい」
「何故お前は俺たちに助けを求めないのだ!!!」
三星は歯を食いしばり一星の気に当てられながらゆっくりと口を開いた。
「知ったからこそ…知ったからこそです…」
「何がだ!!」
「蟲神の蟲は抗う事のできぬ呪い…だからこそ!!」
「そんな話し聞いているわけじゃない!!俺はあの残橋にいた!!話しは聞いて知っている!!俺が言っているのは!!俺が言っているのは何故俺らに何も言わずに行こうとしたかだ!!仲間なれば抗う事が許されぬならば!助けを乞い共に抗えば良いではないか!!」
五星には一星の優しさと理解しているのだが、その言葉は綺麗事にすら響いた。
「なれば…私は蟲に操られ蟲神の駒となり主含む神域の仲間に殺されて死ぬのが…それが私の武人として相応しい最後だと、申されるのか!!」
「たわけが!!」
一星が、怒りに身を任せ拳を振り抜いた直後に、二星は赤黒い邪法の巨槍の柄で一星の拳を受け止めると巨槍は微塵に砕けるが、拳の勢いも止まる。
「熱くなりすぎです、一星殿」
「悪い、助かった」
五星も歯を剥き出しにして殺戮弩ジェノサイドバリスタを展開していたが四星がビンタをして落ち着かせる。
「落ち着こうぜ?五星。」
「すみませぬ」
直後に一星は力の開放を止め、笑顔に戻る。
「まぁ、お説教も終わりっつーこって星持ちみんなで行きますか?」
「そうですな、我ら星持ち皆が対価を払えば、神域を守れるやもしれませぬ!」
「いーっすねぇ旦那方ぁ!おら立て三星!!五星もいくぞ!!」
元から決めていた事なのだ、少し脅かしてからみんなで行こうと言うのは。だが、その一星の言葉に三星と五星は首を横に振った。
「なりませぬ!!それだけは!!」
「そうですよ!!考え直して欲しいです!!」
はははと笑いながら三星の頭をポンポンと叩く一星は問いかける。
「じゃあお前は何故命を賭けるんだ?」
「そんなものは決まってます!俺は神域を愛してますから!」
「ここにいるみんなそうだよ…あそこで生まれて互いに命かけて戦って、みんなと出会えた、みんな神域を愛してる。それで十分だろ?」
返しの言葉が見つからなかった三星と五星は俯く事しか出来ずに一星の大きすぎる背中を見つめ、歯を食いしばり小さく涙を流した。
そして迷宮へと五匹の鬼が姿を消すと、黒いシミが浮かび上がる。
「あはっ、みぃ〜つけたっ」







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