10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?
83
転移プレートの設置に3日間走り回った四星は、仮眠をとった後にロウエントの果ての町コロニアで大きい欠伸をしていた。
寝る前ついでに一仕事してやろうかと町の領主的な奴をぶっ殺しに行こうとしたらロウエントの国政に関係の無い町だったのだ。
そして更に至れり尽くせりの高待遇である。
「ほらほらスーシェンさん!肌の色なんて気にしないで楽な格好して!!」
エプロンをかけたオバちゃんは蟻である。 いや、正確には蟻人族なのだが、人寄りの表情の変化が見られる蟻なのである。 蟻の触覚に黒い肌でよくよく見るとわかる複眼。 他は人間と大差ない蟻人族。 初めは嫌な顔で見られたが町一番の力持ちであるこのオバちゃんの息子に腕相撲で勝ってから歓迎されたのだ。
即座に設置予定であった転移プレートを指輪に収納し一晩を明かしたわけなのだが、スーシェンとしてもゆっくりはしていられない。
「オバちゃんありがとう!楽しかったよ」
「なんだいもういっちまうのかい?なんか他の民族はピリピリしてるみたいだからねぇ、気をつけて行くんだよ」
「ありがとう、オバちゃん!こう見えても強いから大丈夫だよ」
「こう見えてもクソもウチの力しか取り柄の無いバカ息子に腕取りで勝っちまうんだから強いのはわかってるよ!!ったく、いつでも帰ってくるんだよ!自分の家だと思っていいから」
たった一日、されど一日。 朝まで力比べをしながら酒を飲み、力にも酒にも勝ったスーシェンの歓迎のされ方は普通じゃなかった。
「良い町だったな。旦那達にも紹介してぇ。」
ばさっとフードをかぶり来た道に向かうと畑仕事をする蟻人族がいた。
オバちゃんの息子であるベガだ。
「なんでい?どっかいくのかい?」
「あぁ、こう見えても忙しい身でな!」
肩と鼻で笑う蟻人のベガは鍬を投げ捨てる。
「じゃあ連れの見送りぐらいしねぇとしまらねぇな。」
「仕事しろよ」
「なに、残りの酒を抜くために頑張ってただけだ。酒が抜けたらお疲れ様ってな具合よ」
両手を広げておちゃらけて笑うベガを見てスーシェンも笑って返す。 いよいよ森に入ろうとした所に多数の馬車が雪崩れ込んでくる。
その馬車に掲げられたロウエントの国章を見てベガは馬車を蹴りこかす。 大岩が転がり落ちてきたような衝撃で馬車が転がると中から狼の顔がスーシェン達を威嚇している。
「貴様!!何をしているかわかっているのか!!後方の馬車には狼牙族の長達が乗っておられるのだぞ!!」
「犬っころが蟻の町に何の用だい?こちとらロウエントとは不可侵の約定があるはずなんだがなぁ?」
「この一大事に!!いいから蟻の長に会わせろ!!」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのかベガは少し首を傾げる。
「一応今の長は俺だ。要件を言ってみろ」
その言葉に落ち着きを取り戻した初老の狼牙族の男は衝撃の事実を話す。
「これは申し訳ない蟻人族の長よ…」
「よい、わたしから話す」
「大長……」
交渉に当たった初老の狼牙族を引き止め後続の馬車から降り来るのは腰も曲がり目も閉じかけた大長と呼ばれる老人だった。
「ロウエント・ビーステイルダムの連盟軍が負けた。頼む蟻人族の長よ。力を貸して欲しい」
プライドの塊である狼牙族を纏める長が頭を下げる。 ロウエント建国前に侵略を繰り返し全部族から咎められても一度も謝罪をしなかった狼牙族がだ。
「それはわかるがなんで俺らなんだ?他にもロウエントに加入してない屈強な部属はいるだろ?」
「それは蟻人族こそが亜人で最強だと、皆心の奥底では理解しておるからです…」
「まぁ、確かにそうかも知れん。だが手伝う理由がねぇんだよな!悪いけど帰ってくれ」
「そう言わずに頼む。このままでは国が奪われてしまう。」
大長の言葉に他の狼牙族の長達も集まってくる。 後は女子供ばかりだ。
「ふあぁぁぁぁぁ。」
ベガとの別れの挨拶のタイミングを逃したスーシェンは大きくアクビをしてしまう。
「わりいなスーシェン。こんな事になっちまって」
「いんや構わんよ。俺は行くけどベガ…頼むからこいつらに力貸したりしないでくれよ?俺は友を殺したくない。」
「え?」
スーシェンが手を翳すと誰一人と傷付かずに後続果てしなく続く馬車が木っ端微塵に斬り裂かれる。 別の次元から無数の刃を振り抜かれる感覚に圧倒され、それを見届けた狼牙族とベガの視界はスローモーションのようになり身を硬直させる。
「だって漢だったら喧嘩売られたら買うっしょ?」
「スーシェン……お前はなんなんだ?」
「白虎剛鬼四星、ただの鬼だよ。まぁ、こいつらと適当に大人しくしといてくれよ!旦那には上手く言うからさ。頼むぜ?また美味い酒飲みたいからさ」
「お、おい!!」
「頼むから戦うなよ?頼むからだ。戦うのとただ殺されるのは違うからな。」
何が起きたかわからないベガの目の前からスーシェンが消えた。
そして何を敵にしてしまったのか理解する事すらままならない狼牙族達は腰を落とし項垂れた。
「勝てるはずがない……」
大長の言葉を聞いた者は誰もいなかった。
「ったく、なんだったんだ?あいつは」
蟻人族の長は額をかきながら足元に何時の間にか置かれた酒樽を拾い上げ溜息を吐いた。
「こりゃあちょっと鍛えとかねぇと友としちゃあ情けないな。オラっ!狼共!!別に寝泊まりするぶんにゃ町に入るのはかまわねぇぞ!!嫌な奴はアイツ追いかけて死んでこい」
ベガが親指で差す上空には不可視の刃を足場に蹴り込み豆粒のように小さくなった四星の姿があった。
寝る前ついでに一仕事してやろうかと町の領主的な奴をぶっ殺しに行こうとしたらロウエントの国政に関係の無い町だったのだ。
そして更に至れり尽くせりの高待遇である。
「ほらほらスーシェンさん!肌の色なんて気にしないで楽な格好して!!」
エプロンをかけたオバちゃんは蟻である。 いや、正確には蟻人族なのだが、人寄りの表情の変化が見られる蟻なのである。 蟻の触覚に黒い肌でよくよく見るとわかる複眼。 他は人間と大差ない蟻人族。 初めは嫌な顔で見られたが町一番の力持ちであるこのオバちゃんの息子に腕相撲で勝ってから歓迎されたのだ。
即座に設置予定であった転移プレートを指輪に収納し一晩を明かしたわけなのだが、スーシェンとしてもゆっくりはしていられない。
「オバちゃんありがとう!楽しかったよ」
「なんだいもういっちまうのかい?なんか他の民族はピリピリしてるみたいだからねぇ、気をつけて行くんだよ」
「ありがとう、オバちゃん!こう見えても強いから大丈夫だよ」
「こう見えてもクソもウチの力しか取り柄の無いバカ息子に腕取りで勝っちまうんだから強いのはわかってるよ!!ったく、いつでも帰ってくるんだよ!自分の家だと思っていいから」
たった一日、されど一日。 朝まで力比べをしながら酒を飲み、力にも酒にも勝ったスーシェンの歓迎のされ方は普通じゃなかった。
「良い町だったな。旦那達にも紹介してぇ。」
ばさっとフードをかぶり来た道に向かうと畑仕事をする蟻人族がいた。
オバちゃんの息子であるベガだ。
「なんでい?どっかいくのかい?」
「あぁ、こう見えても忙しい身でな!」
肩と鼻で笑う蟻人のベガは鍬を投げ捨てる。
「じゃあ連れの見送りぐらいしねぇとしまらねぇな。」
「仕事しろよ」
「なに、残りの酒を抜くために頑張ってただけだ。酒が抜けたらお疲れ様ってな具合よ」
両手を広げておちゃらけて笑うベガを見てスーシェンも笑って返す。 いよいよ森に入ろうとした所に多数の馬車が雪崩れ込んでくる。
その馬車に掲げられたロウエントの国章を見てベガは馬車を蹴りこかす。 大岩が転がり落ちてきたような衝撃で馬車が転がると中から狼の顔がスーシェン達を威嚇している。
「貴様!!何をしているかわかっているのか!!後方の馬車には狼牙族の長達が乗っておられるのだぞ!!」
「犬っころが蟻の町に何の用だい?こちとらロウエントとは不可侵の約定があるはずなんだがなぁ?」
「この一大事に!!いいから蟻の長に会わせろ!!」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのかベガは少し首を傾げる。
「一応今の長は俺だ。要件を言ってみろ」
その言葉に落ち着きを取り戻した初老の狼牙族の男は衝撃の事実を話す。
「これは申し訳ない蟻人族の長よ…」
「よい、わたしから話す」
「大長……」
交渉に当たった初老の狼牙族を引き止め後続の馬車から降り来るのは腰も曲がり目も閉じかけた大長と呼ばれる老人だった。
「ロウエント・ビーステイルダムの連盟軍が負けた。頼む蟻人族の長よ。力を貸して欲しい」
プライドの塊である狼牙族を纏める長が頭を下げる。 ロウエント建国前に侵略を繰り返し全部族から咎められても一度も謝罪をしなかった狼牙族がだ。
「それはわかるがなんで俺らなんだ?他にもロウエントに加入してない屈強な部属はいるだろ?」
「それは蟻人族こそが亜人で最強だと、皆心の奥底では理解しておるからです…」
「まぁ、確かにそうかも知れん。だが手伝う理由がねぇんだよな!悪いけど帰ってくれ」
「そう言わずに頼む。このままでは国が奪われてしまう。」
大長の言葉に他の狼牙族の長達も集まってくる。 後は女子供ばかりだ。
「ふあぁぁぁぁぁ。」
ベガとの別れの挨拶のタイミングを逃したスーシェンは大きくアクビをしてしまう。
「わりいなスーシェン。こんな事になっちまって」
「いんや構わんよ。俺は行くけどベガ…頼むからこいつらに力貸したりしないでくれよ?俺は友を殺したくない。」
「え?」
スーシェンが手を翳すと誰一人と傷付かずに後続果てしなく続く馬車が木っ端微塵に斬り裂かれる。 別の次元から無数の刃を振り抜かれる感覚に圧倒され、それを見届けた狼牙族とベガの視界はスローモーションのようになり身を硬直させる。
「だって漢だったら喧嘩売られたら買うっしょ?」
「スーシェン……お前はなんなんだ?」
「白虎剛鬼四星、ただの鬼だよ。まぁ、こいつらと適当に大人しくしといてくれよ!旦那には上手く言うからさ。頼むぜ?また美味い酒飲みたいからさ」
「お、おい!!」
「頼むから戦うなよ?頼むからだ。戦うのとただ殺されるのは違うからな。」
何が起きたかわからないベガの目の前からスーシェンが消えた。
そして何を敵にしてしまったのか理解する事すらままならない狼牙族達は腰を落とし項垂れた。
「勝てるはずがない……」
大長の言葉を聞いた者は誰もいなかった。
「ったく、なんだったんだ?あいつは」
蟻人族の長は額をかきながら足元に何時の間にか置かれた酒樽を拾い上げ溜息を吐いた。
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