平和の双翼

羽瀬川 こなん

1話

19XX年 4月  昼



晴天の空。
それは素晴らしく晴れ渡っていた。
戦争日和だとでも言っておこうか。
そう、本日は戦争日和なのだ。


「衛生兵はいるか!」
「ブレイク!ブレイク!」
「散開しろ!頭を抑えられるな!」
「持ちこたえられない!離脱許可はまだなのか!?」


右に見えますのは敵砲兵隊。
左に見えますのは地を這い逃げ惑う歩兵。
なんと賑やかなパレードなのだろうか!
昨夜夕食を共にした戦友がこうなってしまうのだから、コミュニケーションを取りたくないと感じてしまうのは無理もない。
かくいう私は、航空魔導師である。
上空で敵と鬼ごっこをかます。
これがまた捕まってしまうと殺されるという罰ゲーム付きなので見事に面白くないのだ。


無線から聞こえる小隊長の指示を聞きつつ銃剣のトリガーを引く。
ついでに言わせてもらうのであれば、私は待ちわびている。
死の宣告、あるいは天使の歌声。
小隊長は先程から増援を要請している。
しかしながら大抵こういう場合は状況は悪い方へ転ぶのだ。
経験則から言わせてもらう。
増援は来ない。
よって私たちの目的は勝利ではなく、相手の物資を減らす。
あわよくば敵兵を減らす。


誠に不幸ながら、彼我の戦力差は泣く子も黙るほどだ。
その子が戦争の無慈悲さを知っていればの話だが。



「一機撃墜!」
「よくやった!持ちこたえろ!神は我らと共に!」


合言葉のようにその字面を並べて欲しくないものだ。
地雷だぞ。


「ぐぁっ!!」
「死ねェ!!!!」
「感情的になるな!ライマン!」
「がハッ」


味方が潰れる声はいつ聞いても気持ちよくない。
そして私も、今この瞬間、
死ぬのだな、と改めて自覚した瞬間は気持ちのいいものではないと思う。


「帝国の犬め、せいぜいあの世で"鳴いてろ"」


目を閉じかけたその瞬間____


「どけッッ!!!」


私に向かって何かがぶつかり、おはじきのコマのように弾け飛んだ。
弾き飛ばされた場所には威力増加魔法を加えられた無数の銃弾が放たれる。


「な......!!」


黒煙の中から現れるは我が国の希望と謳われる人物の1人、ルンヘック・エーベルヴァイン少佐だった。


魔導師のシルトは敵の攻撃を多少ガードできる魔導師ならではの防御魔法だ。
しかし、威力増加魔法をかけられた無数の銃弾を受け止められるはずがない。
現実的には有り得ないのだ。
例えるなら、1枚の薄い紙に鋭い刃物が無数も向かっていくのだぞ。
ただ、これは私が訓練兵のときに聞いた話だが、シルトの強度は本人の精神力と魔力量によるらしい。
やはり、その年齢で少佐を務めるということは、そういうことなのだろうな。


「貫通術式展開。空間座標確認。追尾モードを開始する。」


淡々と術を編んでいくその様は、まさに____


「"泣き喚く"のはお前らの方だ。悪いな、痛いぞ。」


____冷酷に獲物を狩る鷹


「がァっ!!」
「中隊長ー!!!!」
「メーデー!メーデー!あぁクソ!電波障害かよッ!」 
「聞いてないぞ、ヤツがいるなんて!!」
「増援だろ!アレを殺れば昇進間違いなしだ!!!突っ込め!!!」


一騎当千という熟語を知っているだろうか。
それはまさに彼のことで。


「はァァ!!!!」
「...士官候補生時代に習わなかったか?」


一蹴りで敵の銃剣をなぎ払ったのだ。


「ぐッ!」
「考えも無しに突っ込むな、と」


一気に敵の間合いに入り、銃口を敵の胸に当てる。


「零距離射撃だ。友軍に告ぐ、火花が散るぞ。さぁ、地獄への道を作ってやらァ。」


「クソっ!」


若いものの考えることはよく分からない。
やってみたい精神だろうか?
零距離であの火力であの術式はまずいだろう。
私は急いでシルトを展開させた。


「ケホッケホッ」


しかし魔力が尽きていた私のシルトは硬くなく、被弾した場所から煙が入り込む。
墜落していく敵機。
私を取り囲んだ中隊規模の敵軍は、全員海へ真っ逆さまだ。


「ふむ。1人足りない。」


海に落ちていく敵を数えて少佐は言う。


「零距離射撃なのですから、跡形もなく塵になったのでは?」
「...間違いない」


ケラケラ笑う少佐は、やはりまだ幼げがある。


「増援、か」


後方を見ると、エーベルヴァイン少佐率いる大隊の魔導師と思しき軍人が見受けられる。


「遅くなってすまなかったな」
「いえ、救われました」
「そんなことだからいつまでも昇進できないんだろうが」
「すみません」


なぜ私が青年に頭を下げているのかといえば、彼の方が位は上だからだ。
そう言い聞かせている。
いや、実際そうなのだが。


「離脱許可が降りている。早くそいつらを連れて駐屯地へ戻れ。あとは我らに任せろ。」
「了解」


どうやら無線で小隊長から離脱許可の指示が聞こえていたようだ。
タイミング良く、敵の奇襲を受けそれが聞こえなかっただけらしい。
少佐が天の使徒に見える前に、退却しよう。


「ほら、捕まれ」
「...すみません」


私は被弾した味方を少佐の部下から受け取り、退却した。
心の中で国歌を歌いながら。


「平和の双翼、か」

コメント

  • 羽瀬川 こなん

    オデンさん→ありがとうございます!

    0
  • オデン

    ルンヘック少佐とてもかっこいいですね

    1
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