バミューダ・トリガー

梅雨姫

二十一幕 新設怪校

今日から、新設の怪校が開校(くどいようだが、洒落ではない)する。
再び開校生と過ごす時間がもうけられるのはとても喜ばしいことだが、ひとつ衝撃的な情報が入っている。
それは、行方をくらませていた怪校の高校生三年部の生徒の件だ。

彼らは、高校生三年部のみ・・・・・・・・で、ある組織・・を設立し、独自に活動しているという。

なぜ彼らは、俺たち怪校の生徒を置いて姿を消したのか。
なぜ彼らは、彼らのみの組織を結成したのか。
残された俺たちは、その理由を知る術をもたなかった。


―――――――――――――――――――――――――


俺は吹き抜ける冷たい風に身をさらしながら、川沿いに歩いていた。

もうすっかり秋も深まり、いっそ冬に分類したくなるほどの気温の低さに身震いする。
新設怪校までの距離は、大して遠くはない。確かに、警察署と共有で設けられていた時よりは通学に時間がかかるものの、以前より四、五分長く歩けばすむ程の話だ。

それより何より俺の心の中では、新設怪校が如何なる出来かを気にする思いが強かった。
今までの怪校は、空調こそ整ってはいたものの、ただ広い以外に取り柄がなかった。

この度の新設で、どれほど過ごしやすく設計されたのかという楽しみに心踊らせながら、軽い足取りで道を行った。


「・・・・・・え?」

さてさて、いざ新しい学び舎、新設怪校に来てみたのは良いものの、もの申すべき点があった。
瓦葺きの屋根を支える、太い木の柱。
頑丈そうな柱のわりには、体当たりで突破できそうな正面扉。

硝子窓に、障子の横開き戸が透けて見える。

それはどこからどう見ても、日本特有の建築方式の上に成り立った古民家だった。

「住所が間違ってたのかな・・・きっとそうだな、だって新設―」

「よお!輪人!」

「おはよう輪人くん!」

「早く入れよ!」

朝日のように輝かしい晴れやかな顔で、翔斗が俺を催促した。

俺の儚い希望は、親友二人によって消し炭と化したのだった。
俺は、放心状態から立ち直れぬまま、手を引かれて新設(?)怪校へと発登校を遂げた。


「いやぁ、俺らも最初は、まあビックリしたぜ!なんせ、吹けば飛びそうな造りしてんだからよ!な、諒太」

「ホントそうだよね、住所間違えたのかと思ったのは、輪人くんだけじゃないよ」

「そりゃあ良かったよ。俺の目が腐ったのかと思ったぜ・・・でも、入ってもみたが、改める余地なく、全くもって普通の古民家じゃねぇか?」

そう。

二人に連れられて入った新設古民家(もはやこう呼ぶしかない)は、どこからどう見ても、古きよき古民家に違いなかったのだ。

それを表現するには、元祖寺子屋、と言うのが最も適しているように感じた。

まあ、それはそれで、俺含め怪校生一同は勉学に励みやすいかもしれなかったのだが。
しかし見たところ、これから冬も近づくというのに、まともな暖房設備もないように見受けられる。
快適空間愛好家の俺としては心配である。

「あれ、そういえば、他の皆は?」

ここにきてやっと気付いた俺も俺だが。
今日は確かに、いつもより早めに家を出た。
しかし、もともと遅刻ぎみな俺だ。全校生徒で三番目に学校に着いた経験などあるはずもない。

「へっ、やっと気付いたか輪人」

「僕も笑っちゃいそうだったよ」

「え?」

二人が心底楽しげに笑うので、面食らってしまった。それにしても、何か隠し事をしているのだろうか。

それが、みんながいない理由と関係しているのならば、早急にご教授願いたい。

「フッフッフ・・・輪人、ここは怪校だぜ?地上はただのカモフラージェ・・・・・・・ってな!」

「それ、言うならカモフラージュだろ」

「それを言うならカモフラージュだよ」

事情を理解できていない俺でさえも、諒太より早く突っ込む。

「うっ?!うるせぇよ!」

赤面する翔斗が、しまったとばかりに反抗モードに入る。
だが、それよりも気になる・・・というかむしろこちらが本題である、地上はカモフラージュ、の一言が俺の頭を駆け巡る。

(地上がカモフラージュ・・・)

「・・・!ってことは・・・」

「あ、輪人くん気づいたみたいだね!そう、この古民家風の外見はカモフラージュで、新設怪校の本体は・・・」

諒太は一度言葉を切り、言った。




地下にあるんだよ・・・・・・・・!」




「おお・・・・・ってまたかよっ?!」


こうして、俺に納得されると共に落胆された可哀想な新設怪校は、開校を迎えた。




さて、これから、先程あからさまに落胆を表明してしまった事への償いに、新設怪校の良いところを紹介していこう思う。

まず、怪校生に課せられた「敵組織の無力化」を成し遂げるために、専用の訓練場が設けられている。以前の怪校のような何もない部屋ではなく、しっかりとした器具やサンドバッグや・・・サンドバッグがある。
次に、疲れを癒すための娯楽施設、通称リラックスエリアがあり、何を隠そう温泉もある。天然、とまではいかないが、それなりの広さも、サウナもあり、恐らく女子受けが良いだろう。
また、これらを十全に使用するために、空調も申し分ない。どういう仕組みかは解らないが、地上と変わらないほどにクリアなエアーが循環している。
そして、寮。両親や同居人のいない生徒は、以前にあったように敵襲のターゲットとされかねないため、生徒用の寮のシステムも完備されている。
最後にもうひとつ。
これまで紹介してきた施設は、全て揃えようとすれば土地面積を取りすぎてしまう。住宅地の近隣にそのような広大な土地が余っているはずはない。
要するに、新設怪校は、縦にフロアが分かれている。つまり、移動の主流はエレベーターとなるのだ。
怪校が、地下一階。
訓練場が、地下二階。
リラックスエリアが、地下三階。
そして生徒寮が、地下四階だ。
もちろん、緊急時に備えて各階には非常階段や非常食、シェルター等が内設されている。

もちろん、俺の評価も百八十度変わった。

「こりゃあ、さては、新設怪校かなりすげぇな!?」

こんな風に。



今、俺は怪校高校生二年部の教室にいる。
皆の安全と再会、その喜びを共有した。

さて、これから始まる学校生活。

根底の目的を果たすために、気を抜くわけにはいかない。一日一日を大切に、だ。

新たになる意志。地下のはずの教室に、少しだけ風が吹いた気がした。











無駄に広く、極端に暗い。
そんな部屋に、男たちはいた。
総勢、30名。
迫間 喋悲さこま ちょうひを筆頭にした、「双蛇の輪デュアルスネイク」の構成員だ。

「・・・永井くん、調査の方は?」

口を開いた喋悲に、横に控えた男が反応する。

「問題なく。彼らは再び、地下に本拠地を構えました」

「なるほど・・・・・・厄魔の精霊・・・・・の方は?」

「やつらは未だ、我々のことを同胞だと信じています・・・」

「そうか、ならいい。・・・俺たちにとって、この一件は賭けになるぞ」

喋悲の言葉に、29名が頷く。

「神河輪人を・・・「双蛇の輪」の・・・「人々」の希望を、絶対に逃すな。その身を挺して捕らえろ」


「「「はっ!」」」





物語が動く。

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