10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

37

 時田さん達が工房で第二機の製造に取り掛かる頃、静かな海辺に爆音が響いていた。
 天才……と言えばアホっぽく聞こえるかも知れないが、ちゃらおの飛行センスはまさにそれだった。 零式艦上戦闘機のライセンスを時田さんから一早くもらった唯一のパイロット。 如何なる場面に遭遇しても安心して見ていられるのではないだろうか。
 早速着陸したちゃらおが何やら首を傾げている。
「うーん、なんか伸びが悪い気がするっすねぇー」
「故障か?」
「あぁ!リブラさん!ちーす!いやぁ、なんか伸びが悪いんすよねぇ330kmから350kmの間がこう回転が悪いっちゅーか?いや、ちょっと教官とこ行ってきまーす」
「おっ、おお。」
 全く何が言いたいのかわからんしウザい。 もし、あいつが凄腕のパイロットじゃなかったら殴り倒していただろう。 そんな事を一人考えながら悶々としていたら戦支度をしたリャンシェン以下150の戦士達がぞろぞろと俺の前に集まり始めた。
 なんだろう。下克上? え?まさか。勝てると思ってる?なぁんて。 突如リャンシェンが膝をつき頭を垂れる。
「え?っと?どしたの?」
「暫く集落を離れる許可を頂きたいのです」
「えっ?なんで?なんかあった?」
「いえ、前回の不甲斐ない戦いで我等は、多くの戦士を失いました。それにより、更なる高みを目指す為に、この槍を手に森を進みたく。」
 あぁ…でも仕方ないよね? 槍と大砲だよ?リャンシェンは悪くないと思うけど…。 でも実際、このまま空軍が完成したら、それこそ肩身がせまくなるか…。 そんな事考えなくてもいいのに。
「わかった。リャンシェンは俺達に必要なゴブリンだ。無事で帰る約束が出来るなら…行ってこい。」
「ありがたき、ありがたきお言葉」
「あと、これ。アイテムボックス持っていけ。便利だから、絶対返しにこいよ?」
 深く頷くリャンシェンに少しため息が漏れる。 お前に懐いてるコムギはどうするんだ? つっても適当にはぐらかすんだろうな。 まぁ、大食らいのジェネラルとリャンシェン達がこぞって離れるなら今のウチに食料の備蓄をするのもいいだろう。 ウチの小娘達も必死になってる事だし。 イーシェンやカルマと共に石弓の部族を引き連れ海賊船を利用した地引き網漁はまさに大漁続きだ。 レッドシャークの他にジャイアントクラブと言うデカイ蟹がとれるのだ。 最初はどうせ大味だろうとおもったが、これが中々どうして抜群に美味い。 最近の俺の食事は溢れる蟹味噌に蟹身をぶっ込んでかき混ぜたアッツアツの蟹身味噌を丼鉢にご飯を入れてぶち込んでてんこ盛りにした蟹身味噌丼を掻き込むのが主流だ。
 しかも、一匹で畳六畳ぐらいのデカさがあるもんだから食料事情がみるみる改善されていく。
 おっ、カルマ達の船が帰ってきた。 俺の仕事の時間だ。
 カルマが網を持って全力で引き上げるとそれに伴い空に蟹が舞う。
「しゅくーん!!お願いいたします!!」
 ここで大切なのは傷つけず確実に〆て行く事だ。 目と目の間にあるジャイアントクラブの急所に短剣を突き立てるとそれを足場に次のジャイアントクラブへと渡り歩く。 そしてゲートで転移してキャッチして行く。
「おっ、ほっ、よっ、おっと、そりゃっ、よいしょ、せりゃっ、あぶなっ、うぃーーー!!!」
 これで完了である。 イーシェンは着実に引き上げ一体一体〆て運び出す。
「主っ!今日はこんなんもかかりましたよ」
「うおぉぉ!!幻の爆弾クエ!!今日はクエ鍋だな!!」
「お、俺は刺身で食いたい!!!」
「いいねいいねぇ!!」
 その時、ズドンと軽い地響きがした。
 まさに平和の真っ只中に飛竜が突然浜辺に舞い降りたのだ。 茶色い鱗のワイバーンでは無く、郵便や運送用の人に飼いならされた灰色のワイバーンだ。
 そのワイバーンの上に白旗を持った人が乗っていた。
 銀色の輝く髪に、青い宝石のような瞳。 豪華絢爛なドレスの上に白地に金の刺繍を施した大きめのローブ。
「お初にお目にかかります」
 ごっつい美人やぁぁ!!!!
「えぇっと、あー、はい。えーっと如何なご用件で?」
「申し遅れました、わたくしノースウォール神聖国が姫巫女、シェルル・フォン・ノースウォールでございます。この度は使者として自ら参らせて頂いた所存です」
 え?えぇぇぇぇ??? ノースウォールってもしかして母ちゃんの身内ぃぃぃ???


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