10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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「どけろ俺が行く!!えぇっとこうやってこう!!!!」
 大剣の形状を大鎌に変えイーシェンが魔物の蠢く中に突っ込んで行く。 大鎌の柄を両の手で引き込みながら体を回し貫き引き裂き砕いていくリャンシェン に舌打ちをするスーシェン。
「旦那ぁ!!突っ込みすぎでっさ!!」
 三日月型の双剣の一本を魔物の群れに投げ入れ魔力を込めると磁力で引き寄せられ 魔物を切り裂きながら手元に帰ってくる。
「撃ちます!!!下がって!!」
 石弓の部族ウーシェンが黒い殺意の矢を穿つと後に残るのは残骸のみであった。
「はぁ、はぁ、強くはないけど数が多すぎるなっ、オラッ!!」
「こいつらはほら、なんだったっけか?五の字!」
「ウーシェンと呼んで下さい、これらはブリンガーですね。魔晶石が長年魔素を取 り込んで産まれたゴーレムです」
 切り裂き穿ちを繰り返す三匹は口には出さないが、かなり窮地を迎えていた。 前衛で突っ込むイーシェンはそれなりに外傷を、中距離のスーシェンは魔力切れ、 そして殺意を力に変えるウーシェンは撃ち終えた後にくるクールタイムで思考が落 ち着きすぎている為に再度燃焼するまで時間がかかる。
「死んでも諦めてやるものかぁ!!!」
 大鎌の柄を叩き地面に叩きつけ大太刀の形状にしたそれを構え敵が蠢く中に単身で 突っ込むイーシェン。
「旦那ぁ!!それはっ!くそっ!!」
 援護しようと双剣を構えたスーシェンも突っ込んで行く。 矢を穿つ事の出来ないウーシェンは自身の手に持つ弓を見つめると意を決して中に 飛び込み弓で敵を叩き潰し始めた。
「五の字!!それは無理しすぎた!!」
「どのみちここをどうにかせねば帰る事はできませぬ!!!」

 一本岩の迷宮の迷宮核を取り外して以来、リャンシェンの言うような深淵の管理者 は現れず、何時間もの間、とめどなく湧き出るブリンガー達を狩り続けている。 それはまるで死へのカウントダウン。 だが、諦めまいと戦い続けるその様は歴戦の雄姿を物語っていた。
 イーシェンは無我夢中に敵を斬り殺して行く中で小さな声が聞こえた。
『お主の求む強さは……それしきでは与えられん』
 だがイーシェンは声に耳を傾ける事は無く無音の中で視界に映る敵を斬り殺し続け る。
 その声はウーシェンにも聞こえ始める。
「五の字、背中を合わせろ!!」
「了解!撃ちます!!!!」
 御託よりも手数手数で切り結びながら腕に痺れを感じ始めるとその声は聞こえ始め る。
『そこの双剣、お前は何を求める?』
「とりあえず一発でこいつら殺せるようにしてくんない?」
 スーシェンは無音の世界の中で剣を振り声の主に言葉で願う。
『それだけでよいのか?』
「とりあえずって言ったよねぇ?つんぼなのかなぁ?オラッ!」
 するとスーシェンは暗闇の中に一人で佇んでいた。
「え?」
『我は深淵アビスの管理者、お主の心を覗かせてもらおう』
 突如生まれて落ちてこれまでの生が走馬灯のように流れ出す。 そして都度願った己の強さに対する心の欠片を一つずつ一つずつ奪われて行くのを 感じた。
 そして、己が刻んだ強さを具現化した化物が現れる。
『弱きを知り強きを知れ、白虎剛鬼よ』
 金剛たる赤黒い隆々とした肉体に怒髪天を衝くうねり逆立つ白髪の鬼がスーシェン の右肩を殴り飛ばすと、虫の羽をもぐようにいとも容易く右肩が消し飛ぶ。
「あがががが!!」
 しかし、鬼はもう一度拳を強く握り腰を落とした。
「殺されるぐらいなら殺してやるよお前ぇ!!!」
 白目を向き、戦鬼と化したスーシェンは左腕一本で化物に食らいついた。
 一方その頃、ウーシェンも限界を越え無の境地へ辿り着くと、深淵の管理者の声を 聞いていた。
『ほう、賢き鬼よ。お主は何を求める?』
「見ていただけばおわかりになるかと」
『ふん、訪れる死を恐れぬか』
 スーシェン同様心を覗かれたウーシェンの目前には青き筋骨隆々の肉体にはち切れ んばかりの剛腕を六本生やした鬼が立っていた。
『貪欲な者よの、青面金剛よ』
 六本腕の青き鬼は何処からともなく取り出した三つの強弓を穿つとウーシェンの四 肢を容易く挽肉に変える。
「うがぁぁぉぉぁ!!なれば…なれば諸共朽ち果ててくれよう!!ただでは死な ぬ」
 胴と頭だけを残したウーシェンは空間を殺意で埋め尽くし己の弓を暴走させる。
 そして、ただ声を無視し続け深く深く強さへの執着をし続けたイーシェンは強制的 に黒い空間に送られる。
『本質を見抜いたか?小鬼の王よ』
「いいから俺を呼べよ」
 イーシェンは願った。 誰よりも強く、全てを握り潰せる程の力を。 己が超越者となり、全ての鬼の頂天へ立つ者を願うと。
 イーシェンは周りの景色が巡り巡り変わって行き果てに辿り着いた先に目当てを見 つけた。
「よう、大王さん。死んでくれね?」
 全ての鬼の王はイーシェンを見て笑った。
「はっはっは!深淵の爺が来たのはそう言う事か!ウチの部下何体も持って行きや がったと思ったら最後は俺か!!ははは!!」
 イーシェンは本質を理解していた、深淵の管理者は願う力への心を顕現した器を用 意する者だと。 そしてイーシェンは願い続けた。 全ての鬼の王になるべく絶対的な力を。 そして閻魔となる事を。
「まぁ、良いだろう。跡取りも要る事だ。傷一つつける事が出来たら腕をやろう。 それでお前は浮世を生きる閻魔となろう。」
「ふぅ、ふぅ、殺す殺す殺す殺すグァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 無我の境地に辿り着いた三体の鬼は無意識の中でブリンガーを斬り刻んでいた。
 そして、その身を朽ちようともやめぬ殺戮が次第に色褪せて行く。
 よもや命枯れ果てようかと満身創痍の体を無意識下で動かす三体の小鬼は腕を失い 腹を裂かれ微睡みに消えて行こうとしていた。
 だが、徐々に徐々にスーシェンとリャンシェンの姿が変化して行き無限に湧き出る ブリンガーを次々に壊滅して行く。
 怒髪天を衝く如くうねり逆立つ白髪の鬼は双剣の曲刀を一薙ぎするとブリンガーが 塵となる。
 六本腕の剛腕を持つ青い鬼はあり溢れる殺意を持って無数に浮かぶ黒い矢でブリン ガーを無に帰していく。
 黒い部屋の中では各々が戦いを終えようとしていた。
 白虎剛鬼と呼ばれた白髪の鬼はスーシェンの決死の斬撃を体で受け止める。
「よくぞ、殺してくれた。我の力を手にする者よ、共にあろう」
 自分の声で話す圧倒的なまでの鬼が自分自身だったのだと斬り裂いた胸の痛みで理 解するまで時間はかからなかった。
 一方ウーシェンはその身を滅ぼしてもなお六本腕の剛腕の鬼を殺そうと放った矢を 全身に受け高笑いをしていた。
「よい、気心であった。武人に相応しい!!浮世で共にあろうか」
 そして互いの魂、肉体を融合する。
 そして……。
 唯一深淵をくぐり三千世界の中から自ら地獄に辿り着き、閻魔と相対していたイー シェンは幾度と無く身を塵と変えても幾度と無くその体を取り戻し閻魔大王を斬り つけていた。
「地獄での術を身に付けた浮世の小鬼か!面白い!面白いなお前は!!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
 ただ、殺意のみだけで存在し続けるイーシェンは閻魔の身体に幾度と斬りつけ巨体 は血塗れになっていた。
「よい、よいぞ、我が腕をくれてやる。共にあろうぞ」
「なめるなよ?鬼の分際で」
 閻魔の血を啜りなおも力をつけていくイーシェンは閻魔自ら切り落とした右腕に更 に剣を突き立て果ては肩口から斬り落とす。
「はははは!!まるで全てを貪る餓鬼の如き力への執着、見事!!だが、それぐらいにしておけ…浮世はお前が思っているよりずっと脆いぞ?」
 自身の左腕一本とイーシェンを共に握り潰したと同時に三体の鬼は深淵の管理者の声を聞いた。
『閻魔よ、お主は狂戦士バーサーカーであれば更に高みへ昇る。』
『白虎剛鬼よ、お主は剣豪であれば更に高みへ昇る。』
『青面金剛よ、お主は破壊者であれば更に高みへ昇る。』
『よくぞ深淵を抜けた。三千世界に散らばる宝のほんの一部をお主らに与える…覇道の糧とするが良い』

 その言葉を聞き終えると突き刺さる太陽の光に三者は目を細めた。
 島自体が全て赤い魔晶石に変わり溢れる財宝を身に纏い姿を大きく変えた三者は横 目で見て高笑いを始める。
「はっは!!ウーシェンか?お前でっかくなったな!!うわスーシェン強そー!! いやー、帰ってこれたかぁ!!」
 だがスーシェンとウーシェンはイーシェンの姿にこそ驚きを隠せなかった。
 赤い体に全身に焼きついた黒い地獄の炎。 それを隠すように身に纏う地獄絵図を染め写した紅い着物。 美しく整った顔に血のような赤い瞳、口元に生える犬歯。 漆黒の髪を背まで伸ばし、その中に伸びる二本の牛角。
「閻魔ちゃんでっす!」
 圧倒的なまでの高みへ到達したイーシェンを見て、スーシェンとウーシェンは苦笑 いを浮かべた。
「さっ、お宝回収して帰りますかって無い?え?」
「ご、ごほん。それに関しては俺が回収した」
「あぁるじぃ!!!来てくれてたんだぁ!!けどお宝返してよ!頼むよある じぃ!」
「何に使うんだよ!!お前はつかわねーだろーが!!」
「家でながめてたいじゃんかぁー!!」
 10日にも及ぶ迷宮踏破をリャンシェンと共に待ち続けたリブラは三者の顔を見て深 く安心した事を知るのはリャンシェンのみであった。




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