10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

「えぇっと、昨日はバグジーさんの手伝いで薪割りしたからーっと」
 母リリスが作った簡易のアルバイトシフト的な修行日程に目を通す。 先日はスキンヘッドの料理人バグジーさんの手伝いで薪割りをしたので、今日はチャリクス爺の素材集めだ。 薪割りと言っても何トン?と言う規模である。 魔力操作でバターみたいに切れるからいいけど傍から見ればただの嫌がらせだ。 まぁ、気持ちを切り替えよう。5歳の誕生日にもらった装備一式を身に纏い足早に家を出る。 まず五歳の俺に装備一式を渡すあの人達の感覚にはついていけない所はあるけど幼児からの英才教育の賜物でなんとかやって行けてる。
「おはよーん!!」
 勢いよくチャリクス爺の家のドアを開けると爺さんはニコッと笑い首飾りを手に取る。
「フォッフォ、相も変わらずめんこいのう。さて、今日はちと難易度が上がるん じゃがのう、フォッフォ」
 そっと優しい手つきで首飾りを俺につける。
「これなに?」
「フォッフォ、なぁに御守りじゃよフォッフォ」
 優しく俺の頭を撫でるとニコッと笑う爺。
「今日持って来て貰いたいのはミスリルじゃ。いけるかの?」
「うん!ミスリルハンド、ミスリルゴーレム、ミスリルバードとかだよね?魔法銀の塔だったっけ?」
 ジェルスさんと一緒に行った事がある遺跡だが、おそらく問題は無いだろう。
「いんや、魔法銀の塔は初めから強いのが多い、極悪な罠も多いしのう。フォッフォ、そうじゃのう…ふむ、絡繰迷宮にしておけ、じゃが……3階層から下は急に強くなるから行くなよ?」
 過保護ですねぇ。 いや、五歳で魔物討伐させるのは過保護じゃないにしろ、やっぱり何処か心配している感は否めない。 嬉しい限りではあるのだが。 まぁ、まどろっこしい考えはやめてサクッといきますかぁ。
『ゲート』
 黒く歪んだ空間に飛び込む。 赤ちゃんの時から親父に養殖であちこちに連れ回されてるせいで、この広大な無人島に俺の行けない場所はほぼ無いと言ってもいいだろう。 この空間転移魔法『ゲート』は一度行った所ならばテレポート出来る二番煎じも裸足で逃げ出すテンプレ魔法だ。 めんどくさいのは媒介で爺が作った指輪が必要だって事ぐらいで、便利な魔法だ。 モチロン時間はかかるけど媒介無しの方法もあるにはある。 けどめんどくさいからジジイの指輪は最高だ。
「じゃ、いってくる!!」
「ふむ、気をつけるんじゃぞ」
 ってなワケで小さな祠の前に着いたワケですが、まずは深呼吸。 絡繰迷宮は足場が何せ悪い。 大小の歯車が地盤になってて挟まったらまず助からない。 だから気合いを入れる為にも深呼吸。 そして意識を覚醒させ頬を一発バシッと叩く。
「さて、行きますか」
 ライオンはウサギ一匹でも本気でぶち殺す。 百獣の王に感覚が似てるのか父親はどんな時でも戦いに入る前に気合いを入れて自分自身を覚醒させる。 やはり見習うべき所であるし、無論かっこいいダディだ。 験担ぎにこれは真似している。
 まぁ、余談になるかも知れないのだが、父親が最強たる所以は勿論気合だけでははない。 圧倒的なアドバンテージを持てるのは、あの六芒星ヘキサグラムの魔眼が大きく関係する。 開眼と同時に、ステータス閲覧、弱点察知、危険予測の三種の視眼。討伐と同時に力の吸収、魔素の吸収、技の吸収を行う喰眼。 所謂レベルアップのような概念を如実にする力だ。 一般にも喰眼の下位の下位程度の吸収は行われるが本能的に拒絶してしまう為効率が非常に悪いのだが、その話しはいつか別の機会に。 当然父親はこの力が俺に宿っているか試す為に至近距離での開眼と接触を繰り返し施し、一種の魔力暴走と魔力欠乏を交互に行い、無理やりに焼き付けようとしたのだが…。 俺は更に上位の九芒星エニアグラムの魔眼を開眼させる事に成功した。 父親の6種の性質にプラス、固有時間制御、思考加速、魔素構築数値化の三種。 この三つについては分からないふりをしているのだが、あの人達の凄まじい観察眼のせいで何かしらの技には気付いているだろうと予測する。
 簡単に言うと、討伐に、いや、戦闘に関してはベリーイージーの力を持って新しい生はスタートしたワケだが。 正直、九芒星エニアグラムはあまり使いたくない。 これに慣れてしまうと自分は父親達のように強くなれないんじゃないかと思ってしまうからだ。 いや、そんな甘えがもしバレるとしばき回されるんじゃないかって方が大きいんだけども。
 それに俺はこの島のみんなに勝てるようになりたい。 一人前と皆が認めてくれれば大陸に行っていいと言われているからだ。 だから何年かけてでも俺は強くならなければならない。 まだ見ぬケモミミ幼女にイタズラする為にも……ごほん、今のは忘れてくれ。

 迷宮に入ると中は静けさに満ち溢れていた。 歯車をぴょんぴょんと跳ねながら進んで行くとさっそくミスリルゴーレムが現れる。 赤い宝石の双眼に虹色まじりの光沢のある銀の体を持ちゆっくりと歩くその姿は敵対していなければ見惚れる程に美しい。 胸元に妖しく光る大きな魔石が俺も止めてみろと語りかけてくるような錯覚すら覚える。
 だが、見惚れてるわけにもいかない。何度も来た事はあるが、いかなる時でも気を抜くのはよくない。まずは小手調べに爺さんから貰った短剣で先手を取る。
「恥ずかしいけど…ねっと」
 短剣に魔力を込めると俺の体のサイズに合わせた短剣の中央にあしらった魔晶石の中でマナがぶつかりあい擬似的な魔力暴走を起こす。
『我が意に従い敵を穿て』
 魔力と声に反応し短剣が変幻自在に姿を変え、まるで銀色の蛇のようにミスリルゴーレムに襲いかかる。

 夢想……錬金術の付与式で極地と言われる領域。それはまさに神をも凌駕するとも言われている付与式だ。なにせ付与時に術者が夢想する付与効果に必要とする対価を支払う事でこの世界の理が術式を作製してくれるのだから。 チャリクス爺が鍛冶師ドワーフのグリムさんと試行錯誤を繰り返し完成した短剣は神話級と呼ばれても遜色は無い仕上がりとなった。質量にして200kgを越す特殊魔法合金・金剛魔銀グリムチャリクスを短剣の大きさにまで圧縮し、持ち手の魔力に反応し持ち手が感じる自重を限りなく0にする、そして付与式の夢想で持ち手の意思に忠実なる生きた金属となったのだ。 鳥の羽一枚程の重さで振り回せる変幻自在の短剣、勿論、持ち手以外には200kgの重みと自身の膂力、そして魔法効果が追加される極悪武器だ。まず、グリムチャリクスと呼ばれる合金自体が問題だ。 オリハルコンとミスリルと言う両極端な素材を混ぜ合わせる事は不可能とされていたし、常識の範疇を超えているのだが、それを可能にしてしまったのだ。そこはこの島のクオリティなのだろう。 そんなの当たり前だと、この頃は思っていた。
 話しは目前に戻るが、自重200kgの切っ先が、魔法操作により瞬く間に直撃すると……。
 次の瞬間にはミスリルゴーレム胸部に怪しく輝いていた魔石ごとポッカリと風穴を開け動きを停止させる…。
 だが。
「ここまではいつも通りだよ、なっと!でも、やっぱりか」
 目前のミスリルゴーレムの活動停止と共に八方からミスリルゴーレムが降ってくる。 これはミスリルゴーレムの特殊性で停止した仲間を吸収しようと引っ切り無しに現れるのだ。 通常では即死決定事項とされるモンスターレイン、トレインでは無く文字通りレインだ。 それも相手はミスリルゴーレムの巨体。 絶体絶命ではあるが、島のみんなのスパルタ教育で育った俺は宝の山が降り注ぐ感覚に胸を踊らせてしまう。 他の装備を何一つ使うまでも無く降り注ぐミスリルゴーレムの核を壊さないようにくり抜き足元に集め、停止した個体を左手の腕輪に『収納』して行く。
 所謂アイテムボックスだ。 マミさんとチャリクス爺の合同作で、通常は空間魔法や異次元の付与で作るらしいが、俺のアイテムボックス、フェアリーランドは精霊王が作り出した俺の為だけの異世界が腕輪の中に広がっている。中の世界の妖精達に許可を出せば剥ぎ取りは勿論の事、ドロップ品に変換してくれるし、許可しなければ取り出し易いようにソート機能を元に整理してくれる。 ここで魔石を割ればワラワラとゴーレム達がまた集まってくるのだが、次のお手伝いもあるので今日はここまでだ。
 村に戻るとチャリクス爺が庭先でマンドラゴラに水をやっている。
「ギゲッアヴッイグッ」
「気持ち悪い大根め。フォッフォッ」
 何をしているんだ?このジジイは。
「ただーいまっ」
 ジジイはピクッと体を揺らすとゆっくりと振り返りニコッと笑いかけてくる。
「早かったのう、リブラ。どれぐらい倒した?」
「うーん?ミスリルゴーレム40ぐらいかな?でもこの後スネイプ先生にも呼ばれてるからこれで許して欲しいんだ」
 優しい笑顔は更に優しくなり高笑いを浮かべる。
「フォッフォ、一体で十分じゃよ、ほんに規格外な子供じゃ、まぁ余った素材はいつも通り妖精共にやるかグリムに持って行ってやれ」
「わかった!!じゃ、なんかちょーだい!!」
 これはいつものおねだりだ。 俺は爺の手伝いをした後にいつも何かをねだる。 なにせこんな環境で育った俺だ。 ゲームは勿論の事、トランプすら無い。 でも爺の発明品は中々に面白い物が多い。
「ふむ。そうじゃのう…ちょっとまっておれ」
 ヒゲを撫でながら家に入っていくチャリクス爺さんは暫くするとゆっくりと戻ってくる。
「これなんかどうじゃね?」
 ポンポンとホコリをはらうと差し出して来たのは一冊の青い宝石のついた青い本だ。
「これは何?」
「ふむ、それは錬金術の中にある魔法構築学と言うもんがあってのその最上…いやこれはええのう、まぁ簡単に言えば無属性魔法を創作出来る書じゃ。まぁ、儂以外に使えるもんはおらんがの」
 これはすごいもんを貰った。 爺しか使えない魔道具は100%俺は使える。 それは今までで実践してきた。 理由はわからないけど、九芒星のせいで有り余り溢れる魔力を吸収し続けてる俺は爺の魔力総量をゆうに超えているからだと憶測はしている、実に単純明解だ。 素面で駄目な時は九芒星の構築数値化の応用で、どれだけの魔力を注げばいいか、魔力の流入速度を見極め、発動時の細かな設定等は九芒星の構築数値化が0.01%刻みで簡素化してくれる。 簡単な話しインストールしてくれるってわけだ。 そして一回使えば次からは素面で使える、だから爺の倉庫のゴミは俺にとっては宝の山なのだ。 これはかなりいい物を貰えたようだ。
「ありがとう!!」
「ふむ、まことによい礼儀である。」
「じゃあスネイプ先生のとこ行ってくる!みんなには内緒ね!!」
 本を抱えて俺は走り出す。 村で共に暮らすみんなもすごい人ばかりで飽きないのだが、俺が先生と呼ぶ4人?と師匠と呼ぶ1人?は相当に濃く飽きない。その濃さは何故共に村で暮らしていないのかも納得出来る程に濃い。 バグジーさんとは別の濃いさだ。

「スネイプ先生!今つきました!!!」
「また来やがったかこのクソガキがぁぁぁあ!!!」
 紫髪赤眼で爆乳の召喚術師スネイプ先生は入浴中だったようです。 どうやらこの先の人生の雲行きが怪しいです。 ちょっと乳首見えたっすね。 視線ばれてますね、怒られますね。

 だが一言。

 誠に眼福である。


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