バミューダ・トリガー
十一幕 能力検定
一体、何が起きていると言うのだろうか。
明日香は、確かに襲撃者・逸にその胸を貫かれ、命を落とした。
しかし戦いの最中、明日香の指が動いたように見え、俺は希望を抱いた。
その明日香が今は、どういう訳か立ちあがり、歩き、椅子を降り下ろし、そして俺に問いを投げかけている。
「私、何で、?」
「・・・ごめん、分からねぇ」
―――――――――――――――――――――――
それから何があったのかを、これから説明する。のだが、正直俺も、明日香が無事であった理由が気になりすぎて、詳しくは覚えていないので、そこのところは容赦をよろしくお願いしたい。
まず、明日香の母親の事だ。幸い彼女は、グローブを用いた刃で攻撃されたのではなかったため、気絶をしていただけであった。
一応病院には運ばれたものの、次の日には退院できた。
そして、二人目の襲撃者「千葉 逸」は、「代市 冬」の時とは違い、身柄を拘束することに成功した。今は、怪校と同じく警察署の地下にある、対能力者の牢屋に捕らえてある。
ちなみに監守の一人に、一体牢屋のどこが「対能力者」なのかと聞いたところ、
「普通の牢屋より、鉄柵が太いんだよ!」
と言われた。
正直心配ではあるが、逸のグローブは取り上げられているので、まあ大丈夫だろう。
押収したグローブは、警察内で対能力者役に分担された「特別治安部」と呼ばれる部隊で研究をするらしい。
研究結果次第では、襲撃者の事について何か解るかもしれないので、期待しておくことにする。
そして、今。
明日香の襲撃から二日が経ち、落ち着いたところで、高校生二年部のメンバーを集め、情報交換兼、注意喚起を行うことにした。
突然呼び出したにも関わらず、クラスメイトは全員集合してくれた。
これまでに起きた二度の襲撃の事は、すでに皆の耳に入っている。
だが、実体験を交えて話した方が、詳しく伝えられる。その上、クラスの結束も高められるという、明日香考案の、一石二鳥でナイスな企画であった。
「夏休み真っ最中だってのに皆に集まってもらったのは、他でもなく、謎の襲撃について話すためだ」
俺は定石通りの言葉を並べて話を始めた。
クラスの皆も、静かに話を聞く気になってくれているようだ。
「これから、実体験に基づいて、襲撃において危険であると思われることをいくつか話す。今後、誰かが襲撃される可能性も十分にある。どうか、予防線や対策として、役立ててくれ」
―――――――――――――――――――――――――
俺は、注意すべき事を丁寧に細かく伝えた。
襲撃のタイミングは予測できないこと。
突然襲われる場合と、インターホンを押して乗り込んでくる場合があったこと。
襲撃者は、グローブを着用しており、そこに宿った黒いエネルギーを駆使して攻撃してくること。
エネルギーをそのまま飛ばすパターンと、エネルギーに形を与え、武器に変換するパターンがあったこと。
襲撃者は、俺たちとだいたい同じ年齢であると思われること。
彼らが俺たちを、「能力者」と呼んでいたこと。
さらに話を続けた。
俺と翔斗が、「能力」と思われる技を行使したこと。
明日香の奇跡的な回復も、その一種であると思われること。
《バミューダ》を体験し、《トリガー》をもつ生徒全員に、能力を使える可能性があること。
能力は、《バミューダ》が起きる直前に願ったことに依存すると思われること。
能力を使うことが出来れば、襲撃者を退けられる可能性があること。
「ふむ・・・なあ」
全て話終えた所で、普段はあまり喋らない加賀 秋仁が手を挙げた。
「ん?どうした、秋仁」
「その能力ってのは、練習すれば使えるようになるのか?」
「えっ?」
盲点であった。
(確かにそれは気になる・・・)
そこでさらに、活発系女子の雲雀 鈴から声がかけられる。
「じゃあさ、皆でその能力ってのを使えないか、試してみない?」
幸い今は夏休み。時間ならある。そして、試す価値も、大いにあった。
俺を含めて男子陣は、「能力」という言葉の響きに胸を踊らせ参加を即決した。
そして女子もまた、自分の身を守ることに繋がるとなると、参加しない人は一人もいなかった。
しかし、そのためには場所が必要であった。当然、一般の人の目に触れてはいけない。
そのため俺たちは、普段は俺たちに全教科の授業をしており、警察署の特別治安部に所属している永井先生に相談をしてみることにした。
「永井先生に、相談があります」
「ま、また急だね?」
「すみません。でも、重要な事なんです」
俺は、丁寧に主旨を説明した。
先生も、俺たちの身の安全に関わるということで、協力をしてくれることとなった。
先生の話によると、何と、地下に訓練用の施設があるらしく、そこを特別に借りることができたらしい。
(((警察署の地下凄すぎだろ・・・!)))
これは、高校生二年部の総意見である。
また先生は、能力の覚醒に関する事ならば怪校の生徒全員に伝えるべきだ、ということで、高校生二年部以外の生徒にも、この事を伝えた。
余談だが、高校生三年部の生徒は、全員が能力の覚醒を終えているらしく、特別治安部によって能力の根源の研究が行われているらしい。
俺たちにその事が伝えられなかった理由は、能力の覚醒に失敗すると、《バミューダ》を再発する可能性があったからである。
しかし、これまでの襲撃において、俺と翔斗、そして明日香が、《バミューダ》を引き起こすことなく能力を発現したことで、安全に覚醒できる確率が高いと判断された。
そのため、今回の試みに許可がおりたのだ。
ここで耳寄りな情報が得られた。それは、高校生三年部の生徒は、誰一人襲撃にあったことがなく、時の経過とともに自然に記憶を呼び覚まし、能力を覚醒させたという。
つまるところ―
「俺たちの中から、能力を使えるようになる生徒がでる可能性は、高いってことか」
「そうと決まれば話は早いね、輪人君!」
「輪人!俺たちにも手助け出来ることがあるはずだよな!」
「ああ、きっと」
「神河君、早く始めようよ!」
二年部の皆(主に男子)が熱く意気込みをあらわにし始めた。
そして今日、怪校にて「能力検定」と銘打った、能力発現プロジェクトが始まる。
全ての生徒の希望に繋がる
全ての生徒による試みだ
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