10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 ロウエント・ビーステイルダムの本隊は先遣隊の壊滅の報を聞き戦慄を覚えた。
 あれだけの武を持った手練れ相手に全滅し得る力を持っているとは夢にも思っていなかったのが正直な意見だろう。
 圧勝を確信していたロウエントの元首、二足歩行の獅子であるレアウルドは苦虫を噛み潰したように口元を歪め南の空を睨みつける。
「あの腑抜けた姫君が民もろとも消しとばすとはのう」
 報を受け即座にレアウルドの馬車に同乗したビーステイルダム首長国元首獅子の耳と尾を持つライオネルは面白くなさそうに喉の奥から乾いた声を発する。
「へっ、しかし畳み掛けるなら今とも考えられるな。殲滅魔法は明日まで撃てん。そして、頼みの魔物共も今頃海で喰われている頃だ。」
「ラグが上手くやっていればの話しだがな。」
「いや、あいつらは詐術に特化してる。事前に調べたノースウォールへの米の過剰流通も結論は魔物共の食だと聞くからな。そこを上手く突き出鱈目を話してリヴァイアサンに一飲みさせるなんぞあやつからすれば容易いだろう。」
「まぁ、何にせよあいつら蛙共が齎す魔真珠があれば、魔物もろとも消すに容易いとは思うがな。」
 悪い笑みを浮かべる両者は進軍の速度を上げるようにと伝令を送る。
 ここを落とし所と見たのだろう。 圧倒的な機動力と目を塞ぎたくなる程の暴力で先遣隊が食い荒らしたノースウォールの数ある街にとどめを刺し一気に南下する連合軍。
 そして、月ですら眠ろうかと言う深夜に地響きと共にミノタウロスが引く攻城兵器・城穿つ獣の牙が放たれる。
『魔導砲準備!!放て!!!』
 掛け声と共に炎で体を彩る巨大な虎が放たれる。 そして、外壁を吹き飛ばすと第二砲は氷の虎、第三砲は岩の虎と虎の咆哮と共に外壁をなぎ倒していく。
 これは魔真珠に付与された魔法式に獣の魂を刷り込んで造られた砲弾である。 犠牲となった獣の魂が魔術式を飲み込み一度限りその姿を武威と変え顕現する魔導具だ。
 この開発と共に乱獲された白牙虎が氷や炎に姿を変え外壁を突き破る。 その悲痛なる獣の叫びにアウリファナンティ神域の獣は共鳴するように啼いた。
「くそっ!!外壁が多すぎるぞ!!四枚目まで届いても潰すには中に持っていかねぇと!!」
「ならば敵兵を駆逐し、運ぶまでだ!!!」
 ミノタウロスが砲弾を掻い潜り地を揺らし戦斧を掲げ、リザードマンと共に先陣を切る。
 だが……第三壁までの街の中に無数の篝火はあるが人は何処にもいなかった。
「くそっ!!罠だ!!一度下げるぞ!!攻城兵器を撃ち込みまくるぞ!!」
 直後。
 前線で異変に気付いたミノタウロスの目前第四壁が爆ぜる。
「まんまとやってきたか獣風情が!!この雷帝が遊んでやろう!!」
 全身に雷を纏う黄金鎧のカムクラが邪悪な笑みを浮かべ、槍を地面に叩きつけると目前にせまるミノタウロスが塵となった。
 だがほんの一部だ。 カムクラの一撃が皮切りに固定砲台として殲滅屋が魔法を撃ち込んで行く。
『狐火の輪舞』『破壊の豪雨』『神虎爆雷』
 一面を埋め尽くす属性効率一切無視の暴力にミノタウロスが叩きつけられる。
 だが、ミノタウロスは赤黒い闘気を纏い命を繋げる。
「そんな!!殲滅魔法が効かないの!?」
「違う!!あれは狂化だ!!命を燃やして力を手に入れてるんだ!殲滅屋は下がれ!!盾職前に出てくれ!!」
 目を赤く染め赤黒い闘気を纏ったミノタウロスは五千の数を利用し一気に第四壁に流れ込む。 そして二万のリザードマンもそれに紛れ第四壁に雪崩れ込み乱戦に発展する。
 ロウエント・ビーステイルダム側には40万の本陣が不動のままに旗を掲げてる。 カムクラはそれを目を細めて睨みつける。
「何故第四壁をこちらから破ったんだ!!こうなる事は分かっていたのではないか??」
 ノースウォール側の悲痛な叫びと共に侵攻するミノタウロスの大群は、戦斧を振り回しノースウォール兵を潰して行く。
 だが直後に一条の光と共にミノタウロスの大半が挽肉に変わった。
「こういう事だよノースウォールの諸君。」
 グリムシリーズ牛殺し。
 端的に言えば、セナルアックスが使用していた巨大化する槍だ。
 元ヨルムンガルド王国ヒヨドリ領領主バラック・ゼル・ヒヨドリが持つ家宝だ。
「取りこぼしはくれてやる!!雷槍!今こそ前に出ようぞ!!」
 とても貴族とは思えぬ蛮族衣装を身に纏う初老の男は歪な五叉の槍を掲げカムクラに吠える。
「当然だ。」
 事実上ノースウォールとヨルムンガルド亡命側の間に存在した機微なるわだかまりが消えた瞬間であった。
 雷を球体にし無数に浮かべたカムクラはそれをリザードマンの群れに叩きつけ第三区画まで跳ね返す。
「トカゲ風情に遅れをとるなよ?ノースウォールの戦士達よぉー!!」
 士気が爆発するノースウォール側の兵団は第五壁から応援も送られ2万のリザードマンに対し10万の軍勢でこれにあたる。
 だが、不気味にも獣人達は動かない。
「何か企んでやがるな…獣共が」
 カムクラは挑発程度に雷撃を放り込むが、雷撃は何かに阻まれ吸収されてしまった。
「ちっ、こりゃまずいな」

 静観を決め込む亜獣人連盟の中で談笑が行われていた。
 その中でも、この不気味な余裕を持たせる原因となった黒い集団は戦場に似つかわしくない小さな子供達であった。
「あーあ、あんな殺して大丈夫かね?」
「まぁ、どっちみち死ぬのは変わらないからいいんじゃ無いかな。」
「おぉ、いい感じの雷撃も来ましたよ?」
「魔転の死霊術疲れるから嫌いなんだよねぇ。」
 黒いローブに身を包む小さな少年少女は一様にぬめりのある肌に黄色と茶色の模様がある。 亜人種の中でも忌み嫌われ山奥で暮らす蛞蝓ナメクジ人だ。 呪術に特化しており、一族相伝の摩訶不思議な術式を持つ事で知られている蛞蝓人は亜人種でありながらも亜人獣人どちらにもつかない存在であった。
 だが、此度の同盟の報を受けた後に両国間に存在する不可侵の森ハイラズノモリから姿を現した。
 人魚の真珠を集め、魔法の使えぬ亜人獣人の弱点を補う為に力を与え、知恵も授けた。 そして大陸に覇を唱えるに至った禁断の術式が魂遊術と呼ばれる文字通り魂で遊ぶ術である。
 死霊術師ネクロマンサーが死者の魂を死体に留める術と簡単に説明すると、魂遊術は魂を自在に使用する術だ。
「いいか蛞蝓人スラグア共?そろそろ人間共に見せつけてくれ。お前達の力を!!」
「へいへーい。みんないくよー」
『あんがたどこさ、死後さ、死後何処さ、イマココさ、イマココ何処さ、地獄さ』
 歌の最中に肉片が蠢き、声にならぬ気色の悪い呻き声をあげはじめる。
『地獄谷には人間おってさ、それを戦士が焼き殺してさ、斬ってさ、喰ってさ、食い殺してさ、其れの血浴びて我が身を滅ぼせ』
 ミノタウロス・ケンタウロス・ケライア・リザードマン・狼人族・狼牙族が無念を晴らさんと黒き炎の身体に姿を変え雷を纏い降臨する。
 地に冥界の雷雲が降りたかのよう錯覚するおぞましい絵だ。
「いまこそ我らの武を示さん!!!」
「行くぞ!!ノースウォールを人間の血で染め上げてくれる!!」
 亜人獣人の本陣の突撃が開始された。







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