久遠

メイキングウィザード

第22話 その赤血刀は血で染まり


 事態は収束した。

 カテゴリー3の重装悪鬼兵を単独で、なおかつ一月に二体も討伐した祭はその功績を讃えられて、何らかの理由で停止中だった滅鬼師の資格は停止解除とされた。

 吾郎、四ノ宮両名も同時刻にそれぞれ大量の死霊と交戦、それを殲滅。吾郎にいたっては巻きこまれた一般人多数の救助も同時におこなったことから見習いで初の銀狼賞受賞者に選ばれた。

 銀狼賞とは滅鬼師の中でも特にめざましい功績をあげたものに与えられるもので、もちろんこれは彼のプロに上がるための試験の際に考慮されるだろう。

 四ノ宮はそれに対して「そもそも一般人を巻きこんでしまった時点でアウトだと思うねっ!」とひがんでいたが、より修練に力を入れて次こそはプロになろうと力を入れているようだ。

 そして………………僕はなんだ。

 直江は道しるべを失いかけていた。

 もちろん功績を讃えられていないという点に関しては四ノ宮と同じだが、そもそも直江は今回何もしていなかった。ただ傍観していただけ。それも裏切り者として。

 僕はハンターでもない……かといって吸血鬼の仲間としてバンピールの言うことも聞けなかった。

 僕は何がしたいんだ。僕は――――。







 バキャッと音がした

それはある日の夜。


 まるで西瓜が割れたような音がした。
 背後から頭部に一撃を喰らって、酔っ払いの男がよろめく。

「あ?」

 夜道に後ろから襲われたのだ。そして頭から流血もしている。本来なら逃げるのが正解だ。だが男はアルコールが回っているせいか正常な判断ができていない。

「おいおまえ……あ、あぶねえだろそんなもん……振り回して怪我でもしたらどうす……」

 刹那、男の顔面にそれが直撃した。
 自分を襲った相手に説教を足れようとした男はそのまま意識を失い地面に伏す。

 そんな彼の後頭部を再び凶器が襲う。

 何度も、何度も、何度も。

 辺りは真っ赤な血の海が広がった。
 その中に一人黒いローブを身にまとった者が立っている。
 見るも無惨な姿になった男をそのままにして、そいつは去る。

 ガガガッ、ガガッ。

 凶器を引きずる音が闇の中で響いた。










「いやあ〜。素振り2千回も慣れて来たし、今度からプール借りて水中で息せずに素振り500回でもやってみるか〜」

 とんでもないトレーニングメニューを語りながら吾郎が特捜隊の部屋に入ってくる。
 時刻は夕方の午後5時を過ぎたところだ。
 窓からはオレンジ色の光が射しこみ生徒の下校時刻まであと一時間ほどというところだ。

 部屋の中には四ノ宮がいる。
 何やら大量の紙に『気合』という文字を書き散らかしていた。

「おまえ……何やってんの?」
「こうやって気合いを文字にすることによって、メンタル力を高めているのさ」

 もちろんこれは四ノ宮家に伝わる秘術でも何でもない。
 墨汁を筆につけてダイナミックに書いているが何の効果もない。

「これが僕なりの修行さ」
「お前さあ、もっと筋肉いじめて身体能力あげろよお」

 そう言って部屋に置いていた鞄から水筒を取り出すとそこにプロテインの粉を入れてシャカシャカと振る。

「吾郎くんのような筋肉おばけにこのメンタルトレーニングの重要さはわからな……」

 吾郎に体を向けた四ノ宮が墨汁の瓶に肘を当てて倒してしまう。
 慌てて四ノ宮が瓶を元に戻すが机は墨汁にまみれ、さらに机からこぼれて黒い液体が地面に広がっていく。
 おいおいと吾郎が近くの掃除ロッカーに手をかける。

 だが彼が出そうとしたバケツと雑巾はロッカーの中ではなくその上に乗っている。
 それに気づかず開かれたロッカーの中からそれは出てきた。

 一本の赤血刀。

 吾郎がロッカーを開けた瞬間刀は倒れて、広がる墨汁に向かって落ちていく。
 パシャリと墨汁が飛び散った。

「………なんだよこれ」

 その刀は鞘に納まらずに、抜き身のままだった。そしてその刃にはベットリと血が付着している。
 二人の携帯が同時に鳴った。
 本局からの連絡だ。

『当地域で殺人事件発生。異形との関係の有無を調査するように』

 摸造刀についた血の赤と墨汁の黒が混ざり合う。新しくできた色はまるで混沌を表しているかのようなものだった。


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