久遠

メイキングウィザード

第31話 VS四ノ宮


 我写髑髏がいともたやすく木を切断する。
 
なんという切れ味だ。
 バンピールによってその力を抑えられていたはずだというのに、今や本来の力を取り戻しそれどころかその刃に宿る妖力とも呼べる力が過剰強化されている。
 直江は振るわれる刃を必死に避けて行く。

「ほらほらほらあ!どうしたのさ直江くん!反撃してきなよ!」

 隙を見て直江がポケットからナイフを取り出す。
 何かあった時のために非常用として持っていたものだ。
 しかし出した刃はまるで棒切れのようにパキンと折れ飛ぶ。

「四ノ宮……お前洗脳されてるのか……?」
「洗脳?何のことかわからないねえ」

 四ノ宮が首をかしげる。
 その目はちゃんと直江を見据えていた。
 シルヴィアによって操られているわけではない。
 これは自らの意志によるものなのだ。

「じゃあどうして……」
「おいおい。どうしてだなんて、わかりきったことを聞かないでくれよ。ここには殺人鬼とその獲物がいるんだぜ?」

 四ノ宮が刀を振り上げる。

「ジェイソンと仲良くおしゃべりするシーンを君は映画で見たことがあるのかい?」

 そんな彼を突如茂みから現れた人物が抑える。
 刀の持ち手を掴んでいるのは吾郎だ。

「やめろ四ノ宮!なにやってんのかわかってんのかよ!」
「離せ!」

 必死に四ノ宮は抗おうとするが吾郎の強い腕力には敵わない。
 四ノ宮が足に力をこめる。刀が妖しい光を放ち、刀身に文字が浮かび上がった。
 その文字が四ノ宮の体を伝い、足を通って地面に降り立つ。そして文字達が地面に円を描きその中心から何体もの小さな骸骨が出現する。骸骨たちに飛びかかられた吾郎は驚いて地面に倒れ、そのまま大量の骸骨たちに押さえつけられる。

「僕には許せないことがある」

 改めて四ノ宮は刀を直江に向ける。

「僕は命を奪うことが好きだ。でもそれがいけないことだと……やってはいけないことだということを僕は理解している……」

 直江は眉をひそめる。
 いまいち四ノ宮の言いたいことがわからない。

 ……まさかこいつ……。

「だからね。それを平気で破る君のような殺人鬼が羨ましくて同時に心底むかつくんだよ。直江くん」

「……え?」

「とぼけるのはよしてくれよ。最初の殺人に使われた僕の赤血刀。あれを使えたのは、僕と君しかいないんだ。刀の入っていたロッカーの暗証番号を知るのは僕と、それをメールで伝えた君だけだろ?」

「いいかげんにしろ四ノ宮!」と骸骨に押さえつけられていた吾郎が叫ぶ。

「証拠もないのに仲間を疑うんじゃねえ!」
「それだけじゃないさ!二人目の犠牲者が出た日の夜も僕は直江くんを見つけたんだ!現場のすぐ近くでね!」

 四ノ宮は連続殺人事件の犯人ではなかった。
 彼は直江を犯人だと思い、このような行動に出たのだ。
 ジェイソン云々の話も全て直江が殺人鬼と仮定しての話だったのだろう。
 口ぶりからして吾郎も四ノ宮の直江に対する疑いは知っていたみたいだ。
 だがこのような強硬な手段に出るとまでは予想しきっていなかった。

「なんかの間違いだろ!直江は殺人鬼なんかじゃねえ!なあそうだろ!」

 だが吾郎の問いかけに直江は視線をそらす。

「な……あ、ありえねえよ。嘘だろ直江。俺は知ってるぞ!お前が俺達を裏切るような真似するはずがねえって!なんたってお前を特捜隊に誘ったのはこの俺だからな!」 

 吾郎の記憶に浮かんでくるのは一年も前の映像。
 直江を初めて見た時、吾郎は一瞬で彼の心境がわかった。
 退屈していて、かといって何か行動する度胸を持ち合わせておらず、ただ今という時間を貪って生きている。

 それはかつての自分の姿と重なったからかもしれない
 死霊に襲われ、それを通りすがりの滅鬼師に助けられるという衝撃的な出来事を経験していて、それが吾郎の滅鬼師を目指すきっかけでもあった。あの時自分を助けた滅鬼師のようにいつか自分も人を救い、誰かに憧れるような存在になりたい。それが吾郎の夢だった。

 でもそれ以前の自分といえば非常につまらない存在だったと吾郎は自分自身をそう思っている。
 夢もなく、先のことなど何も考えず、ただ今遊べればそれでいい。こんな日常がいつまでも続くわけないとわかってはいるけれど、そんなことは考えなくていいと目を背けていた思っていた昔の自分。

 そんな自分だからこそ直江に親近感がわいて声をかけた。
 今でも直江は裏切ることのない仲間だと信じている。
 だが目の前の彼はそんな吾郎と一切目を合わせず、両手をギュッと握りしめていた。
 四ノ宮が直江の首元に刀を当てる。

「聞こう。君が二人もの人間を殺したのかい?」

 その問いかけに直江が絞り出したような声を出す。

「………そうだ」
「嘘だ!!」

 吾郎が叫ぶ。

「……嘘じゃない。僕がロッカーを開けて四ノ宮の赤血刀であの二人を殺した……」
「んなわけあるかよ!信じられっか!もう一年以上の付き合いだぞ!人殺しならすぐにわかる!直江は誰も殺してねえ!」
「殺したんだよ!僕が殺した!二人とも後ろから頭を殴って殺した!」
「嘘つくなよ!」

 四ノ宮が刀を下ろす。

「ああ、嘘だろうね。これではっきりした。直江くんは犯人じゃない」

 その言葉に直江の喉が上下に動く。動揺して唾を飲みこんだのだ。

「二人目は背後からの刺殺だよ」
「……間違えただけだ」

 今にも泣きそうな直江の顔を見て、四ノ宮は告げる。

「何より、もし僕が人を殺したなら今そんな悲しい顔はしない」

 それは自らの犯行が露見してしまったというより、まるで誰かを守れなかったというような表情だ。

 直江は真なる事実を隠していた。
「まさか……」と四ノ宮がそれに気づく。
 連続殺人事件の犯人は―――。

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