久遠

メイキングウィザード

第33話 たとえ何があっても僕が


 血に塗れた祭はまるで赤い化粧でおめかししているように見えた。
 直江は半月前のことを思い出す。
 
 夜の街で人間相手に赤血刀を振るう彼女を偶然見てしまった。
 人を殺め、そしてゆらゆらと幽鬼のように現場を去るその姿を。
 直江はそんな彼女に声をかけた。

 自分が殺されるかもしれないという思いがなかったわけではない。
 だがそんなことよりも祭のことが心配だった。
 彼女に意識はなく、声をかけてから初めて目が覚めたというような状態。

「……直江……?」

 彼女の声を聞いたとき、直江は思った。

 ……僕が守ってやらないと……。

 どうして彼女が人を殺したんだ?なんていう疑問は消えた。そんなこと直江には関係なかった。なぜ彼女が無意識の状態で人を殺すのか理由はわからない。
 もちろん人殺しはいけないことだ。けれど彼女が人を殺すなら僕がその罪を隠してやる。
 例え何人死のうと構わない。
 全て隠蔽してやる。

 幸いにも祭は直江が声をかけた直後に再び意識を失った。
 彼女をひとまず安全な場所で寝かせる。
 問題なのは凶器だ。下手に捨てて見つかった場合、警察だけでなく本局に目をつけられてしまうのが恐ろしかった。
 正直正しい処分の方法がわからなかった。
 だから特捜隊のロッカーに入れておくことでこれを特捜隊の問題として他のメンバーと共有したかったのだ。
 もちろん真実を知る者は直江のみ。

 四ノ宮が赤血刀を未使用のままロッカーにいれてあることは把握していた。
 自分たちが疑われないように、四ノ宮の刀をとってこれを祭のものとしてメンバー達に証言しようと考えた。 
 普通の状態ならこんな浅はかな方法でいつまでも騙し通せるとは思はなかっただろう。
 でも必死だった直江にそこまで頭は回らない。
 二度目の殺人の時も直江が必死に隠した。

 でもこれはもう無理だ。隠しきれない。
 夜の街が血で彩られる。
 祭の手によって10人以上もの人間が死んだ。
 血の海の中で一人、彼女は刀を持って立ち尽くす。

「祭ちゃん……」

 直江が彼女に近づく。四ノ宮がそれを制止しようとしたが彼は止まらなかった。
 祭の頬には青い筋が浮かび上がり、直江に向けた目も青一色に染まっている。
 嫌な感じがした。

「下がれ!直江くん!」

 祭の振るった刃を四ノ宮の我写髑髏が止めた。
 彼女の靴から刃が飛び出し、殺傷能力のある蹴りが放たれる。
 それは四ノ宮の胸へとまっすぐ向かい、次の瞬間衝撃を受けた彼は地面に倒れた。
 我写髑髏から召還された小さい骸骨が身を犠牲に彼の盾となっていたおかげで心臓が貫かれることはなかったがそれでも蹴りによるダメージは大きい。四ノ宮は地面で胸を抑えて呻く。
 そんな彼にとどめをさそうと祭は刃を振り上げる。

 だが一人の男が彼女に組みついて地面に引き倒した。
 吾郎が胸に刺し傷があるにも関わらず起き上がって彼女を止めたのだ。
 だが傷の痛みで力が緩んだのだろう、祭はするりと彼の拘束から抜け出て立ち上がる。

「祭ちゃん!」

 直江が名前を呼ぶと彼女がピタリと動きを止める。
 そんな彼女を直江は抱きしめた。

「もうやめよう……もう……だめだよ……」

 だがそんな言葉で彼女の殺意はおさまらない。
 祭が直江を押しとばす。
 その刃を再び血で染めるために。
 だが彼女は直後、バタリと地面に倒れる。
 その背中には斬撃を受けた痕が残っていた。

「……祭ちゃん?」

 すぐに直江がかけよる。
 彼女の息はか細く、今にも死んでしまいそうだった。

「お前を慕っていたのだな」

 祭を切ったハンターが直江に近づく。
 離れたところに純血の吸血鬼が倒れている。その首はない。

「お前に意識が集中していた。でなければ切れなかっただろうな」

 鳴華だ。シルヴィアによって洗脳されていたはずの彼女が、なぜかシルヴィアを殺害して意識を取り戻していた。

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